第三十三話
ユニの攻撃は、まるで吹き荒れる暴風のようだった。
ハンマーを一振りするたびに、その余波で木々が薙ぎ払われ地面が陥没していく。
流石攻撃力に全振りしているだけあって、驚異的な火力である。
防御力も素早さも上がらないということで評価の低い《怒神》の加護だが、こうやって目の前で戦っている様を見ているとそれがエアプの評価だということがよく分かる。
コントローラーでぴこぴこ動かすテレビゲームなら兎も角。
当たれば死ぬという超火力を持つ相手がぶんぶんぶんぶん武器を振り回しているというのは、思いの外厄介だ。
しかも、当たらなくとも掠れば大ダメージ、掠らなくても余波で吹き飛ばされる。
《怒神》の加護。
思ったよりも、強いじゃあないか。
と、私は逆さ向きで大木にめり込みながら感心するように頷いた。
え? なんで木にめり込んでるだって?
余波に吹っ飛ばされたんですよ、ええはい。
「■゛■゛■゛■゛■゛■■■――!」
幾重にも重なったスキルエフェクトによって、黒鬼のような見た目となったユニが叫ぶ。
その叫びだけで、地面に罅が入った。
流石にただ叫んだだけで攻撃判定は無いだろうから、あれは《怒りの咆哮》っていうスキルだっけか。
スキルの発動を宣言せずとも、怒り状態ならば《怒神》の加護はスキルを発動できる。
まさかそんな利点ともいえないような特徴が、ピンポイントなメタになるとはなぁ……。
「くぅ……!」
嫉妬女はスキルの封印などする素振りも見せず、ただ攻撃の回避に専念しているようだった。
回避しきれずについた傷は幾つかあるものの、致命傷と呼べるようなダメージはまだ負っていないのは流石というべきか。
頬の切り傷から流れる血を拭いながら、右手の包丁を握りなおす。
瞬間、ユニの攻撃が襲い掛かった。
逃亡なんてする暇も無いくらい、ユニの攻撃は苛烈を極めている。
仲間ながら軽く引くくらいだ。
どうやらあの状態だと疲れも知らないようで、攻撃に衰えも見えない。
このまま長期戦になれば、勝つのは間違いなくユニだろう。
「勝ったな、風呂入ってくる」
「それはフラグか? 怠惰の娘」
そんなことを言いながら、凶夜くんが私の手をひっぱって大木から引きずりだしてくれた。
おいおい、そんな優しい行動をしても私は惚れたりしないぜ?
なんてどうでもいいことを考えながら、素直にお礼を言って立ち上がる。
「おい凶夜、他の女に色目を使ってないで戦闘準備をしろ」
「使ってねえよ!? って、戦闘準備?」
もうこれ憤怒の勝ちだろ?
と首をかしげる凶夜くん。私も全くの同意見である。
「阿呆。お主らの目は節穴か? 見ていれば分かるだろうが。
……あの嫉妬女、段々憤怒女の動きに対応していっているぞ」
え?
「《嫉妬の炎》」
青い炎が、意思を持った生き物のように滑らかに動いてユニのハンマーを受け流した。
受け止めるのではなく、受け流す。
成る程攻撃を止めることはできないが、攻撃の軌道をずらせば余波も最小限の被害で済むということか。
……って、感心してる場合じゃない! どんな運動神経と反射神経だよあの猛攻を受け流すとか!
ハンマーを空振ったユニは今隙だらけ……マズイ!
「《嫉妬の》――」
嫉妬女が、包丁に青い炎を纏わせながら振りかぶる。
怒り状態で我を失っている今のユニに回避行動なんて不可能。
防御力は微塵も上昇していないユニの耐久なんて、一撃でぶち抜ける。
これで終わりだ。
なんて。
嫉妬女は考えているのだろうか。
というか、ソニアちゃんも凶夜くんも同じことを考えているかもしれない。
でも、私とユニは、にやりと笑う。
「《炎》!」
「――《明鏡止水》」
冷静に、重たいハンマーを手放して、
ユニは炎を纏った包丁の刺突を回避した。
嫉妬女が驚きで目を見開く。
たった一度回避行動を起こしただけで、ユニは再び怒り状態に戻ってしまったから私が解説しよう。
《明鏡止水》。
《怒神》の加護が持つスキルの中でも珍しい攻撃力の上がらないスキルである。
その効果は『怒り状態を維持したままワンアクションだけ正気に戻り行動できる』という(《怒神》の加護にしては)かなり使い勝手の良いものだ。
怒り状態の単調な攻撃に慣れてきた相手を、このスキルで獲る。
それがユニの――《怒神》の加護の基本戦術。
「しまっ――!」
避けられることを想定していなかった大振りをかわされて、大きく隙を晒した嫉妬女を怒り状態のユニが見逃すはずが無く。
「■■■■■■■■――ッ!」
言葉にならない叫び声をあげて、拳を振り上げた。
ユニの拳は嫉妬女の腹部にクリーンヒット。
骨とか肉とか内臓とか、色々なものが潰れる音が当たりに響き――そして。
嫉妬女は、遥か空の彼方へ飛んでいった。
ユニの勝ちだ。




