第三話
《淫神》の加護。
それは「エロいこと」に特化した神の加護。
そう聞くと使用者は非常に多数になりそうだし、一番初めの頃はこの加護を使うプレイヤーも相当数に上ったのだが今は見る影も無く使用人数は落ち込んでいるネタ職だ。
何せ、まず初期スキルとして覚えている《魅了》はそのままの意味で魅了という状態異常を付与するスキル。
魅了された対象は魅了をかけた相手を攻撃できなくなり、さらには簡単な命令なら従ってしまうという状態にできる強力な効果を持つのだが……。
まず異性にしか通用しない。
つまり男性型モンスター、女性型モンスター、性別不明モンスターの三種類が存在するこのゲームにおいて通用する相手が三分の一しかいないのだ。
さらに成功率は本人の魅力度という隠しステータス依存。
イケメンや美女にしか許されない加護であることが判明したのだ。
基礎能力値はどれも平均以下であり、魅了を成功させてようやく他の加護並みに戦えるようになる。
唯一覚える攻撃スキルである《セクシー☆ビーム》もセクシー度とかいう魅力度とはまた違う良く分からない隠しステータスによって威力が決められる産廃っぷりだ。
しかも使用する際はセクシーポーズを取る必要あり。
どうあがいてもネタ加護であるが、極めつけにこのゲームは全年齢対象であるため魅了した相手にエロいこともできないどころか《淫神》の加護を受けているだけで周りからは変態認定されること必至である。
総評として、男仲間同士で盛り上がるネタの加護としては非常に有用だが真面目に使っているのは初心者か本物の変態、といったところか。
*****
「《セクシー☆ビーム》!」
そしてその本物の変態もとい私の相棒さっきゅんが、極太のピンクビームで猿を蹴散らしていく。
なんてセクシーなポーズだろうか。
女である私も惚れ惚れしてしまうぜ。
「……といっても問題のゴリラ猿は出現してないんだよね。生息地もっと奥だっけ?」
「はぁ……はぁ……うぇいと、うぇいとよマコちゃん。ちょっと疲れたから休憩させて?」
「仕方ないなぁ」
《モンキーフォレスト》に入ってから一時間ほど戦っただろうか。
まだ戦闘において何もしていないから私は全然元気なのだが、一人でずっと戦っているさっきゅんは疲れただろうし休憩の頃合だ。
え? 何で何もしないのかって? 戦えって?
いやでもほら、私《怠神》の加護持ちだから初期スキルにある《何もせずに貰う経験地は美味しいか?》の効果で何もしなくても経験地貰えるから……なんて。
そんな理由ではない。
私が戦わない理由はちゃんとあるのだ。そこのところ勘違いしてもらっては困る。
「しかしホントふぁっきん加護よね《怠神》……パーティメンバーに迷惑かけること前提のスキルとか性質悪すぎでしょう……」
「いつも寄生しちゃってごめんね? 愛してるよ?」
「あ、ああああああ愛!? べ、別にこれくらいマコのためならどうってことないわよ! もっと私を頼りなさい!」
ヒモ男に引っかかる女みたいなことを言うさっきゅんであった。
顔を真っ赤にして喜ぶ姿は本当に愛らしい。
年下らしいし……そう考えたらより可愛く思えてきた。
「――きゃぁあああああああ!」
と、その時だった。
女の子の悲鳴が森に響き、木々がざわめく。
「何事!?」
さっきゅんが慌てて悲鳴の方向へと飛び出していった。
それに続くように私も走り出す。
現実世界では引きこもりニートであり体力が最底辺の私も、この世界で貰った加護の力によってある程度は能力が底上げされている……にも関わらず、私の横腹はすぐに痛くなって走れなくなったのでさっきゅんには先行してもらった。
仕方ない。《怠神》の基礎能力値上昇補正は最低値なのだ。
「《セクシー☆ビーム》!」
桃色のビームが、天に向かって伸びていくのが見えた。
その軌跡を見た感じ、結構近場だったようだ。
草木を掻き分け、私は早歩きでさっきゅんの元へと向かう。
「あ、いたいた」
「マコ!」
「ひぃぃ……」
木々が丁度生えていなくて、広場みたいになっている場所に出た。
そこに居たのは我が相棒ことさっきゅんと、涙目で怯えている見知らぬ少女。
それに加えて……ゴリラ猿と呼ばれる上半身がゴリラ、下半身が猿のモンスターが三匹。
おっと、一匹丸焦げになっているゴリラ猿がいる。
あいつはさっきのセクシービームの犠牲者か。
「現状は大体把握。じゃあ私は怠けてるからさっきゅん頑張れ☆」
「無表情なのに語尾に☆を付けないでよ気味悪い! それよりこの猿思ったより速い! 三匹同時はきついかも!」
「三匹全員倒せたら耳元で愛してると囁いてあげよう」
「おーけー! 猿共全員かかってこいやぁあああああああ!」
セクシービームを乱射しながら猿に突っ込んでいくさっきゅんを見送りながら、私は念のため怯える少女のすぐ傍に移動した。
うーん流石は低コスト高火力広範囲(さっきゅんが使うに限る)のセクシービーム。
何だか普通に勝てそうだ。
「あ、あの……」
「ん?」
のんびりと戦闘のなりゆきを見守っていたら、おずおずと少女が話しかけてきた。
青い髪に、赤い瞳。
あれ、この子どこかで見たことあると思ったら今朝クエストボード前で話しかけてきた子じゃん。
「お、……お姉ちゃんは戦わないんですか?」
「ふっ。私が出るまでもないってことさ……」
私が戦わない理由を説明するのも面倒なので適当にそう答えていると、ゴリラ猿の数は三匹から一匹にまで減っていた。
セクシービーム、流石である。
使いたいとは思わないが。
使用のたびにセクシーポーズ取らなきゃいけないとかキャラ的に無理すぎる。
「あーといっぴき! あーといっぴき!」
何だかご機嫌なさっきゅんが両手を銃の形にしてSPの続く限りセクシービームを乱射している。
ゴリラ猿は大量の極太ビームを器用に避けているものの、限界は近そうだった。
本当に三匹全部倒してしまいそうだ。軽々しくご褒美を提示するんじゃなかったと後悔する私の視界に……。
体長が通常の五倍ほどありそうなゴリラ猿が映った。
「あ」
木々を押し退けて、草花を踏み潰して、それはやってきた。
筋骨隆々。黒く太い体毛と大木のように太い腕に対して貧弱すぎる下半身が特徴的なでかいゴリラ猿。
これマジ? 上半身に対して下半身が貧弱すぎるだろ、なんて。
ふざけている場合じゃない。
討伐推奨レベルは五十ほどだろうか。
ゴリラ猿の親分らしきそのエネミーの頭上には、私たちプレイヤーだけに見えるエネミーネームが……。
「ぼ、ボスゴリラ猿……?」
「まんまな名前ねー」
て、のん気に言っている場合じゃない。
こんなの逃げの一択だろう。
そうさっきゅんに告げようとした瞬間、ボスゴリラ猿の腕の一振りでエロ女は私の背後にある大木に身体が叩きつけられていた。
「……は?」
「き、きゃああああああああああ!?」
『さっきゅんが戦闘不能になりました。』
というシステムメッセージが目の前に浮かび上がり、一拍遅れて少女が叫ぶ。
ついに私の出番がやってきたようだった。




