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第三十四章(最終章):明日への絆

新宿の裏通り。


スナック「ろくでなし」


店内は、賑やかな笑い声で満ちていた。真秀たち強行犯捜査第三係のメンバーが、カウンターや座敷に座っている。花山七之助、夢見桜花、弓山美怜。


そして――


機動隊特殊制圧班の桃源信之と巽陸も、一緒だった。


事件の打ち上げ。


甲本隆の犠牲によって、エイリアンは倒された。その労をねぎらうための、宴会だった。


「かんぱーい!」


全員で、ジョッキを掲げた。ビールが、喉を潤す。


「いやあ、終わりましたね……」


花山が、ほっとした顔で言った。


「本当に、長かったですね」


夢見も頷いた。


巽は、すでに酔っていた。カウンターに突っ伏して、メソメソと泣いている。


「甲本さん……いい人だったのに……うう……」


巽の泣き声。


「はいはい、巽さん。メソメソするなって」


カウンターの向こうから、店員のかなえが呆れた声で言った。


「男でしょ?もっとシャキッとしなさいよ」


「うう……でも……」


「はい、水。飲んで」


かなえが、コップを差し出した。


巽が、しょんぼりと水を飲む。


奥のボックスでは――


夢見と花山が、カラオケで盛り上がっていた。


「♪君がいるだけで〜心が強くなれること〜」


夢見が、マイクを握って熱唱している。花山も、タンバリンを叩きながら一緒に歌っている。


「夢見、上手いですね!」


「でしょ〜!」


夢見が、得意げに笑った。


カウンターの端では――


弓山が、ドリアンママに恋愛相談をしていた。


「それでね、ママ。やっぱり私、諦めた方がいいのかな……」


弓山が、しょんぼりとした顔で言った。


「あら、何言ってるの」


ドリアンママが、優しく笑った。


「恋に諦めなんてないわよ」


「でも……」


「大丈夫よ、美怜ちゃん。あなたは可愛いんだから」


ママが、弓山の頭を撫でた。


「自信を持ちなさい」


「ママ……」


弓山の目が、潤んだ。


だが――


そんな賑やかな雰囲気の中で。真秀だけは、カウンターの隅で黙って座っていた。グラスの水割りを、じっと見つめている。


楽しそうにしているメンバーをよそに、真秀は考え込んでいた。事件は、まだ終わっていない。


芹沢幸次郎は、死の直前に言った。


「別の人物によって、また作られます」


その人物が、誰なのか。芹沢のバックにいた黒幕は、誰なのか。


そして――


芹沢は、本当にアナフィラキシーショックで死んだのか。


それとも――


口封じのために、殺されたのか。真秀の思考が、ぐるぐると回っていた。


「よう、真田」


声がかかった。


振り返ると、桃源が立っていた。


「悩んでるな」


桃源が、真秀の隣に座った。


「分かる?」


「当たり前だろ」


桃源が笑った。


「お前の顔、見りゃ分かるさ」


桃源が、自分のビールを一口飲んだ。


「芹沢のことか?」


「ええ……」


真秀が頷いた。


「まだ、終わってない気がするの」


「そうかもな」


桃源が答えた。


「でも、悩んでも仕方ないだろ」


桃源が真秀を見た。


「犯罪が発生すれば、また俺たちが立ち向かう。それだけだ」


桃源の目が、真っ直ぐに真秀を見つめた。


「お前は、諦めない女だ。次の困難も、絶対に乗り越えられる」


真秀は、桃源を見た。


その言葉に、少し救われた気がした。


「ありがとう……」


真秀が小さく笑った。


「ただ――」


桃源が、真秀の顔を覗き込んだ。


「そんな難しい顔してたら、嫁の貰い手が無くなるぞ」


真秀の表情が、一変した。


「はぁ?」


「いや、だから――」


「あんたねぇぇぇっ!!」


真秀が、桃源を睨んだ。


「せっかくいい雰囲気だったのに台無しよ!!大体あんた何なのよその無神経さ!!少しは空気読みなさいよこの脳筋ゴリラ!!しかもあんたこそ独身でしょうが!!人のこと言えた義理か!!大体あんたみたいな脳筋ばっかり周りにいるから私の目が肥えちゃって普通の男じゃ満足できなくなってんのよ!!責任取りなさいよ!!」


