38 夢
胸に何かがこみ上げてきて、拳を地面に叩きつけた。手元の草をむしって水面に投げつけ、立ち上がってひとしきり空気を相手に暴れた。
泣くまいとして呼吸を止めた。草の上に倒れこんで、嗚咽を漏らしそうになる口をおさえながら空を見上げた。
自分の本心が見えた気がした。
私は本当はくるみを見つけたくないのだ。彼女がどうなったか知りたくない。ずっと探し続けていたい。
そう思っていたのだ。
感情の嵐が過ぎ去るまでの間、空を見ていた。曇り空から零れ落ちる光が鉛色の水面で力なく揺れるのを見ていた。冬枯れした森のざわめきを聞いていた。いつかヨハンセンが言っていた、森と自分の境界が溶け合うという話を思い出した。それがどういう状態なのか、訓練を受けていない私には知りようもなかったが、しばらくそうしていたら気持ちは落ち着いてきた。疲れが出たのか、眠くなった。多分ほんのわずかな時間、私は眠り、そして夢を見た。
私は土の中にいた。氷の粒が混じる冷たい泥の中で、暗闇に引きずり込もうとする力に抗っていた。おぼれている感覚に近いが、水と違って泥は重く真っ黒で、至るところに石や木の根や虫の屍骸がまぎれている。暗闇をひとかきするとほんの一瞬空が見えるが、すぐに周囲の泥が崩れかかる。酸素を求めて開いた口に、容赦なく泥が流れ込む。反射的に吐き出そうとするのだが、逆に喉の奥にまで流れ入ってくる。呼吸などできず、ミミズやアリが粘膜の上を這いまわり、たまらなく不快なのにどうすることもできない。激しく咳き込み喉をかきむしるが、その指先が腐ってぼろぼろに欠け落ち、白骨が露出した。
不思議とそのことに驚きはなく、ただ静かな悲しみに包まれ、動くことをやめ、泥の奥深く沈んでいこうとしたとき、ずぼりと、目の前に穴が開いて光が射した。
光のトンネル。煙が立つように泥が渦をまき水が流れ込んでくる。ごぼごぼと泡を巻き上げて、次々と光の柱が立つ。自然に身体が浮かび上がり、光射す水中、そして大気の中へ。一面に広がるインディゴの空を、つぎつぎと影がよぎる。動けないまま目で追うと、それは水鳥の翼。泥の中からその足を抜き去り、自由な空へと飛び立っていく姿。一時の休憩を終え、南の越冬地へと向かうタンチョウの群れだった。




