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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第四夢
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~届かない声~6

紛れもなく、夢の中の園田の後ろには、もう一人の園田がいたのだ。


「お…俺が二人…?」


「んー、正確には三人じゃない?」


驚く園田に対して、漠はおどけた様子で指を差す。


「漠、今はそんな冗談を言ってる場合ではないでしょ?」


呆れた様子で有村はそう言うと『夢装神』と呼ばれる武器、銃に変化すると漠の手に収まると、そのまま影の園田に銃口を向ける。


「……あなたが…『獏』さんですか…。」


影の園田は漠を見てそう言うと、掴んでいた首を離してステージからふわりと降り立つ。

その瞬間、機材やスピーカーが突然ショートして火花が散るとライブ会場にいた全ての人間が消え、その瞬間、睡魔の纏う空気が変わった。酸素がなくなったのかと錯覚するほどに息苦しくなり、そして妙に肌寒く感じるようになった。


「…何…この感じ…やだ…怖い…。」


空気に耐えれなくなった千奈美は、その場にしゃがみ込んでしまう。その横で園田も同じように尻餅をついてしまった。


(威圧的…いや、そんなのじゃない…これは単純な悪…邪悪そのもの…これが…『睡魔』…。)


千奈美の説明を思い出して園田は影だった園田見ると、その影は漠にゆっくりと近づく。影に入り、その影から出てきた時にはもう園田の姿をしていなく、黒のシルクハットに、黒のジャケット、そして白のカッターシャツとモノトーンカラーで統一された服装をしていた。手には木製のステッキを持っている。


「お会い出来る日を楽しみにしておりました、獏さん。噂はかねがね聞いております。」


恭しくお辞儀をする姿は紳士的ではあるが、睡魔の目は赤く染まっていて不気味な空気を醸し出している。


「お前ら睡魔に噂されたって嬉しくはないねー。」


頭を掻きながらため息混じりに漠は答えると、銃を握り直す。


「ボアードマンとハーピーを撃破されたそうですね。いやはや、お見事でございます。」


睡魔は拍手しながら笑みを浮かべた。しかし、その様子はどこか馬鹿にしているようにも見えて漠は不快感を覚える。


「…それって…誰?」


「とぼけないでください。つい先日、少女の夢にいた睡魔です。あの眠り続けていた少女…確か、美緒…と呼ばれていた少女です。」


美緒、という名前を聞いて千奈美はハッとして睡魔を見た。

美緒とはソムリュの弟、『オネイロス』が経営している病院で長い眠りについていた少女の名前だ。

そして、少女は漠の力により、その眠りから覚めたのである。


「お前、あいつらの仲間か?」


厳しい顔つきで漠は尋ねると、おどけた様子で怖い怖い…と呟いて口元に手を当てて笑っていた。


「仲間だなんて…ちょっとした知り合い程度ですよ。それに睡魔には仲間意識は本来、ありません。あやつらが珍しいから知っている…というだけでございます。」


睡魔の口調はあくまで丁寧だが、それ故に腹立たしく思えてならない。


「何かいちいちイライラさせるやつだなー…。」


「おやおや、これは失礼…。しかし、私はこういった話し方しか出来ませんので申し訳ありません。」


眉をひそめて話す漠に対して目を細目ながら謝る睡魔は、やはり人を不愉快にさせる顔をしていた。


「お喋りはここまでにしようか。」


「そうですね、それでは…私と…。」


漠は銃口を睡魔に向けると、睡魔も身構える。と、その瞬間、漠の目の前に睡魔が突如として現れた。


「ワルツでも踊りましょうか?」


「くっ…!!」


睡魔はステッキをまるでレイピアのように扱って漠に攻撃を繰り出す。目にも止まらぬ早さで突いてくる睡魔に対して防戦一方の漠は避けるので精一杯であった。


「ハハハ!どうしたんですか?!私を倒すんじゃないんですか?!」


紙一重で避ける漠に嘲笑う睡魔は、攻撃の手を緩めない。


「く…そっ!!」


漠は何とか睡魔との距離を取り、態勢を立て直すと、睡魔はステッキを弄びながら漠と向き合った。


「とても拍子抜けですよ、もっと期待していたのですが…こんなものですか…。」


「……。」


残念そうに睡魔が呟くが、漠は無言で睡魔を睨む。よく見ると、漠の服が所々、裂けていて、顔にもかすり傷があった。


「…え?ちゃ、ちゃんと避けてたんじゃ…?」


千奈美がそう呟いて漠を見ると、睡魔は演劇舞台の役者のように手を広げた。


「お嬢さん、あなた、『かまいたち』…という妖怪をご存じですか?」


「…え?」


突然の睡魔の質問に、意図が分からない千奈美は困惑した。


「私は疾風で切り裂く妖怪、『かまいたち』と呼ばれる存在です。見えない風の斬撃が彼の身体を切り裂いていたのですよ。」


そう説明すると、くくくっ、と笑いながら千奈美を見た。


「あなた達、人間は妖怪が生まれた原因は何だと思いますか?」


どんどん質問してくる睡魔…かまいたちに着いていけない千奈美は黙ってしまう。そんな様子に構う事なくかまいたちは話を続ける。


「私達、睡魔と呼ばれる存在は元々、あなた達の夢から生まれた存在なのです。妖怪しかり、悪魔しかり、妖精しかり…そして…。」


そこで一旦区切ると、かまいたちはステッキで漠を差すと、にやりとした顔をした。


「この獏と呼ばれる…この方も元々は睡魔なのでございますよ?」


「……え?」


「………。」


驚く千奈美に終始、無言でいる漠はかまいたちを睨み付けたまま動かない。


「そして、睡魔の目的は人間の夢を喰らって現実世界と呼ばれる場所に繰り出す。夢を喰らわれた人間は…一生、目覚める事なく一生を終える…。」


「…そ…そんな…じゃあ…漠さんは…。」


かまいたちの言葉に、千奈美は漠を疑いの目で見る。もし、かまいたちの話が本当にそうなら漠も誰かの夢を喰らい、誰かの人生を犠牲にした、という事になる。


「…ちーちゃん。」


黙っていた漠は千奈美を呼ぶと、千奈美を見て、いつものように緩く笑っていた。


「その話は、また詳しく話すから…今は僕を信じて?」


「…ば、漠さん…。」


「とりあえず、こいつを倒さないとねー。」


漠の言葉に千奈美は頷いてかまいたちを見た。


(…そうだ、漠さんは今まで私や色んな人の悪夢を助けてきた…きっと何か事情があったんだ…。)


千奈美は心の中でそう思うと、かまいたちをキッと睨んだ。


「おやおや…素敵な友情ですねー…。ですが…強がっても無駄ですよ!!」


かまいたちは構えると漠に向かって攻撃し始めた。


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