第十一章:鋼鉄の咆哮
真秀は、自動小銃を構えながら、数時間前のことを思い出していた。
警視庁本部。
真秀たちは、ビーストのメンバー監視のために出発しようとしていた。
「真田係長」
声がかかった。
振り返ると、そこに立っていたのは権藤希典だった。
五十八歳。機動捜査隊の隊長で、退職を間近に控えている。
白髪交じりの短髪。日焼けした精悍な顔に、無数の皺が刻まれている。現場一筋で数々の難事件を解決してきた、豪快な男だった。
「権藤さん」
真秀が敬礼する。
権藤は、大きな黒いケースを持っていた。
「これを持っていけ」
権藤がケースを開けた。中には、三丁の自動小銃が収められていた。
「これは……」
真秀の目が見開いた。
「89式5.56mm小銃だ」権藤が言った。「本来はSATの特殊作戦でしか使われない代物だが――」
権藤は真秀の目を見た。
「お前の報告を読んだ。防犯カメラに映った生物。拳銃じゃ、太刀打ちできん」
「でも、これを使用する許可は……」
真秀が躊躇した。
自動小銃の使用には、厳格な規定がある。勝手に持ち出せば、処分は免れない。
「いらん心配はするな」
権藤が真秀の肩を叩いた。
「現場の事を知らないやつらどもの事は俺に任しとけ」
権藤の目には、強い意志があった。
「書類も手続きも、全部俺がやる。責任も、全部俺が取る」
「権藤さん……」
「いいか、真田」権藤が真剣な顔で言った。「お前は優秀な刑事だ。そして、この事件は危険すぎる。俺は、部下を死なせたくない」
権藤が真秀にケースを手渡した。
「生きて帰ってこい。それが、俺への恩返しだ」
真秀は、ケースを受け取った。
「……ありがとうございます」
権藤が笑った。
「行け。犯人を捕まえてこい」
現在。
真秀は、自動小銃を構えていた。
花山と夢見も、同じように構えている。
生物が、じっとこちらを見ている。
「撃て!」
真秀が叫んだ。三人が、一斉に引き金を引いた。銃声が、路地に響き渡った。5.56mm弾が、連続して生物に命中する。
生物の体が、弾丸の衝撃で揺れた。
「効いてる!」
夢見が叫んだ。
さらに連射。
生物の右腕が、吹き飛んだ。次に左腕。そして、右脚。
生物が、地面に倒れた。
「やった!」
夢見が歓声を上げた。
「まだだ、油断するな」
真秀が警告した。
だが――
真秀の予感は、的中した。倒れていた生物が、動き始めた。
そして――
失われた両腕が、再び生えてきた。
まるで植物が芽吹くように。
肉が盛り上がり、骨が形成され、皮膚が覆う。数秒で、両腕が完全に再生された。右脚も、同様に再生していく。
「嘘だろ……」
花山が呟いた。
「再生する……だと……」
夢見の顔が、青ざめた。
生物が、立ち上がった。そして、再び真秀たちに向かって歩き始めた。
「撃て!まだ弾はある!」
真秀が叫んだ。
三人が、再び連射した。だが、生物は止まらない。傷ついても、すぐに再生する。
そして――
真秀の自動小銃が、空撃ちした。
弾切れだ。
「くそっ!」
花山と夢見の銃も、弾切れになった。
生物が、近づいてくる。三人は、後ずさりした。だが、もう逃げ場はない。
生物が、腕を振り上げた。
真秀は、目を閉じた。
その時――
地響きが聞こえた。
重い、機械的な音。
ドン、ドン、ドン。
規則正しい、足音。
真秀が目を開けた。
路地の向こうから、巨大な影が現れた。
全高約四メートル。人型の、巨大なロボット。
p2hm――police humanoid heavy machinery。
重機のように重厚な脚部。細身だが精密なマニピュレーター。そして、コックピットから聞こえる声。
「待たせたなぁぁぁ!」
桃源信之の、力強い叫びだった。
p2hmが、路地に踏み込んだ。その巨体が、街灯の光を遮る。生物が、p2hmを見上げた。
そして――
咆哮した。
人間と異形の戦いは、ここから新たな局面を迎えようとしていた。




