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 よほど怖かったのか、ベルタは俺の腕をしっかり掴んで歩いている。

 バトルの後の怯えた顔の彼女を見ればいくら俺でも察することができた。腕を掴んでて良い、と言えば嬉しそうな顔をしたくせに、自分の手を見て躊躇っていた。

 確かに泥だらけだ。だが、俺は面白味はないが神経質ではないと思う。

 構わない、と腕を出すと申し訳なさそうな顔をしつつ袖を遠慮がちに摘んだので腕をちゃんと掴ませた。

 新鮮で良いな。


「あ……クヌギさん、あれです!」


 森に入ってすぐにベルタが嬉しそうに指したところには、黄色の苺が生っている。彼女は手を離して苺の生い茂っている場所に駆けていく。

 少し寂しいが、嬉しそうに苺を摘む彼女を見ているのも悪くない。

 などほのぼのした気持ちで彼女を眺めていると、摘んだ苺をそのまま口に入れようとしている。


「ダメだ! 洗ってからだ」 


 疫病が流行る原因に不衛生さもあるからな。村に病が流行っていることを考えればここは慎重にならざるを得ない。

 彼女は少し衝撃を受けたような顔をしているが、それも可愛――


「ではなくて、そんな顔をしてもダメだ」


 ハンカチを渡すと、摘んだ苺をそれに乗せていく。だが、これではそんなに収穫できないな。確かに摘んだ傍から食べるのは効率が良いが、衛生的にな。

 何か入れ物でもあれば……。

 俺も一つ摘んでそう思うやいなや苺が消えた。


「む……どういう……そういうことか」


 すぐに分かったぞ。うむ、ゲームにだいぶ慣れてきたな。

 アイテムとして収納されているんだ。この辺の仕組みはさっぱり分からんが、俺が考えても仕方あるまい。

 それより、いくつまで持てるのか試してみよう。


 数えながら摘んでいると、10個摘んで終わりだった。

 ベルテも10個ほど摘んで終了だ。


「クヌギさん」


「……なんだ?」


「森の奥に、水が出ているところがあるんです。とっても綺麗で飲める水なので……」


「行ってみるか」


 初めから言ってくれれば良いのに。


「でも……森の奥に行くほど魔物がたくさん出てくるみたいなんです」


「なんだ。遠慮してたのか?」


 新鮮すぎるぞベルタ。いや、いっそ斬新と言うべきか。


「よし、俺が行って様子を見てくるから、ベルタはここで――」


「私も行きます」


「無理することはない」


 だが、ベルタは震える手で俺の腕をギュッと掴んできた。

 困った。この子を守りながらバトルなんて上級そうなこと、俺にできるのだろうか。

 正直なところ、ここにいて貰うのがベストだと思うが。


「クヌギさん」


 ベルタはふるふる震えながらも俺の腕を離さない。

 この子がヴァーチャルということが悔やまれてならない。


「では、魔物が出てきたら俺の後ろに隠れるんだぞ」


 やるしかないな。



***


 二人で用心しながら歩いていたが、すでに5回シュライムとバトルが発生している。


 ――パシャッ!


 ――……ザシュッ!


 いや、6回目だ。

 普通、野生の獣は警戒心が強いから人に寄ってくることはないのだが、遭遇率が設定されているから仕方ない。

 それに魔物だしな。


 ――ザシュッ


 最初は一撃で仕留められたのに、4回は切りつけないと死んでくれない。

 なぜだ。ナイフの切れ味が落ちているのか。

 しかも、シュライムは酸のような物を発射して攻撃してくる。避けきれずに浴びると、そこが溶けてくる。はっきり言って、熱いし痛い。


 ――バシャッ


「あつっ……くそっ! 貴様、これらからは司祭と呼んでやるっ! 覚悟しろ!」


 ……頭に来たるな。だが後、2回は切りつけないと……


 ――ザシュ 


 ――シュワー……


「お、3回で死んだ……弱いヤツだったのか? あ、もしかして……」


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ……少し待ってくれ」


 タブレットを出してステータスを確認する。

 ベルタが心配そうな不思議そうな顔で見ているが、まぁ、良いだろう。



 名前:クヌギ・マキ

 職業:少し戦う言語学者

 職業レベル:1

 ステータス:レンジャーLV.1

 総合レベル:1


 HP:12/27

 SP:2

 戦闘力:10

 防御力:6

 体力:25

 魔力:1


 スキル:言語・解析・火炎放射・振り回す


「おお、パラメータが上がっている。お【振り回す】が増えてる……なんか微妙だな」


 だが、職業レベルはそのままだが、「しがない」が「少し戦える」になっている。

 しかもステータスがレンジャーになっている。


 ……なんか、嬉しい。このままバトルをこなせば「戦う言語学者」とかになれるのか?


