第四十七話
新規キャラクターが一気に出ます。すいません。
新ギルド【七つの大罪】が結成された日とほぼ同日――――。
ベルの街から遠く離れた牧歌的な街というか村――ハジマリ村に、一件のギルドハウスが設立された。
牧歌的な村にはそぐわない、青と白が基調となった西洋風の屋敷。
村の景観を明らかに損なっているその屋敷は、新ギルド【美徳伝】のギルドハウスである。
「ただいまー、足元が暗いな……お札でも燃やすか」
「電気を付ければいいだけでしょうが!」
黒と金色の縞々色のツーサイドアップが特徴的な、金色の瞳を持つ少女がエントランスに入るなり暗い中ライターで一万円相当のお札に火を点けた。
そんな少女の頭を叩き、照明の電源を点けたのは和服を着ていて、腰に刀を添えた如何にも侍といった風貌の少女である。
「いったいなー、叩くことないじゃん。《金神》の加護のおかげでお金には困ってないんだしさー」
「一円を笑う者は一円に泣くという諺を知らんのか! 無駄遣いをするんじゃない!」
「ぶー、侍ちゃんさぁ、ウチの方が年上なんだから、リーダーにしてるみたいにウチにも礼儀正しくしてほしいなぁ」
「断る! イサミ様は我が忠義を捧げるに値する方だが、お前は駄目だ! 尊敬できるところが無い!」
「ぶー、《忠神》の信望者がよぉ……」
どうやら二人は買い出しに行っていたようで、その手に持った買い物袋を冷蔵庫に詰めていく。
その連携は、まるで熟練の夫婦のように鮮やかだ。
「皆出かけてんのかな、ヘイ侍ガール、お茶淹れて。お金ならあげるからさ」
「自分で淹れろ。拙者はイサミ様にスポーツドリンクをお届けに参る」
「リーダー今何してんの?」
「日課のロードワーク中だ。約十分後に近くの公園を通るからそこで渡す」
「か~、相変わらずキモイなそのストーカースキル」
「《主従の絆》と呼べ! 断じてストーカー用のスキルでは無いのだ!」
ひとしきりキレ散らかした後、侍姿の少女はスポーツドリンク片手にギルドハウスを飛び出した。
「あら~?」
急げ急げと中庭を走っていると、甘く、とろけるような声で呼び止められた。
声だけで、焦りや怒りの気持ちが収まっていく。この声は、と侍少女は振り返る。
城の中庭に咲く花にじょうろで水を与えながら、侍少女に向けて手を振る豊満な女性がそこに居た。
「ママ! ……ではなく! ひとみ殿! 悪いが今急いでいる故……」
「ああちょっと待って待って、ちょっとだけだから、ね?」
パタパタと女の子走りで近づいて、女性――ひとみは侍少女の髪に手を触れる。
柔らかな茶色の髪、全てを受け入れてくれそうな笑顔、家庭を思い出させるエプロン姿に母性の象徴たる大きな胸。
人妻にしか出せない色気が、彼女からは出ている。
「髪の毛乱れちゃってるわよ、可愛い女の子なんだから、身だしなみはちゃんとしなきゃ」
「ばぶぅ…………はっ!? 自分で直しまする直しまする!」
「あっ」
ひとみの手に触れた瞬間おぎゃりかけたが我に返り、侍少女は手を振りほどき走り出す。
「転ばないように気を付けるのよ~」
母の声を背に受けながら――いや! 彼女は自分の母ではない! 侍少女は頭をぶんぶんと横に振って、正気を保った。
「相変わらず恐ろしき力だ……《母神》の加護」
気を付けていないと、取り込まれてしまいそうになる。
公園に着いて、少しだけ待っているとこちらに走ってくる人影が二つ見えた。
ぱぁっと侍少女の表情が明るくなる。スポーツドリンクを差し出しながら、その名を呼んだ。
「イサミ様! ランニングお疲れ様でございます! 不肖私めがスポーツドリンクをお持ちいたしました!」
「はぁ……はぁ……ありが……」
「ありがとね!」
イサミ、と呼ばれた女性に侍少女が差し出したスポーツドリンクを、後ろに居た違う少女が奪い取った。
女児向けアニメのヒロインのようなハートが散りばめられたデザインの服を着ている、金髪碧眼の美少女だ。かなりイタい格好なのだが、美少女すぎてまるでそれが自然な格好であるかのように見える。
そんな美少女が、侍少女から奪い取ったスポーツドリンクの封を開けると、ゴクリゴクリと半分ほど飲んでしまった。
「サーシャ貴様ぁ! それはイサミ様のために持ってきたスポーツドリンクだぁ!」
「まあまあ、いいよ凛。サーシャだって喉が渇いていたんだろう」
刀の柄に手を掛けて憤る侍少女――凛を宥めるイサミと呼ばれた女性は、まあまあと両手を開いて、怒っていないことを示した。
白銀の髪に、赤と青のオッドアイ。女性らしさを出しつつも、動きやすさと耐久性を両立した軽鎧に、腰に帯びた両刃剣。純白のマントを羽織るその姿は――。
まるで、物語に出てくる勇者のような姿だった。
「ちっ……サーシャ、イサミ様の海より深い優しさに免じて許してやる……」
