~届かない声~3
「お疲れー。」
ライブが終わり、園田の所属する『Black Horn 』は楽屋に戻る。
「いやー、今日のライブも最高だったな!!」
機材を片手に担ぎ、短い髪を掻き上げてメンバーの一人が話し掛けてくる。
「あぁ…隼人…お疲れ…。」
園田は男…隼人と呼ばれる男にそう返すと、隼人は機材を運び終えたメンバーにも声を掛ける。
「慎太郎、宗一、梨花もお疲れ様!」
隼人の声にメンバーもそれぞれに返事を返す。
隼人はバンドのリーダー役をしている。楽器はベースを担当していてメンバー以外にも音をまとめる軸としての役割をしている。
「今日の音響さん、何か適当じゃなかったっすか?」
ギターの弦を緩めながらボブカットの男、宗一は頬を膨らませる。
宗一はリードギター(メロディーライン)を担当していて独創的な演奏をする事で定評がある。ちなみにメンバー最年少である。
「適当じゃなくて、多分あの人は新人だと思うよ。」
宗一の隣でギターのボディについた汗を拭く銀髪の男、慎太郎はそう言って説明をした。
主にバッキング(リードギターの音を引き立たせるリズムギター)を担当していて、常に冷静にメンバーの演奏を聞いている。メンバーが何か決め兼ねている時はいつだって慎太郎の意見を聞くという、いわゆる『ご意見番』だ。
「それよりもー!!私のスティックケースどこだー!!また宗一かー?!」
そう言ってあちこち物色する女、梨花は激怒する。梨花さん、僕じゃないっすー!と宗一は誤解を解こうと必死に弁明する。
梨花はセミロングの髪を一心不乱に振り乱してドラムを叩く事で有名だ。そのパワーは男顔負けと言われ、口調もやや男勝りではある。そしてメンバー内でよくいじられる。(本人は不服らしいが…)
そんなメンバーがライブの緊張から解放され、ふざけている中で、園田は俯いて楽屋のソファーに座る。
「どうした祐介?疲れたのか?顔色が悪いぞ?」
隼人が園田の様子に気づいて声を掛ける。
俯いたまま、隼人の言葉に反応しない。園田の異変に、さすがに他のメンバーも気付き、はしゃぐのをやめて園田に近寄る。
「どうしたんだ祐?具合悪いのか?」
「祐介さん?大丈夫っすか?」
「腹でも痛いの?」
心配そうにメンバーが声を掛けるが、園田は大丈夫、とだけ呟くと顔を上げた。
「隼人…ごめん、ちょっと肩貸してくれないか?ちょっと外の空気が吸いたい…。」
「あ、あぁそれは構わんが、本当に大丈夫か?」
そう言いながら隼人は肩を貸すと園田と一緒に楽屋を出た。
「どうしたんスかね?祐介さん。」
「わっからん。ライブ前もテンション低かったしな…。」
「祐は繊細なやつだからな…。」
取り残された三人は園田達が出ていった楽屋のドアを見つめたまま、二人の帰りを待つ事にした。
ーーーー
ライブハウスの外でガードレールにもたれて園田は夜の空を眺めた。
(何の星も見えないな…。)
ここはビル街の一角、様々なネオンが煌めく都会の街の空は真っ暗で何も見えない。
「何を見てるんだ、祐介?」
缶コーヒーを買ってきた隼人は一本を園田に渡す。ありがと、と小さく呟くと園田は質問に答える。
「星…見えないなって…。」
「まぁ…街灯が明るいからな…。」
缶コーヒーを開けて一口飲むと、隼人も空を見上げた。しばらく二人は空を眺めたまま無言でいた。
賑やかな街並みに人の声、車のクラクションの音、ビル街から抜ける風の音…。様々な音を二人はコーヒーを飲みながら聞いていた。
「…あの…さ。」
園田は隼人を見ずに声を掛ける。隼人も園田を見ずに、ん?とだけ言ってコーヒーを一口飲んだ。
「…俺達のバンド…色々あったよな…。」
「…あぁ、色々あった。」
隼人は頷いて園田と同じようにガードレールにもたれ掛かる。
園田と隼人は『Black Horn』の初期からのメンバーなのだ。様々な脱退や加入を繰り返して今のメンバーで落ち着いたのである。
そして現在、そのメンバーで大手のレコード会社、音楽事務所からのオファーが殺到するまでの成長を遂げたのである。
「…今、俺達って大事な時期だよな…?」
「…あぁ、まぁ…そうだな。」
園田の言葉に隼人は相槌を打つ。それから二人の間には、また沈黙が訪れる。
「…祐介、何か大事な話がしたいんだろ?」
「…えっ?」
隼人の唐突の言葉に園田は俯いた顔を上げて隼人を見る。
「…な、何で…。」
「長い付き合いなんだ。分からない訳がないだろう。」
園田の驚く顔を見ないまま、隼人は缶をくるくると回しながら当然といった様子で答える。
「俺はベースだ。ベースってのはステージの全体を見る。ドラムが早くなってないか、今、ノっているか、ギターの音が飛び出してないか、どうか、ボーカルがより良い環境で歌えてるか否か…色々だ。」
そう言って区切ると、隼人は隣にいる園田に向き直り、真剣な面持ちになる。
「最近の祐介は何か…ライブで何か音楽以外の何かをステージに持ち込んで歌っているように感じていた。」
その真剣な声色、表情は怒っているようにも見えるが、隼人は怒っているのではなく真剣なのだ。そんな隼人の様子に、園田も目を反らせずにいた。
「…だがな、そこまで分かっても俺は心理学者でもなけりゃエスパーでもない。だから祐介が言わなきゃ俺はお前の気持ちは分からん。だから…話してくれよ。」
「隼人…。」
隼人の本音に園田は、心のつっかえた『何か』が外れたような気がした。
「…隼人……俺は……。」
ーーーー




