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私のカタチ 2 彼女に関するすべてのことを  作者: tetsuya
第2章 終わりの夏、夏の終わり
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29/50

29 続けていいよ

 話している間にくしゃみがいくつも出て困った。気がついたら私もけっこう濡れている。私もシャワーくらい浴びたいな。そう思うのだが、くるみの寝息があまり健康でない気がする。

 ベッドの端に腰を下ろして、彼女の顔をのぞきこんだ。

 そして、古傷の疼きみたいに思い出すのだ。

 こいつはまるで、現実じゃないみたいに美しいって。

 下着もなしに薄物一枚で寝ているせいで、身体のラインがくっきりと浮き出て見える。服を脱がせたり身体を拭いたりしたときの感触が、手にまざまざとよみがえる。水をはじくすべすべとした肌、全身がしなやかな筋肉につつまれて、歪みや弛みがどこにもなかった。天国の職人がとくべつ念入りに作ったような、足の指の一本一本に至るまで完璧な身体だ。

 まったく、同じ人間とは思えない。

 私の身体は強くて丈夫で、これはこれでそう悪いものではなくて、私の生き方にはふさわしいものだけれど、こんなきれいな顔と身体だったら、私はどんな人生を歩んでいただろう。 

 本当に欲しいものを欲しいと言えないままあきらめるような、そんな卑屈な私には、きっとなってはいなかった。

 いやそれとも、中身がこの私のままだったら、結局同じことだったろうか。

 それでも未明は、私に気づかないままだったろうか。

 ふと、嫉妬とも憧れともつかない熱っぽい感情がこみあげてきた。

 たぶん愛情ではない何かだ。傷つけたいような、何かを奪ってやりたいような。

 自分でもなんだかわからないものに突き動かされて私は、眠るくるみの顔に顔を寄せた。頬を撫で、柔らかな唇にそっと指先をはしらせてみて、彼女の体温がやけに高いと気づいた。

 風邪をひいていたとしても不思議ではない。額に額をかさね、熱を測ってみる。しかし、そのとき――

 くるみが不意に目を開き、私の目をのぞきこんだから、思わずのけぞってしまった。

「どうしたの。続けていいよ」

 真顔でそう言われて、まっすぐに見つめられて、首筋のあたりが熱くなった。逃げ出しそうに見えたのだろうか、

「行かないで」と、手を掴まれた。 

「風邪ひいてるんじゃないか」そう言ってみたら声がかすれた。くるみはしばらくの間何も答えなかったが、

「ごめんね」

 小さな声でそう言った。

「来てくれて嬉しかった。ありがとう」

「いいよ、気にすんな」

 こんな態度に出られるのは初めてのことで、心ならずもどぎまぎしてしまう。

「でも、どうして」

「え、なにが」

 くるみが問い返してくる。

「……手紙」

「あー、あれね」

 そっちのほうは気にしてなかったらしい。 

「わかるじゃん、しずくちゃんが思ってるとおりだよ」

「私はずっとはこの町にいられない。最初からそう言ってたろ」 

「知ってたよ。でも、ほかの誰かにとられるのは悔しいじゃない」

「私とヨハンセンはそんな関係じゃないし、おまえと私だってそんな関係じゃないだろう」

「寝てるあいだにキスしようとしたくせに」

「ち、ちが、おまえがなんか熱っぽかったから……」

 くるみが不意に手をのばして私の顔に触れる。いつもとは違う。遊んでいる顔ではない。


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