三人の夜間練習と文化祭の開幕
久しぶりの執筆再開です。
三者での夜間学習
文化祭前日、三人は放課後の教室に残っていた。アレクセイが黒板に「鬼」の漢字を大きく書き、ナターシャに発音を指導している。
ビーチャが突然オロス語で叫ぶ。
"Чёрт! Я забыл ингредиенты для борща!(くそ!ボルシチの材料忘れた!)"
ナターシャが笑いながら鞄から瓶を取り出す。
"Я знала, что забудешь. Вот свёкла.(忘れると思ってたわ。ほら、ビーツ)"
アレクセイがヤマト語で突っ込む。
「おいおい、ナターシャはビーチャのことよくわかってるな」
ナターシャが頬を染め、オロス語で返す。
"Он как мой младший брат... иногда раздражает, но...(弟みたいなもの...時々イライラするけど)"
ビーチャが不服そうに割り込む。
"Я всего на год младше!(僕は1歳下だけだよ!)"
アレクセイのヤマト語のツッコミに、ナターシャはさらに頬を赤らめた。ビーチャが不服そうに口を尖らせる。
"Но я выше тебя!(でも僕の方が背は高い!)"
ナターシャが思わず吹き出す。"Это потому что ты мальчик. В моей стране девушки выше.(それはあなたが男の子だからよ。私の国では女の子の方が背が高いの)"
アレクセイが黒板に「鬼」の字をもう一度書きながら、笑いをこらえて言う。
「おいおい、二人とも、明日の準備はいいのか?ビーチャはボルシチの材料、ナターシャは台詞、俺は…」
「Ты?(あなたは?)」ナターシャが首をかしげる。
「俺は二人の通訳だよ。ビーチャがオロス語でパニクった時のために、ナターシャがヤマト語で詰まった時のために」
三人の笑い声が教室に響く。窓の外はすっかり暗くなり、校舎には彼らだけが残っているようだった。
ビーチャが突然真面目な顔で言う。"Наташа, завтра после фестиваля...(ナターシャ、明日の文化祭の後...)"
言いかけて止まる。ナターシャが優しく促す。"Что?(何?)"
「いや、なんでもない。明日、頑張ろう」
アレクセイがビーチャの肩をポンと叩く。「言いたいことは明日言えよ。今日はもう遅いし、ナターシャも疲れてる」
確かにナターシャの目は少し赤くなっていた。緊張と疲れが混ざっているようだ。
「もう帰ろうか」アレクセイが提案する。
三人は教室の電気を消し、鍵をかけて職員室に返却した。校門までの道すがら、ナターシャがぽつりと言う。
"Завтра... мой папа будет смотреть онлайн.(明日…父がオンラインで見るの)"
ビーチャが驚く。"Правда? Ты же говорила, он против.(本当?反対してるって言ってたのに)"
「母が説得してくれた。『娘の初舞台を見ないのか』って」
アレクセイが優しく微笑む。「お父さん、ちゃんとナターシャのこと見てるんだな」
昇降口で別れる時、ナターシャが二人に小さな袋を差し出した。中には手作りのクッキーが入っている。
"Это мамин рецепт. Спасибо за всё.(母のレシピよ。全部にありがとう)"
ビーチャが袋を受け取りながら、"До завтра!(また明日!)"
アレクセイも「明日、校門で待ち合わせな!」
三人はそれぞれの帰路についた。夜風が冷たいが、なぜか心は温かかった。
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文化祭当日の朝
ビーチャは午前6時に目覚めた。枕元にはナターシャから昨夜遅くに届いたメッセージがある。
Удачи сегодня! Я немного нервничаю. Ты тоже?(今日、頑張ろう!私、少し緊張してる。あなたも?)
ビーチャはすぐに返信した。
Конечно! Но мы справимся.(もちろん!でも俺たちなら大丈夫)
学校に向かう電車の中で、三人のグループチャットが賑わう。
アレクセイ:「今、学校着いた。もう準備始まってるぞ」
ナターシャ:「私も向かってる。ビーツは持った?」
ビーチャ:「もちろん!ちゃんとリュックに入れた。二重に確認した!」
学校に着くと、すでに校内は活気に溢れていた。オロス語会話同好会の模擬店は校庭の一角にあり、ビーチャは急いでテントの設営を手伝う。
ナターシャは文芸部の控え室で、衣装に着替えていた。鏡に映る自分は、真っ黒な鬼の衣装に身を包み、頭には二本の角がついている。
「Я чудовище...(私、怪物みたい…)」と小さく呟く。
そこにアレクセイが入ってくる。
「似合ってるよ。それに、鬼は怪物じゃない。心を持つ存在だ」
ナターシャが振り返る。"Спасибо...(ありがとう…)"
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開幕
午前10時、文化祭が始まった。オロス語会話同好会の模擬店には早速行列ができる。ビーチャは汗だくになりながらボルシチをよそっていた。
「Следующий!(次の方!)」とオロス語で呼びかけると、ヤマト人の生徒たちが驚いた顔をする。
ドストエフスキー部長が近づいてきて、小声で囁く。"Хорошо, но произношение ужасное.(良いけど、発音はひどいな)"
ナターシャが通りかかり、ビーチャのトレイにそっと手を添える。"Так, держи ложку правильно. И не торопись.(ほら、スプーンはこう持って。急がないで)"
彼女の手が触れた瞬間、ビーチャの心臓が大きく跳ねる。顔が赤くなるのが自分でもわかった。
"Иди уже! Твой спектакль скоро!(もう行って!君の劇がもうすぐだよ!)"
ナターシャが笑顔で手を振り、文芸部の控え室へ走っていく。その後ろ姿を見送りながら、ビーチャは深呼吸をした。
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開演五分前
文芸部の舞台裏は緊張に包まれていた。ナターシャが鏡の前で最後の台詞の確認をしている。
「我は鬼なりと言えど…心は人なり…心は…」
声が震える。アレクセイがそっと肩に手を置く。
「大丈夫。練習通りにやればいい」
「でも…もし失敗したら…父が…」
「お父さんは見てるだけじゃない。応援してるんだ。それに俺とビーチャも客席にいる」
ナターシャが深く息を吸う。"Да... я справлюсь.(そうね…私ならできる)"
開演のベルが鳴る。幕が上がる。




