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§1-2・次元波動エンジンこそ真の核心

  ※     ※     ※


さて、本当に重要なのはこの後、「残された地球人は何をしたか?」・・・これこそが本来論ずべきテーマだった。しかし、この間の地球側の動きは、実はあまりハッキリしていない。

ハッキリ判っているのは「ヤマトがイスカンダルに行った」「一年以内に帰ってきた」「人類は生き延びて再生した」の三つ…


厄介な事に、2199年のBBY-01ヤマト出発から帰還までの間には二つの全く異なる展開が予想できる事に気づく。


カギは「次元波動超弦跳躍機関」すなわち「次元波動エンジン」の存在だ。

この波動エンジンが量産出来た場合と出来なかった場合とで、ヤマト帰還までの人類が辿ったプロセスが大きく変わってしまうのだ。


というのも波動エンジンが量産出来れば、2199年時の全ての問題はアッサリ解決してしまうからだ。


波動エンジン量産化の暁には、人類はヤマトの帰還を待つまでもなく、他の可住惑星の探査および移住が可能となる。当然、途中ではガミラス帝国との交戦が予想されるが、これを撃退できるだけの装備をもたせることも可能だ。少なくともBBY-01ヤマトはガミラス相手にやってのけた。


単純にBBY-01ヤマト(=移動要塞型ノアの方舟)を量産出来れば、究極、全人類を移民もしくは地球から脱出させる事も可能で、それが出来なくてもヤマトの他に二隻目・三隻目の「イズモ計画」艦を新造し、次々とイスカンダルへと送り出すことで『コスモクリーナー』の確実な確保を目論むのが、ごく常識的な判断だろう。


極端な話、移民先が見つからなければガミラス帝国に逆侵攻し、彼等と彼等の植民地を侵略・征服すれば良い…程度の考えに行き着くこともあり得る。いや、一年で絶滅すると追い詰められた人類にとって、これほど簡単な結論に飛びつかない方がオカシイくらいだ。そもそも彼等が我らに侵略してきたのが発端なのだから。まるで「ヒトモドキ」の野蛮人・フン族によるヨーロッパ地域の侵略と似たような光景が、アンドロメダ局部銀河団の大きなスケールで再展開されているに過ぎなくなるのかもしれない。



つまり「次元波動エンジン」を量産出来れば、実のところ「宇宙戦艦ヤマト」という世界観自体が自壊する。オリジナル版 (無印ヤマト)では「既に人類は死にかけていて、二隻目のヤマト型宇宙戦艦を作る余力さえ失っている」とした。2199版では「新設定の『波動コア』がないとエンジンが作動しない」という物理的制約をかけている。特に2199版ではこの問題に気づいていて、世界観を変えないようにという工夫からこのような設定にしたように思われる。


しかしそれでも問題は残る。前者は「宝くじの一等賞に全財産をかけるだけの人生なのか?」という疑問をクリア出来ず、後者は「波動砲にあからさまな不快感を示したスターシアが、後の地球防衛軍のアイコンともなる多数の宇宙艦が装備する『波動砲』用の波動コアを供給してくれるのか?」という問題をクリア出来ない。


とはいえ、いま此処で試みたいのは、宇宙戦艦ヤマトという偉大な作品の欠点(あら)探しなどでは、断じて無い。「破産国家の典型的なパターンの考察と、破産国家の立て直し方」を分かりやすく論じたいのであって、そのための「親しみやすいたとえ話の例」として使いたいだけなのだから…。


別の言い方をすれば、語りたいのはカネの話であってエンジン技術の話しでもない。話しをするのなら、波動エンジン製造会社の株式購入とリスクについて…というテーマであるべきだ。実際、波動砲はイスカンダルとのライセンス契約に違反している可能性もあり、その場合には莫大な違約金もしくは特許侵害で訴えられる可能性がある。南部重工がそうだとしたら日本経済に大きな衝撃を与える…の視点から捉えるべきだからだ(基礎設計は真田志郎氏らしいが…)。


そこで、この問題に関してはこれ以上の深入りは避け、大まかに有り得べき可能性だけ論じたあと、本題に入ることにする。語らなければならないことがある場合は避けないが、ヤマトの世界観自体の欠点探しは絶対しない。リスペクトすべきだからだ。



  ※     ※     ※



ここで重要なことがある。エネルギーこそ、文明の(もとい)だという真実だ。


イスカンダル・スターシアは「ちょっとした見当違い」で次元波動エンジンを人類に提供してくれたのでは? と先ほど述べた。しかし、隠されたもう一つの真意があったという可能性も否定できない。つまりエネルギー不足に陥っているであろう人類に対しての技術支援を(ほどこ)してくれたという可能性の方だ。


