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フェルデンツ伯爵家の檻~エレナとシャルロットの解放~  作者: 春告草


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四歳の誕生パーティー

きらびやかなシャンデリアの光が、ロバート・フォン・フェルデンツ伯爵邸の大広間をまばゆく彩っている。

今日は、四歳を迎えたエレナの誕生パーティーだ。

魔法仕掛けの噴水からは水が上がり、貴族たちが杯を交わしている。

美しい母エリザベスに似ていると周囲から微笑みかけられる。

今日の為に仕立てたドレスの裾をつまみ特等席に座っていた。


病弱な母エリザベスはめったに公の場に出てこない。

エレナにとっては優しく、大切に育ててくれる自慢の母だった。

もっとも、赤ん坊の頃をあやしてくれたのは、優しく温かな腕の中の乳母だった。

その頃から視界には、誰も気づかない不思議な光の玉がいつも寄り添うように舞っていた。

乳母に抱かれながらその光を追いかけるのが、彼女の幼い頃の日常だった。


少し離れた窓辺で、エレナが小さな指先を遊ばせる。

周囲には誰にも見えない光の玉が踊っている。

「おめでとう、エレナ」

人知れず耳元でささやくのは、小さな羽を持った妖精たちだ。

華やかなお城のような屋敷のなかで、小さな秘密の遊び相手だった。


だが、華やかな光景の裏で、エレナの胸の奥に小さな影がよぎることがある。

いつだったか好奇心から広大な屋敷の奥へ迷い込み、遠目から目撃してしまった光景だった。

屋敷の端にある吹きさらしの納屋のそば。

そこで泥にまみれ、冷たい井戸水で最下層の仕事をさせられている使用人たちの姿。

その中には、すすけた服をまとった一人の女性がいた。

名前も知らない、あの人は誰なのだろうか。

その女性と自分がどうこうだなんて、微塵も思っていない。

働き続ける人々の冷え切った瞳。

時折この温かなお城のような日常のなかでトゲのようにチクリと胸を刺すのだ


宴がたけなわを迎えたころ、音楽に合わせて小さなフロアへエスコートされた。

手を取ったのは、家格を釣り合わせるために決められた、彼女の婚約者の少年だった。

まだあどけない顔をした少年と、エレナはステップを踏む。

「おめでとう、エレナ」

少年の言葉に、微笑み返した。

お母様の娘として、この家を支え未来の当主の妻となる。

それが自分の未来なのだと信じていた。


ダンスが終わると、会場の中心に父が進み出た。

伯爵家の威信を示すように、ロバートが右手をあげると大広間の空気が引き締まる。

彼の指先から放たれた高位の魔法により、炎をまとう竜が現れる。

見事な魔法の演出に、貴族たちから惜しみない歓声と拍手が送られる。

エレナもお父様はすごいと、誇らしげにその背中を見つめていた。

永遠にこの栄華と気高さの中にあるのだ。

誰もが信じて疑わない瞬間だった。


幸福なパーティーの夜、音を立てて揺らぎ始める。


楽団の演奏がピタリと止まり、大広間の視線が一点に集まった。

そこには、普段は部屋にこりがちなエリザベスの姿があった。

夫であるロバートに寄り添う。

彼女の顔は青白いが、瞳には強い光が宿っていた。

伯爵がグラスを掲げ低く通る声で告げた。


「皆様にもう一つの吉報がある。エリザベスに新しい命が宿った」


瞬間、広間を包んでいた空気が凍りついたように静まった。

エレナは目を丸くする。

弟か妹ができるんだと喜んだ。

けれど、大人の様子がおかしいことに気がつく。


たった一人の愛娘として、どこか腫れ物に触るようにとても大切に扱われてきた。

エレナに向ける周囲の目が、一斉に変わった。

遠巻きに見つめる使用人たちの瞳に侮蔑の色が浮かんでいる。

冷酷な嘲笑と、何かを値踏みするような薄ら寒い光だった。


エレナの指先で光っていた妖精の羽音が、ぴたりと止まる。

自分が信じていた温かな世界に、冷たい隙間風が吹き込み始めていた。


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