~夢の中で鬼ごっこ12~
「どうしましょう…漠さん…。」
「攻撃が効かないのは困るな…。んー…。」
有村の心配そうな声と、どう倒すべきか悩む漠は、とりあえず木の陰に隠れて様子を見た。だが、男はそんな漠を追いかけくる。
(ドーンッ!バキバキッ!)
「どこへ行ったー?!勝てないからって逃げたって無駄だー!」
男は叫ぶと木々をへし折りながら叫び声を上げた。
「あれは…凄い威力だなー。硬いからこそ、なせる技だねー。」
あくまで口調はのんびりではあるものの、漠の表情は緊張の色が滲んでいる。
すると、遠く…空の方から女の声が聞こえた。
「あなたの前方、二時の方向よ!」
「しまった、見つかった!」
おそらく空から偵察していたのだろう。女の指示で男が近づく音がする。急いで漠はその場から離れようとする。
「私の何でも貫く羽根の矢から逃れられるとでも思ってるの?」
甲高い笑い声と共に女は漠の逃げる方向へ羽根を飛ばす。
漠は間一髪、何とか避けると、その前には男が立っていた。
「鬼ごっこはお終いだ、小僧!」
豪腕を両手を組んで振り上げると、漠めがけて振り下ろされる。
「ちょ、勘弁して、よっ!!」
漠は鮮やかにバク転して避ける。土が上がり、辺りがクレーターのような穴が空いた。
「ちっ、ちょこまかと…。」
なかなか漠を捉え切れない男は苛立ちを露わにしている。
「そんな一撃、喰らったら洒落なんないじゃーん。」
漠は手についた土を払うと、男を見た。ふざけるように振る舞うが、敵の強さを感じているようだ。少し汗を掻いている。
「言っとくけど…私もいるわよ。」
いつの間にか背後にいた女が漠に声を掛ける。どうやら女と男の攻撃で挟み撃ちの状況へ追い込まれたようだ。
「私の鋼鉄の羽根で貫くのが先かしら?」
「それとも、この鋼鉄の身体で砕かれるのが先かな?」
ニヤニヤしながら二人は笑うと、漠は二人の言葉に何か閃いたのか、少し考え込む。
「あのさ、矛盾って言葉の由来って知ってる?」
「…は?お前、何を言ってるんだ?」
追い込まれているのにも関わらず、余裕の様子である漠に男は警戒をする。
「お前はどうだ?知ってるか?」
「…し、知らないわよ…それが何なのよ?!」
漠は振り返って今度は女に尋ねるが、質問の意図が分からずに答えた。
「そっかー。二人とも、意外に頭良くないんだね。」
「…何だって?」
そうやって漠は、二人をからかうと男は表情を変えた。馬鹿にされた事に腹を立てたようだ。
「矛盾の由来を知らないなんてねー、知識がないと色々困るよー?」
「こ、これから死ぬ相手に関係ないでしょ?!」
完全に頭に来た女は自慢の羽根を漠の額にめがけて勢いよく飛ばしてきた。
漠は跳躍して回避すると、羽根の矛先は男の額に突き刺さった。銃弾が効かなかった額は羽根によってひび割れている。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「矛盾っていうのはな、一人の商人が別々の場所で別々の物を売ってたんだ。」
跳躍の間、漠は説明しながら身体を反転した。
「ある場所じゃ最強の矛だって言って売って、ある場所では最強の盾だって言って売った。」
銃口を男の額に向けると、発砲する。見事に命中した銃弾は額を見事に貫通し、男は倒れて、次第に人魂のような形に変わっていった。
「そして、どちらの商売も見ていた人間が商人に、その矛で盾を突いたらどうなるんだ?って聞いたらしいんだ。」
飛びながら更に反転して漠は女の背後に着地する。男が倒された事に驚いた女は漠が背後に回った事に反応が遅れた。女がようやく漠に振り返ろうとした時には、もう漠は引き金を引いた。
(パンッ!!)
「商人はその言葉に項垂れた、そんな話さ。」
漠は誰に言うわけでもなくそう呟くと、一息をついて空を見上げた。




