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第二話

 このゲームにおける戦闘は、全て《スキル》と呼ばれる特殊能力に依存する。


 例えば《剣技》というスキル。

 これがあればどんな素人だろうといっぱしの剣技を使うことが出来る。


 例えば《弓道》というスキル。

 これがあればどんな素人だろうと弓による狙撃が可能になる。


 そしてそのスキルを与えるのが――《加護》だ。


 八百万種類以上存在するといわれる『神』から、一柱だけ《信仰》する対象を設定し加護を貰う。


 そうすることによって、例えば《剣神》の加護ならば《剣技》や《居あい抜き》等の剣に関するスキルを、

 《弓神》の加護ならば《弓道》や《狙い撃ち》等の弓に関するスキルを、それぞれ貰うことができる。


 故にこのゲームにおいて最も大切なことは、自分に合ったスキルを得られる加護を選択することだ。


 《剣神》、《弓神》、《炎神》、《水神》、《邪神》、などなど。

 豊富すぎる選択肢から、これ! と自分が納得行くような加護を選ぶ。


 加護を変更するとレベルリセットされるということからも、これは慎重に行ったほうがいいだろう。


 というわけで《怠神》と《淫神》とかいう見えている地雷加護をわざわざ踏んで、それをそのまま使い続けている私たちは今日も今日とてクエストに精を出すべく酒場に来ているのであった。


「のんのん、待ってマコちゃん、《淫神》の何処が地雷なの。エロくて強くて最高じゃん」

「地の文を読むのをやめて。……ていうか自分で言っておいて何だけど《怠神》は地雷でもないか。何せ何もしてないのに経験地が貰える」

「だから寄生プレイヤーご用達とか言われているんだよなぁ……」


 そんな会話をしながら、酒場の扉を開ける。


 酒場。

 それは文字通り酒が飲める場所というだけではなく、様々な《クエスト》を受けられる場所でもある。


 RPGゲームに出てくる酒場のイメージそのままな、木製のテーブルと椅子が立ち並ぶ広い店。

 そしてその中を埋め尽くす酒を持った荒くれや冒険者――は、大抵がNPC。


 何故なら《クエスト》というのは、このゲームの世界――《大陸》に数ある町に各一つずつある酒場からのみ受けられる町民からの依頼だ。

 受注して達成すれば報酬が貰える……のだが、達成は期限内に受注した酒場に戻ってこなければならない。


 まだ出てから日が浅いこのゲームで、殆どの人は特定の拠点を持たずダンジョンを巡ったり世界中を旅したりしている場合が多く、一々酒場に戻ってくる必要がある《クエスト》はあまりこなさないのだ。


 さらに言うならば、本物の世界より広いと言われるこの世界はそれこそ無数に町が存在しており、プレイヤーが多いと言ってもこの町に滞在および拠点にしているプレイヤーはおそらく十人に満たないだろう。


 こんな広い世界のオンラインゲーム、人類には不可能といえないが精算が取れないだろう。


 改めてこれが神の作ったゲームなのだと思い知る。


「そういえば信者の数が一番多い神様が《剣神》から《盗神》になったってさ。何でもダンジョン攻略に必須レベルで役立つからって」

「ふぅん、ダンジョンかー。あんまり深く潜ったことないよね」


 雑談しながら、NPCを避けてクエストボードに進む。


 ここに貼ってあるクエスト用紙を受付に持って行くことによってクエストの受注が出来るのだ。

 出来るだけ楽できて沢山稼げる仕事がいいなーっと見渡していると……。


「あ、あの……すいません」


 突然、横から幼い子の声で呼びかけられた。

 見ると、そこに居たのは声の通り小さな女の子。


 歳は十三くらいだろうか。

 駆け出しプレイヤーがよく着ている序盤装備を装備した、青い髪、赤い瞳が特徴的な少女だ。


 いかにも気弱そうな雰囲気を纏っていて、何だか儚げ……と表現したらいいのだろうか。

 吹けば消えそうというか、叩けば泣きそうというか。


「その……クエスト、取りたいんですけど」

「わお。これはごめんねお嬢ちゃん」


 どうやらクエストボード前に陣取っていたのが邪魔だったらしい。


 さっきゅんが一歩下がると、少女はとあるクエスト用紙を取ってささっと受付に走っていった。


 この町――そういえばこの町の名前をまだ私は知らない――の近くにある森、《モンキーフォレスト》と呼ばれる猿型モンスターが闊歩する森に生えている薬草を採取してこいという簡単な依頼だ。


「今の子……採取クエストを受けるなんて珍しいわね」

「折角だから討伐クエストをやってみたいって人ばっかだもんね。……まあ、あんな小さな女の子だったし色々事情があるんじゃない?」


 例えば現実世界で余程酷い目にあって、別にゲームは好きでは無いけどこっちの世界でしかもう生きるすべがないから現実を捨てて、ああいう簡単なクエストを適当にクリアしながらこっちで細々と生きる人生――なんていう選択肢を選ばざるをえなかった、とか。


 あくまで推測だけど、そういう文字通り現実逃避した人というのは結構いるらしい。

 ていうか学生ニートしていた人とか大抵はこっちに移住したらしいし……。


「ま、私たちには関係ないや。何かいいクエストあった?」

「この《モンキーフォレスト》で数が増えてきた《ゴリラ猿》を五匹討伐、ってやつはどう?」

「ゴリラなのか猿なのかどっちなんだ……」


 まあ何でもいいや。

 適正レベルを見た限り問題無さそうなので、受注。


 受付の綺麗な姉ちゃんに用紙を提出して、酒場を出る。


 《モンキーフォレスト》に向けて出発だ。

 こういうとき普通のオンラインゲームみたいにファストトラベルが出来ないの不便だなぁ。


 加護によって基本的な身体能力が多少強化されているとはいえ、辛いものがある。ていうかめんどくさい。


「りありー。めんどくさがりやだなぁ、マコちゃんは」

「そうだね、でも」


 私は、さっきの自分の思考を思い出す。


 『例えば現実世界で余程酷い目にあって、別にゲームは好きでは無いけどこっちの世界でしかもう生きるすべがないから現実を――』


 捨てた。

 もう捨てた。


「現実なんて糞ゲーよりも、こっちの方が全然神ゲーだからね、仕方ない」


 その通りだね、とさっきゅんが笑った。

 でも、私は笑えなかった。

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