表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷河期世代の生き残り 飯チャージして生き残り続ける  作者: あそん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

済州島から来た奥さんのユッケジャンクッパ

行きつけの店は「素の自分に戻れる場所」だと言う人もいるけれど、私にとって一人で行く食事は、「そこでだけは、少しは“マシな状態”の自分でいられる場所」だった。

同僚に会うのは嫌だから、会社から離れた場所にある、ひっそりとした店を探す。入口の様子をうかがっては、怖々と扉を開け、「一人なんですけど」と声を出す。会社で「何もできない人」と言われていた自分にとって、一人でお店に入るという行動は、ささやかな自己肯定感をくれるものだった。


その日入ったのは、赤い提灯がぶら下がる韓国料理の店だった。

夜は居酒屋営業がメインなのだろう。ランチタイムの客は私ひとり。四人掛けのテーブルが二つと、あとはカウンターだけの小さな店だ。少しカタコトで派手なメイクの奥さんと、寡黙そうな旦那さんがいる。料理を作っているのは、どうやら奥さんのほうだった。


おすすめを聞くと、「ユッケジャンクッパ」と返ってきた。

ご飯かうどんか選べるというので、メニューを見ながら少し悩んでいると、奥さんがこちらの顔を見て、ズケズケと言う。


「アナタ。疲れた顔しているから絶対ご飯よ」


選択の余地はなかった。強制的に、ご飯になった。


大きなジャーから、思っていたよりたっぷりの白いご飯がよそわれる。

寸胴鍋から、ぐつぐつ煮えた赤いスープが勢いよくかけられ、カウンター越しに湯気が押し寄せてくる。普段あまり口にしないゼンマイと、細切りのさやいんげんがたくさん浮かんでいるのが見えた。


「いただきます」と小さくつぶやいて、平たいスプーンでスープをひと口すくう。

にんにくの香りと、濃い牛骨のだしが、じわっと胃の奥に沈んでいく。二口、三口とご飯をかきこむうちに、頭のてっぺんから毛穴がひとつずつ開いていくような感覚がして、汗がじわりと噴き出してきた。


奥さんの見立てどおり、私はたぶん、相当疲れていたのだ。


どういう流れでそんな話になったのかは、もうよく覚えていない。

ただ、食後に奥さんから「やりたくないことをさせられそうになったら、言葉が分からないふりをしておけばいいのよ」とアドバイスをもらい、その言葉を胸に会社に戻ったことだけは、はっきりと覚えている。


際限なく振られる仕事にきつきつだった私には、そのユッケジャンクッパは、食事以上の栄養をくれたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