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夢占い亭 霞の館  作者: ゆう
第三夢
19/37

~夢の中で鬼ごっこ7~

漠達一行は、ロスオネの案内で五階に上がり少女が眠る病室の前に来た。ドアの前には『高倉 美緒』と書かれていた。おそらく少女の名前だろう。


病室をノックすると、部屋から返事があった。


「失礼します。」


「…あぁ、院長。いつも娘がお世話になっています。」


病室には、少女、美緒の母親らしき人物が手を握っていた。

その美緒の手は痩せ細っていて、今にも折れそうなほどに衰弱しているのが医者でなくても分かる。

美緒の腕には点滴が刺さっていて、それが幼い少女の命綱となっていた。

もう死んでしまっているのではないかと疑ってしまいそうではあるが、心拍数を示す数字が、辛うじて生きているという事を証明している。


「…あの、こちらの方々は?」


母親は、漠達を見て不審な目を向けた。


「こちらは新井総合病院の薬剤師で、実の姉です。そして、こちらは…。」


ロスオネはソムリュを紹介し、漠達を紹介しようとして言い淀んだ。どう説明しようか、それを考える事を忘れていたようだ。


「えーっと…。」


「私のスタッフ達だ。」


「そ、そういう事らしいです。」


ソムリュが助け船を出して、各々が頭を下げて挨拶をした。しかし、母親は千奈美を見ると更に不審な目をする。


「えっと…じゃあ、こちらのお嬢さんは…?」


「あ、えと、えーっと……。」


「こ、こちらの女性は今度父親が入院するという事で、病室の見学を…!」


千奈美が説明しようとして、慌ててロスオネが誤魔化す。

母親は、はぁ…と納得はしていない返事を返すものの、院長がそう言うのであれば母親は納得するしかない。だが疑いは残っているようで、訝しげな顔は変わらない。


「それで、この子の点滴内容を変更すべきかどうかの相談で少女の様子を直接見に来た。」


堂々とした態度でソムリュはそう言うと、母親はそうですか、と言ってソムリュを見る。この人なら信頼出来ると、直感で思ったのか、それ以上は尋ねてこなかった。


「…私はこれから仕事があるので、これで失礼します。」


そう言って母親は病室を出ると、皆、安堵の息を漏らした。


「あ…危なかった…。」


「おい、ちゃんと母親が来てるなら言えよ、オネイロス。」


「だから、姉さんが突然来るからだよ!!」


「だから、それを言うなら漠坊にって…!」


「お二方、喧嘩してる場合じゃないかと。今はこの子の事が優先ではないでしょうか?」


言い争う二人を有村がなだめると、二人は黙って美緒を見る。

点滴と心拍測定器が無ければ、少女は穏やかに眠っているようにしか見えない。


「それにしても…美緒さんの母親、何だか冷たく感じたなー。何でだろ…?」


千奈美は母親が出て行ったドアを見つめて呟く。


「人様の家庭に首を突っ込むな、千奈美。それぞれが、それぞれの家庭なんだからな。」


「それも…そうですよね、ごめんなさい。」


ソムリュの言葉に千奈美は素直に謝る。そんなやり取りを全く気にしていない漠は、美緒の顔をじっと覗き込む。


「漠兄…何か分かる?」


「んー、夢の中に入らない事には分からなーい。」


でも、と呟くと、漠はロスオネに振り返り、言葉を続けた。


「おそらく、この子は睡魔の影響があるのは確かだねー。」


「…!やっぱり、そうか…。」


「うん。…あ、オネっち、ちーちゃんは気持ちのシンクロしやすいから、夢の中に入らないようにしてね?」


『気持ちのシンクロ』…それは他者の心情と同調している、という事らしい。

その同調が、時に同じ夢を共有する…つまり他者と同じ夢を見る事があり、千奈美の場合、夢の中に入ってしまう事があるのだ。


分かった、とロスオネは返事をすると小さく頷き、漠は手招きをして有村を呼ぶ。

有村が漠のそばに寄ると、おもむろに漠は有村の手を握り、反対の手で美緒の手を握ると、漠は能天気な顔をして振り返った。


「ほいじゃあ、行ってきまーす。」


そう言ったその瞬間、漠、有村、美緒が突然、強い光を放って輝きだした。


「眩しっ!!!」


思わぬ光に千奈美は咄嗟に目を閉じ、手で光を遮る。

徐々に光が弱まり、千奈美はゆっくりと目を開けると、美緒はベッドで横たわったままであった。だが、


「…あ、あれ?漠さん…?有村さん…?」


漠と有村は、目の前から忽然と姿を消し、その場からいなくなっていたのだった。

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