圧倒的な潜在能力を秘める次元波動エンジンは、たった一基で全人類のエネルギー需要を賄うことが十分可能だ。ほぼ無限の力を持つ。これを武器に悪用することは許諾できないが、地下都市での生存のための発電機としてのスピンオフには許容しても良い…という意図があったのではないか? ということだ。しかしこれに関しては判らない。仮に彼女にその意図があったとしても、人類に伝わったようにも思えない。なので、これ以上の詮索は辞める。逆にエネルギーの重要性を述べるに留める。



 ※     ※     ※



エネルギーが失くなれば人類は死滅する。真冬に電気・ガス・石油など暖を取れなくなれば困る。真夏に陽の光が注がなければ、一昔前なら大飢饉になったほど困る。そもそも太陽というエネルギー源を失えば、死ぬ。同時に、個々の生と種族としての生存と同じ程度に重要なのが、産業の崩壊だ。人々の日々の営みに必要な生産活動の総和が文明ならば、産業は生産活動そのものだ。これを支えるのがエネルギーであり、生産活動に不可欠だ。真の文明の母と言っていい。


カネがなくなっても生きてはいける。物々交換の原始的な時代に戻るのだろう。しかしエネルギーがゼロになった時、おそらく長くは持たない。空気・水・食料、この次に必要なのがエネルギーだからだ。もっとも前者三つも生体エネルギーの生成に使われるのだが…。


ではエネルギーが尽きたらどうなるか?

この具体例はまだないが、似たような事例はある。典型的なのは1973年のオイルショックだ。


直接の引き金は第四次中東戦争に端を発し、原油価格が四倍になったことだ。それまで3ドル程度の非常に安い石油にエネルギー資源を頼っていた欧米や日本のような資本主義社会に大混乱が起こった。燃料高騰が市民生活や経済活動に大打撃を与えた。各種公共事業は打ち切りもしくは先延ばしとされた。全ての物価が上昇し、日々の電力供給さえ困るようになった。日本ではトイレットペーパーや洗剤といった石油系製品の価格が急騰し、買占めと呼ばれる狂乱状態に陥ったほどだ。


この時期は不幸なことに1971年に米国が金本位制を勝手にやめると言い出したニクソン・ショックの直後であり、戦後の経済を支えていた金本位制が崩壊し、その後の現在まで続く管理通貨制度が固まるまでの過渡期でもあった。このため世界の中銀や政府の金融政策が不安定になりやすい時期でもあり、結果としてスタグフレーション(インフレ下でのデフレ。コインの裏表が同時に出るような異常現象)にまで陥ってしまった。



もう少しマイルドな事例として2022年のウクライナ紛争がある。

ロシアが突然、ウクライナを侵略。この時に西側はロシアに対して大規模な経済制裁を実施した。特にロシアの資金源でもあった石油・天然ガス資源の輸入・取引制限を敢行。この結果、同資源をロシアに大きく依存していたドイツ・フランス等EU諸国でエネルギー不足が深刻化。特に同年の冬は天然ガス価格が8倍以上にもなり、経済も悪影響を受け、一時的な回復はあっても長期低迷の原因ともなった。特に庶民生活は燃料価格の高騰 (ドイツやスペインでは通年の2倍から3倍近く)に加え、物価高により生活苦が激化。これは政権与党への不信に繋がり、その後、数年に渡ってEUで主流だったリベラル系政府の敗北が続くことになったほどだ。


ではなぜそうなるのか?…といえばエネルギー価格の上昇は、全ての産業に影響を与えるからだ。単純に冬場などの暖房費や光熱費、ガソリン代などが急上昇するだけではない。製造業などの生産工程全てにエネルギー価格の上昇分が乗っかってくるのだ。


ある製品を作る時、まず部品を作るのにエネルギー代上昇分が乗っかり、この乗っかった分余計に負担が増えた製品をトラックなどで運搬すれば、その燃料代がかかる。集めた製品を管理する維持費 (たとえば倉庫の電力代など)にもエネルギー負担分が更に上乗せされ、集めたパーツを製品化するときにも更にエネルギー負担分がまた増える。製品となっても包装・出荷・仲卸で保存時・再出荷・商品陳列時など、その都度いちいち負担が乗っかる。何をするにもエネルギーが必要だからだ。この他に管理・保管や労働賃金の上昇なども加わる場合、さらなる負担増=製品価格の上昇を招き、これが物価高インフレをも招く。


エネルギー価格の上昇は、全ての作業にその都度エネルギーを必要とするためにコストは単純な足し算にはならず、飛躍的な費用負担を強いられることになる。それは複利計算のような二重掛け・三重掛けのような負担増であり、省エネ対策や代替エネルギーの確保など抜本的な対策を徹底させでもしない限り、コスト削減の方法がないのだ。これが他とは決定的に違うところだ。


このため現在でもエネルギー価格は非常に重要な指標であり続ける。通常、季節変動幅が大きく天候などイレギュラーな影響を受けやすい食品価格とエネルギー価格の2つは、国家の基礎インフレ指標からは外されることが多い。日本でいう「コアコアインフレ」の事で、食料品価格とエネルギー価格を外した他の多数の製品の価格上昇率に当たる。これは不確定要素の大きい食品とエネルギーを外すことで、変動幅の少ない国家産業力の基礎的な成長力を示すと考えられているが、当然、生活実感とは異なる。


2025年現在の日本では物価上昇率 (インフレ率)は大体3%中盤とされているが、コアコアインフレ率は2.4%くらいである。この差が大きいことは「現在の物価高=生活苦は主に食料品価格とエネルギー価格の上昇のせい」なので「悪性インフレ(所得向上を伴わない純粋な物価高)」と考えられている。逆に言えば現在、生活苦を感じているとしたらそれは主に食料品の価格上昇とエネルギー価格の上昇によるところが大きい。無論、農作物の生産にはビニールハウスなどの暖房代やら農機具の燃料代含めて種まきから保管運送まで悉くエネルギー代上昇分が乗っかってくる事は言うまでもない。


米国などでもそうで、公表されるインフレ率は食料品とエネルギー代を除いた物価上昇率であり、2022年以後の米国の年平均8%もの激しいインフレ率がエネルギー+食品価格の上昇率抜きで叩き出した数字であることを考えると、実際には凄まじい物価高が庶民を襲っただろうと思われる。事実、この時期の米国は食料品がインフレ前の2倍、ガソリン代は2.5-3倍近い価格になっていた。ラーメン一杯4000〜6000円にまで跳ね上がったとか、夏場のレジャー期 (この時期は需要増により価格が高騰しやすい)がガロンあたり倍近くになったこともある。


出典:2024年3月26日 7:41のBloomberg「米ガソリン価格、夏に1ガロン=4ドルに上昇も-22年以来の高水準に」より。

挿絵(By みてみん)



 ※     ※     ※



ちなみに米国で生活を直撃する物価指標は「ガソリン代」「食料品価格」「帰属家賃」「自動車 (特に中古車販売価格)」と言われている。


この燃料価格上昇が産業力を劣化させた場合には、燃料不足による価格上昇+産業デフレによるスタグフレーションという状況にもなりかねない。つまり経済が崩壊しかねない危機が生じる恐れがある。またスタグフレーションは日本が長年患ってきたデフレとも全く違う。デフレは端的に言えば「物の価値が下がる」ので「作っても儲からないなら作るのを辞める」という意味での生産活動の収縮であり、物価上昇は招かない。物の価値つまり値段が下がるのだから、当然だ。


だれもがデフレ期、労働賃金が上がらなかった苦い記憶があったと思う。それは、自分たちの作った生産物の価格が低かったために、賃金も抑え込まれていたからだ。つまり賃金上昇というインフレ圧力が無かったからだ。


反面、物価は安定していて、しかも価格は低かった。これはデフレ期に円高が重なっていたためだ。物価安定は物の値段が下落傾向にあったからであり、価格が安かったのは低価格耐久財を中心として中国や東南アジアなどの低賃金諸国で生産した物品を、低価格で輸入できたからであった。

所得の低い層にとっては恵み多い時代だった。だからデフレでブラック企業が横行していたとしても、大規模な暴動が日本で起きなかった理由の一つにはなる。またニートしていても、なんとか食いつなぐことが出来た。物の値段が低いレベルで安定していたからだ。低所得でも、なんとか生きていけたのである。



ところが上述のようなスタグフレーション時には、生産活動が収縮しても物価が上がるのだ。これがエネルギー不足で引き起こされる危険がある。エネルギーの経済に対する作用は特別で、故にエネルギー産業は国家にとって特別の産業と言える。この産業は国家の根本であり、衰退が許されない必須の産業なのだ。この産業のない文明はない。


2199年時は、このスタグフレーションが起こっても全く不思議ではない。つまり「エネルギーがあるかないかで人類の置かれた状況が極端に変わってしまう」ということなのだ。そこでこれからエネルギー状態の有無によって、全く異なる二つの2199-2200年時の人類活動について詳述する。


とはいえ、地球人とヤマトがどのようなプロセスを経たとしても、実は結果は同じことだからだ。要するに「莫大な戦時国債を抱えて、死ぬ」という結論には変わりはない。


戦争反対という意見には、一聴の価値がある、ということだろうか…?



【2025/02/27補記】

2018年1月22日、カクヨムに初出。本日、微修正の後、俎上_φ(・_・


2025年現在、自動車会社の日産が経営危機にあるとされています。これは特に2024年に北米での売上が90%近くも減少した事が大きな要因とされていますが、売上増を狙って新車の販売価格を大きく下げた所、中古車価格が下落(新車の方が安いため)。すると、この中古車価格下落による資産デフレ(自分が売り飛ばす時の買取価格が低くなるの)を嫌って日産の新車を買わなくなったから…という話でした。興味深い話ですね…_φ(・_・

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