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。ボクのこの可愛い顔見て落ち着いて落ち着いて♡」
「やっぱ殺す」
「ラブ&ピース! ラブ&ピース!」
イサミを中心にぐるぐると追いかけっこを始めた凛とサーシャを、溜息一つ吐いてから二人の首根っこを掴むことで止めた。
「二人とも、その辺にしときな」
「にゃーん♡」
「しかし、この《愛神》野郎が……!」
「私たちは仲間なんだから、くだらないことで喧嘩しないよーに」
どうどうと落ち着かせて、イサミはスポーツドリンクをサーシャから受け取る。
そして、そのまま飲もうとしたところを凛に止められた。
「あ、イサミ様ちょっとお待ちを」
「うん?」
凛の右腕が、ブレる。
一拍遅れてキン、という金属音が聞こえたかと思うと、スポーツドリンクのペットボトルの上半分が切り落とされ、コップのような形になった。
「そのままだとこの愛馬鹿と間接キスになってしまう故に、切り落とさせて頂きました」
「あ、ありがと……でもやる前に一言欲しかったかな」
「えー!? 別に間接キスを気にするような初心な年齢じゃないでしょイサミはさー!」
サーシャの言葉はスルーして、イサミはスポーツドリンクの残りを飲み干した。
「ぷはぁ、ありがとう。凛、わざわざ届けてくれて」
「恐縮です」
「さて、じゃあランニングも終わったし、次は戦闘フィールドに行ってレベル上げでもしてくるかな」
「え!? 村を一周したばっかですよ、少し休憩してからの方が……」
「大丈夫だよ凛、心配してくれてありがとう。でも……」
イサミは、自分の胸に手を当てながら、答える。
「私は『勇者』だ。《勇神》の寵愛を受けし、『世界を救う』ことを宿命づけられた選ばれし存在なのさ」
「……イサミ様……」
「同じように『寵愛』を受けた仲間たち……君たちと共に、世界を救う義務がある。そしてそれが『クリア条件』でもあるらしいしね。そのための努力にやりすぎなんて言葉は無いのさ」
そうして、イサミは歩みを進める。
「"勇気"とは、"行動"することである。……私の尊敬する恩師の言葉さ、じゃあ私は行くよ」
「じゃあボクも着いてくねー♡」
「っ、拙者も着いていきます!」
「わ、わたしもぉ~……ぜぇぜぇ……はぁはぁ……」
と、イサミたちが走ってきたルートからまた一人、同じように走り込みをしていた最後のメンバーがやっと追いついてきた。
緑色のぼさぼさ髪と、ダサい丸眼鏡が特徴的な小柄の少女である。
片腹を抑えてヘロヘロになりながらも、その少女は走り切り、倒れそうになったところでイサミに抱き留められた。
「大丈夫か? ダスティ、無理して付いてこなくても大丈夫だぞ?」
「だ、だい、大丈夫です~、少し補充すれば……あ、そのペットボトル『食べて』いいやつですか?」
「あ、ああ……」
「ではいただきます」
言って、ダスティと呼ばれた少女は空のペットボトルを美味しそうに咀嚼し始めた。
「うへぇ~、《塵神》の力でごみも食べられるとはいえ、よく食べる気になれるよね?」
「勿体ないですから。捨てるくらいならわたしのエネルギーとして再利用した方がエコでしょう?」
「みなさーん」
と、その時。
天から光が射した。
まるで天使が降臨するかのように、空から光に沿って一人の女性が降りてくる。
彼女が、【美徳伝】のメンバーの最後の一人だ。
まず目立つのが、背中に背負われた巨大な十字架。深いスリットの入ったシスター服を身に纏った金髪碧眼の、サーシャに似た女性である。
「あ、お姉ちゃん♡」
「《降臨》を使うなんて珍しいじゃないか、マーニャ」
地に降り立ったシスター服の女性――マーニャに向けて駆け寄る面々。
しかしマーニャはちょっと待ってねと手で示すと、目を閉じ、両手を握り、祈りを捧げるポーズで天を見上げた。
「《聖神》様、今日もお力を貸して頂きありがとうございます……」
「お姉ちゃん、別に毎回それやらなくてもいいと思うよ……」
「何を言っているのです、私たちは不遜にも神様から特別寵愛を頂いているんですよ、常に祈りと感謝を捧げるのは当然でしょう」
祈りを終え、マーニャはウィンドウを開いた。
その画面をチームメンバーたちに向けて、説明する。
「新コンテンツ実装だそうです、これからメンバー全員で行きませんか?」
「新コンテンツ!? はえー、この前の緊急クエストといい、神様運営頑張ってるなぁ」
「行こう行こう! レベル上げは中止だね♡」
新設ギルド、【美徳伝】。
《勇気》、《愛情》、《忠義》、《寛容》、《分与》、《節制》、《慈悲》。
『世界を救う』という崇高な使命を与えられた彼女たちが、『世界を壊す』という大罪に侵された少女たちと出会う運命は、すぐそこに。
ようやく出せた、ライバルギルド。
大罪の対極を七人分考えるの大変でした。




