13 私はただの従業員ですよ
まあ、だいたいはご想像通りの話である。
台所で昼食の仕度をしていたら、窓からくるみと内藤が見えた。もちろん何を話しているかはわからない。ただ、二人の距離が男と女の距離だった。そういうことに疎い私にも、一目でわかるくらいに。
さて、昼食も済み、店の掃除も片付いたが、お客は一人も来ない。通りにちらほらと人影が見えることがあるのだが、店の中までは入ってこない。内藤先生の車はまだ目の前にあった。くるみは帰ってきていない。
あまりに暇なので休憩をもらった。
通りの向かいの喫茶店でクロッキー帖を広げて次の作品のアイデアを探っていた。
コーヒーに手をのばす。苦い。というか、冷え切っている。いつのまにか時間が経っていた。そろそろ店にもどろうか、ノートを閉じかけたところで、目の前に誰かが立った。
顔を上げると内藤先生である。
「月島さんですね」
「私はただの従業員ですよ、何か御用ですか」
「ただの従業員、ですか」
なにやら含みのある微笑を見せる。なんだかむかついた。
「くるみの担任の先生なんですか」
「担任でした。今は違いますが、教え子であることに変わりはない……こちら、座ってもよろしいですか」
空いてるテーブルがたくさんありますよ、と言おうと思ったがやめた。どうせ私が席を立つ。
「くるみさんね、去年の六月以来、一度も登校してないんですよ。もったいないでしょう、将来のこと考えたら。あなたからもお口添えいただけませんか」
「家族で話し合って決めればいいことでしょう。他人の私が口をはさむことじゃない」
「あの子には家族はいないんです」
内藤はそう言った。
「捨てられたんです。母親から一度、父親からは二度ね」