「あ、HPが12か……よし、ポーションでも飲むか」


 HPが0になると強制ログアウトだったな。そしてペナルティとして12時間ログインができなくなる。

 こんなところにベルタを残してログアウトできん。


 それにしても美味しいだけだと思っていたが、傷が治っていくし疲れが吹き飛んだ。

 よし、ベルタにも飲ませよう。


「だ、ダメです……そんな、大事なお薬……」


 だが、彼女は畏れ多いとばかりに拒否する。


「いや、ベルタも喉渇いているだろう? 遠慮するな」


「喉が渇いたくらいでは飲めません!」


 そういう物なのか。

 イエローベリーと精製水があれば作れるんだが。いや、作り方は分からないが。


「それに、もうすぐそこに水があります」


「ん、分かった。よし、行くか」


 無理強いは好まない。水場についたら水を飲むだろうしな。



***


「クヌギさん、あそこです!」


 5分ほど歩いたところでベルタが少し嬉しそうな声を出した。

 やはり、喉が渇いているようだな。

 彼女は俺の腕を引っ張って走り出した。


 水が湧いている場所は綺麗な池になっていて、その周りにはイエローベリーが鈴なりになっている。その淵に屈んだベルタは手で水を掬って必死に水を飲み始めた。

 その間、俺は池の水を【解析】する。


 どうやれば良いのか、まだ分からないがとりあえず掬って、じっと見る。


 アイテムLV.1:ノルド森の湧水、不純物が一切ない純度の高い水/効果、SPが2回復


 おお。昨日は気づかなかったが、アイテムにもレベルがあるみたいだな。


「ふむ。ろ過して煮沸消毒してから使おうと思ったが、不純物がないならそのまま使えるな……多分」


 さて、何に汲もうか……。


 再び水を掬うと、イエローベリーの時のように失くなった。

 アイテムを確認すると「ノルド森の湧水×1」が増えている。取り出すと瓶詰めされた水が出てきた。

 本当にどういう仕組みなんだ。

 ぶつくさ言いながら10瓶になるまで汲んだ。


 よし、イエローベリーも生っているしここでキャンプをしよう。キャンプを張ると周囲5mは魔物が寄って来ないとあったしな。

 まず火でも熾すか。


「それにしても……どういう仕組みなんだ?」


 どこから出てくるのか、炭やらライターを出して火を熾す。

 まぁ、言ってしまえばプログラムなのだろうが不思議だ。

 それからイエローベリーと湧水を出したところで、ベルタが笑顔でやってきた。


「わぁ! クヌギさん、すごい……いつの間に火を……」


 ああ、そうか。火を熾すのも一苦労な設定か。

 良いのだろうか。そういう場所でほいほい……ゲームだから良いか。


「ああ、苺は食べたか?」


「はい。お腹いっぱいです! 久しぶりにたくさん食べました」


 小さいイエローベリーでこの満面の笑み……。今までどんな生活をしてきたんだ。


「クヌギさん?」


 いかん、涙が出てきた。


「今度、美味しいものを食べさせるからな。待っててくれ」


「は、はい。楽しみにしてます!」


「よし! 気を取り直して……ベルタ」


「なんですか?」


 首を傾げるベルタに、イエローベリーと湧水を出す。


「ポーション……俺の薬なんだが、イエローベリーとこの水でできるはずなんだが」


 ベルタは不思議そうに俺の顔と、材料を交互に見比べている。

 突然そんなことを言われれば当然の反応だろうな。

 だが、ベルタも職業やレベルの設定があるということは、何か出来る可能性はあるはずだ――俺に【解析】スキルが身に付いたように。

 幸いここに材料はたくさんある。


「君なら作れると思うんだ、いや。できる」


「でも、道具もないのに? 私に、できるんですか?」


「ああ、できる。道具なんていらないさ」


 多分。だが、きっとできるのではないだろうか。


「分かりました。クヌギさんができるって言うなら。きっとできます!」


 ……お、おい。そんな簡単に信用するな、悪い男に騙されるぞ。


「え、と……苺と水、苺と水」


 ベルタは真剣な顔でぶつぶつ言いながら材料を手にとった。


「……きゃっ!」


 そして次の瞬間ベルタの手元が淡く光った。

 しばらくすると光が消えて、彼女の手に黄色の液体の入った瓶が出現していた。


「できた? ……できた! できました!」


「あ、ああ……やったな、ベルタ」


 ……本当にどういう仕組みなんだ? 瓶は一体どこから出てくるのだ!?


「く……考えても、仕方ないな。そういう仕様なのだろうな……いや、すごいぞベルタ!」


 材料の残りを数えると、ポーションはイエローベリーを4個、湧水1の割合で使っている。

 俺の持てるアイテムの数では効率が悪いが、それ以上に素晴らしい。


「クヌギさん?」


「あ、いや……どこか調子の悪いところはないか?」


 うむ、ただで出来るとは思えない。SP消費は確実にしているだろう。


 名前:ベルテ

 職業:薬師

 職業レベル:3

 ステータス:孤児

 総合レベル:1


 HP:1/12

 SP:6

 戦闘力:3

 防御力:1

 体力:11

 魔力:3


 スキル:調合


 【調合】が増えているが、スキル詳細は見られないのか。


「クