35 山中彷徨
休みのたびに同じことばかりしていた。釧路や弟子屈や阿寒町、ときには札幌まで足を伸ばして、くるみの情報を求め聞き込みをした。最初は誰もが同情してくれるが、何の進展もないまま一年、二年がすぎるとさすがに嫌がられる。私がくるみの家族でもなんでもなく、ほんのひと夏一緒に過ごしただけの関係だと知ればなおさらのことだ。
いつまでもそんなことではいけない。彼女もそんなことは望んでいない。
担当の刑事にそう諭された。
やめてくれ、と私は思う。その言い方はまるで、くるみがもう――
……そもそも刑事は、くるみのことを知らない。
まわりの人間が自分のことで右往左往していれば間違いなくくるみは喜ぶ。くるみはそういうことでしか愛情を確かめられない人間だ。たぶん私がくるみのためだけに人生を投げ出して破滅していくのを見たら、歓喜と快感に身を震わせるだろう。
もし仮に、どこかで見ていることができたら、という話だけれど。
朝、いつものように軽トラで家を出て、いつもの場所で車を降りた。国道240号線、通称まりも国道の、とりたてて特徴もない一点。私がくるみを拾った場所、あるいはくるみが私を捕まえた場所だ。
路肩に張り出した広葉樹の根の上に腰を下ろし、煙草に火をつけようとする。どっ、と強い風が吹いた。
にわか雨のようにばらばらと、枯葉や枯れ枝が落ちてくる。どんぐりか何かが打楽器のような音をたてる。つかのま、女の声が聞こえた。
叫ぶのでも呼びかけるのでもない、日常の会話のような調子だった。
耳を疑った。今は山歩きの季節ではない。山中に人がいるはずはないのだ。誰もいないのはわかっているのに、きょろきょろとあたりを伺ってしまった。
息をつめ、耳を澄ます。もう、何も聞こえなかった。止むことのない森のノイズがすべてかき消してしまう。ただ、そのときになって初めて、道が見えた。
森と道路の境に切れ目なくはびこる笹薮の密度が、ある部分だけ薄い。獣道とも涸れ谷ともつかない、細長いくぼみのようなものだが、一筋に続いている。
その先にくるみがいるなどと信じたわけではない。女の声が空耳ではなかったと、確信があったわけでもない。何も考えてはいなかった。理由というなら、ただそこに道を見つけたから。
私は森の奥に向かい歩き出した。
草を掴み、岩や木の根を這い登って尾根まで出た。
北に折れて尾根筋を辿ればピンネシリ山頂、下ればキネタンベツ川に向かうはずだが、ガスが濃く視界が効かない。結局、人の声は二度と聞こえなかった。
さすがにあてもなく山中深くには入れない。休むことに決めた。




