文化祭本番 ー ナターシャの舞台とビーチャの出店
いよいよ、ナターシャ、ビーチャとアレクセイの文化祭が幕を開けます。ナターシャのヤマト語劇の舞台とビーチャのボルシチ出店の苦闘とナターシャの思わぬ助け舟をご覧下さい。
文化祭本番 - 舞台裏と表舞台の物語
文芸部の舞台 - ナターシャの熱演
午後二時、講堂は満員だった。ナターシャは幕の陰で深呼吸を繰り返す。心臓が耳元でドクドクと鳴っている。
「次はお前の出番だ」と先輩部員が囁く。
舞台中央では桃太郎が鬼ヶ島への出発を宣言している。あと数分で、彼女は「鬼」として舞台に立つ。
アレクセイは舞台袖で固唾を飲んで見守っていた。彼の手にはキリル文字で書き込まれた台本がある。もしナターシャが詰まったら、合図を送る準備だ。
客席の最前列にはビーチャが座っていた。ボルシチ販売の休憩時間を利用して、どうしても彼女の舞台が見たかったのだ。
「それでは鬼ヶ島へ出発じゃ!」
桃太郎の台詞と共に、舞台が暗転する。そして再び光が灯った時、そこには恐ろしい鬼の姿があった。
「よくも来たな、桃太郎!」
ナターシャの声が講堂に響く。その発音は完璧で、感情がこもっていた。観客から小さなどよめきが起こる。
アレクセイは息を呑んだ。練習とは全く違う。ナターシャは舞台上で本当に「鬼」になっていた。彼女の目には怒りと悲しみが混ざり合っている。
「我ら鬼は、お前たち人間に何をしたというのだ!山を追われ、里を追われ、ようやくたどり着いたこの島でも、お前たちは我らを追い詰める!」
ナターシャの声が震える。それは演技ではない、彼女自身の叫びだった。遠い故郷で、彼女を理解しようとしない父への。医者になれと押し付けてきた社会への。
桃太郎役の生徒が応える。「鬼よ、お前たちは人間を襲い、村を焼き、米を奪ったではないか!」
「それは…それは私たちが追い詰められたからだ!生きるために必要なものを奪われたからだ!」
客席が静まり返る。誰もが彼女の一言一言に引き込まれていた。
そして、クライマックス。ナターシャが両腕を広げ、天を仰ぐ。
「我は鬼なりと言えど…心は人なり!この山に閉じ込められた我が仲間たちを解放せん!お前たち人間と同じように、私たちにも家族があり、愛があり、涙があるのだ!」
彼女の頬を一筋の涙が伝う。
観客から大きな拍手が沸き起こった。カーテンコールではスタンディングオベーションだ。
アレクセイは舞台袖で拳を握りしめていた。「やった…やったぞ…」
ナターシャが舞台裏に戻ると、部員たちが駆け寄って彼女を抱きしめた。
「すごかったよ、ナターシャ!」
「感動した!」
「言葉がわからなくても、心に響いた!」
ナターシャは涙をぬぐいながら、控え室の隅に置いてあるスマホを見た。画面には、ビデオ通話が繋がったままの状態で、父と母の顔が映っている。
父は無言だった。だが、その目は赤くなっていた。母が涙声で言う。
"Наташа... ты была прекрасна.(ナターシャ…あなたは素晴らしかった)"
父がゆっくりと口を開く。"Я... я горжусь тобой, дочка.(私も…お前を誇りに思う、娘よ)"
その言葉を聞いた瞬間、ナターシャの目から再び涙が溢れ出した。
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ボルシチ販売の苦戦 - ビーチャの奮闘
一方、校庭の模擬店ではビーチャが汗だくでボルシチをよそっていた。味は完璧だった。ナターシャの指導通り、ビーツの甘みと牛肉の旨味が絶妙に調和している。
しかし、問題は客足だった。
「いらっしゃいませ!オロス伝統のボルシ�チです!」
ビーチャの呼び込みにも関わらず、通りかかるのは主に男性客ばかり。女性客はチラリと見て通り過ぎていく。
隣のクレープ屋は女子生徒で大行列だ。その差は歴然としていた。
「なぜだ…なぜ女子が来ない…」
ビーチャは頭を抱える。ドストエフスキー部長が近づいてきて、冷たく言い放つ。
"Клиентов мало. Это из-за тебя.(客が少ない。お前のせいだな)"
ビーチャは反論できなかった。確かに、男の自分が呼び込んでも女子生徒は近づかない。かと言って、他の男子部員も同じ状況だ。
「あと二時間で文化祭終了…このままだと大量のボルシチが余る…」
彼は絶望的な気持ちで鍋の中を見つめた。まだ三分の二も残っている。
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救世主ナターシャ - AIアプリの奇跡
その時だった。
「ビーチャ!」
振り返ると、衣装を着替えたナターシャが走ってきていた。まだ舞台の興奮冷めやらぬ様子で、頬は紅潮している。
"Как прошёл спектакль?(劇はどうだった?)" ビーチャが聞く。
「大成功!でもそれより、なんでこんなに人が少ないの?」
ビーチャが事情を説明すると、ナターシャは考え込んだ。そして突然、ビーチャのスマホを指さす。
「そのスマホ、貸して」
"Что?(何?)"
「いいから!」
ナターシャは慣れた手つきでアプリストアを開き、何かを検索し始めた。数秒後、彼女はあるアプリをダウンロードした。
「これ、オロス語の拡声音アプリ。若い女性の声で録音した呼び込みメッセージを流せるの」
彼女がアプリを起動し、内蔵マイクに向かって話し始める。
"Добро пожаловать! Настоящий русский борщ! Очень вкусно! Девушкам особенно рекомендую!(いらっしゃいませ!本格オロスのボルシチ!とても美味しいです!女性に特におすすめです!)"
アプリが彼女の声を学習し、同じ抑揚で再生できるようになるまで約一分。ナターシャがスマホをビーチャに返す。
「これをスピーカーの近くで再生して」
ビーチャが恐る恐る再生ボタンを押す。
スマホから流れ出たのは、ナターシャの声そっくりの、魅力的な女性のオロス語だった。
"Добро пожаловать!..."
通りかかった女子生徒たちが足を止める。
「何この声、可愛い!」
「ボルシチって何?」
「オロス料理だって、一度食べてみたい!」
数人が店に近づいてきた。ビーチャは素早くボルシチをよそう。
「どうぞ!美味しいですよ!」
最初の女子生徒が一口すすると、目を見開いた。
「美味しい!すごくコクがある!」
その言葉に釣られて、次々と女子生徒が集まってくる。さらにその彼女たちを見た他の生徒たちも列に加わる。
「何あの行列?」
「ボルシチが大人気らしいよ!」
あっという間に長い列ができた。ビーチャはてんてこ舞いでボルシチをよそい続ける。
ナターシャが笑いながら叫ぶ。"Я же говорила!(言ったでしょ!)"
一時間後、鍋は完全に空になった。最後の一杯をよそい終えたビーチャは、その場にへたり込んだ。
「完売…完売した…」
ドストエフスキー部長が近づいてきて、珍しく笑みを浮かべている。
"Неплохо. Молодец, Наташа.(悪くない。よくやった、ナターシャ)"
ビーチャはナターシャを見上げた。彼女は誇らしげに腕を組んでいる。
"Спасибо... ты спасла меня.(ありがとう…君が助けてくれた)"
ナターシャが微笑む。"Это же очевидно. Друзья должны помогать друг другу.(当たり前でしょ。友達は助け合うものよ)"
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如何だったでしょうか?次の展開を楽しみにしてください。