真秀が、一気にまくし立てた。桃源の目が、潤んでいる。


「ひ、酷いじゃないか……責任取れって言われても……」


「うるさい!」


真秀が、桃源の頭を叩いた。


カウンターの向こうで、ドリアンママが笑っている。


「相変わらずねぇ、二人とも」


だが――


真秀の怒りは、すぐに収まった。そして、小さく笑った。


「でも……ありがとう」


真秀が、桃源を見た。


「励ましてくれて」


桃源が、頭をさすりながら笑った。


「気にするな。それが、友達ってもんだろ」


真秀は、店内を見渡した。


花山と夢見が、カラオケで盛り上がっている。


巽が、かなえに慰められている。


弓山が、ママと笑い合っている。


みんな、楽しそうだ。


「よし」


真秀が立ち上がった。


「私も、カラオケ歌うぞー!」


「おお、真田が歌うのか!」


桃源が驚いた。真秀は、カラオケのリモコンを手に取った。


そして――


曲を選んだ。


イントロが流れる。


幸子ママの十八番。


「♪ろくでなし〜あんたはろくでなし〜」


真秀が歌い始めた。


「おお、真田!」


桃源が笑った。


「それ、ママの歌じゃないか!」


「♪それでもあんたが好きなのよ〜」


真秀が、笑いながら歌う。


「係長、上手いです〜!」


弓山が拍手した。花山も、夢見も、一緒に歌い始めた。店内が、一つになった。


歌が終わり――


真秀は、みんなの笑顔を見た。


このメンバーなら、次の困難も乗り越えていける。真秀は、そう感じた。


その時――


真秀の携帯が鳴った。


画面を見ると、「母」と表示されている。


真秀は、少し離れた場所に移動して電話に出た。


「もしもし、お母さん?」


「真秀、お疲れ様」


母の優しい声が聞こえた。


「年末年始の帰省だけど、どう?帰ってこれそう?」


真秀は、店内の賑やかな様子を見た。


「ごめん、お母さん。今年は忙しいから、帰省は遅れそう」


「そう……残念ね」


母が、少ししょんぼりとした声で言った。


だが――


すぐに明るくなった。


「でも、真秀の声、明るそうね。元気そうで良かった」


母が、安心した口調で続けた。


「仕事が落ち着いたら、いつでも来ていいからね」


「うん、ありがとう」


真秀が微笑んだ。


「あ、そうだ」


母が思い出したように言った。


「桃源くん、元気にしてる?」


真秀が、桃源の方を見た。


桃源は、巽と一緒にバカ騒ぎしている。


「元気すぎて困るくらいだわ」


真秀が、毒づいた。


「あら、そう」


母が笑った。


「いい子よねぇ、桃源くん。また遊びに来てくれるといいわ」


その時――


桃源が、真秀の電話に気づいた。


「おっ、真田、誰と電話してんだ?」


桃源が近づいてくる。


「ちょっと、来ないで――」


だが、桃源は真秀のスマホを奪い取った。


「もしもし!真田のお母さん?」


「こら、返しなさい!」


真秀が桃源に飛びかかる。だが、桃源は真秀を片手で制しながら、電話を続けた。


「この前はありがとうございました!また手料理食べさせてください!」


電話の向こうから、母の笑い声が聞こえた。


「あら、桃源くん。元気そうね」


「はい!元気です!」


桃源が満面の笑みで答えた。


「返しなさいって言ってるでしょ!!」


真秀が、桃源の腕を引っ張る。


「あはははは」


電話の向こうで、母が楽しそうに笑っている。


「真秀、いい友達がいて良かったわね」


「お母さん、違うの、こいつはただの――」


「じゃあね、真秀。また連絡してね」


「お母さん!」


電話が切れた。真秀は、桃源からスマホを取り返した。


「あんた……」


真秀が、ジト目で桃源を見た。


「何だよ」


桃源が、けろっとした顔で言った。


「お母さん、喜んでたぞ」


「うるさい!」


真秀が、桃源の頭を叩いた。


「痛っ!」


桃源が頭を押さえる。だが、二人とも笑っていた。


店内は、再び賑やかになった。


花山と夢見が、カラオケで熱唱している。弓山が、ママと恋愛トークを続けている。巽が、かなえに絡んでいる。


そして――


真秀と桃源が、笑い合っている。


ドリアンママが、カウンターの向こうから微笑んでいた。


「いい仲間ねぇ」


ママが、同じく打ち上げに参加していた沖さんに話しかけた。沖さんが、黙って頷いた。


夜は、更けていく。


だが、この温かい時間は、まだ続いていた。


真秀は、グラスを手に取った。


そして――


心の中で、呟いた。


「甲本さん、あなたの想いは無駄じゃなかった」


真秀が、窓の外を見た。冬の夜空に、星が瞬いている。


「次の困難が来ても、私たちは負けない」


真秀の目に、静かな決意が宿っていた。


そして――


この物語は、ひとまず幕を閉じる。


だが――


真秀たちの戦いは、まだ終わらない。新たな敵が、闇の中で動き始めている。


そして――


次の事件が、もうすぐやってくる。


だが、それはまた別の物語。


今夜は――


仲間たちとの、温かい時間を楽しもう。真秀は、グラスを掲げた。


「みんな、お疲れ様!」


「お疲れ様でーす!」


全員の声が、揃った。


グラスが、カチンと触れ合った。

スナック「ドリアン」の夜は――


こうして、楽しく更けていった。


【完】

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