第三十二話
さっきゅんが居ないせいでギャグ成分が足りない……。
スキルを封印するスキル。
それは戦闘においてスキルに依存したこのゲームでは非常に非常に強力な効果であることは最早説明するまでもないだろう。
《妬神》の加護がそんなスキルを持っているなんて全然聞いたことも無かったが……どころかネット上の何処にもそんな情報は載っていなかったが、兎も角。
もし何の制限も無くそんなスキルを使うことができるのなら、それはバランスブレイカーと呼ばれても仕方の無いゲームクラッシャーとなるだろう。
でも、
制限はあると私は確信していた。
ていうか本人が言っていたんだよね、『自身が嫉妬したスキルしか封印できない』と。
それは、あの嫉妬娘にとって実質制限なしだと思うかもしれないが、そして本人もそう思っているかもしれないが――それは違う。
「こんにちは」
「…………」
森の中。
もう撒いたと思っていたのか、隠れるわけでも無く悠々と歩いていた嫉妬女にユニは不意打ちするわけでもなく正面から堂々と声をかけた。
その様子を、私たちは少し離れた木陰から様子を伺っている。
いつでも援護に行けるように……だけど、正直援護が出来るかはわからない。
《怒神》の本気戦闘は、敵味方の見境が無いからなぁ……。
「さっきはよくも殺してくれましたね」
「…………きゃ、きゃあああああああああああ!? オバケぇええええええええ!?」
嫉妬女が、滅茶苦茶可愛らしい悲鳴をあげて驚いた。
殺したと思ってた相手が生きていて、しかも薄暗い森に現れたのだ。そりゃ誰だって驚くだろうが……なんかイメージと違う反応だ。
「ば、化けて出てきたってわけ!? このゲームそんなシステムもあるの!? い、言っとくけど私は悪くないからね、私はただNPCを殺してただけなのに、貴方達が襲い掛かってくるから正当防衛で攻撃しただけだから!」
「…………」
「そしたら思いのほか弱くて殺しちゃったけど……それはアナタが弱かったのが悪いだけで、私は悪くないんだから! だから私を恨むなんて筋違いもはなただしいわ!」
「そうですね」
その通りだと思います、とユニは頷いた。
そして私も、内心で頷く。
嫉妬女は悪くない。それに関しては同意だが――。
「私を殺したことに関しては、どうとも思ってません」
「そ、そう……」
「でもね」
にっこりと、ユニは微笑む。
額に青筋を浮かべながら。
「私は怒っているんですよ」
ぞわっと痺れるような感覚が背筋を伝った。
木々がざわめき、空気が散りつき、周囲の鳥が逃げるように飛び立っていく。
ユニとは、もう数ヶ月の付き合いになるけどここまで怒っている姿は始めて見るな……まあ自分を殺されたとあればそりゃ怒りも……ん?
あれ? 殺されたことに関して怒ってるわけじゃないの?
じゃあ、あの子は何に……。
「よくも……」
「え、何? 何?」
「よくもマコさんを泣かせたな!」
直後、《怒りの境界線》発動を宣言――ユニは《怒り》状態になり、
《怒神》の加護が誇る数多の《怒り》時に発動するスキルが、宣言なしで全て発動した。
*****
スキルの発動には、基本的に口頭での宣言が必要である。
つまりプレイヤーの皆がスキル名を叫びながら戦闘しているのは別に皆が皆そういうの大好きな中二病というわけではなく、必要に駆られてのことなのだ。
だがしかし、一部のスキル――例えば《怒神》のスキルの殆どが宣言の必要なく発動するスキルである。
状態異常《怒り》になった瞬間、発動するスキルばかりだから初見では何が起きているのか分からない。
何が起きているのか分からなければ、嫉妬しようが無い。
つまり、ユニのスキルは嫉妬女の封印スキルによって封印されることが無い……! 筈!
「もし私の推測が外れててスキル封印されたら援護に飛び出すから準備しててね」
「そんなことよりお前、随分と憤怒女に想われてるんだな」
「自分が殺されたことよりも仲間が泣かされたことに怒る……か、良い仲間だな」
「…………」
なんか恥ずかしいからスルーしてたのにやめろ!
「■■■■■■■■■■■■■――ッ!」
ユニが、言葉にならない咆哮をあげて地面を蹴りだした。
《怒神》の加護は、数多に存在する《怒り状態の時》に発動する攻撃力上昇スキルを重ねがけすることによって超火力を出す加護である。
《怒りを力に》、《怒髪天を衝く》、《憤怒の極み》、《怒鬼》、《神々の怒り》、etcetc。
おそらくは十を越える数のスキルが同時発動して、そのスキルエフェクトが凄いことになっていた。
自己強化形のスキルはオーラのようなエフェクトが使用者を包み込む。
故に色取り取りのオーラエフェクトが重なって、どす黒いオーラがユニの姿が見えないほど覆っていた。
見た目、完全に鬼である。
そしてその攻撃力は――。
「っ――!」
嫉妬女が目を見開いて、大きく飛びのいた。
その判断は、正解だっただろう。
受け止めようなんて考えていたら、その一撃で終わっていた。
からぶった攻撃の余波で、嫉妬女は吹き飛んだ。
流石、攻撃力に全振りしているだけはある。
全力状態の私よりも、攻撃力だけならユニの方が上だろう。
地面に叩きつけられたハンマーが、大きくめり込んで地面にひび割れを作っている。
「ぐ……あっ……」
吹き飛ばされて、大木に身体を叩きつけられた嫉妬女が呻く。
「■■■■■■■■ッ――!」
しかして一切の容赦も、躊躇も無い。
憤怒の一撃が、間髪入れず嫉妬の化身に振るわれた。




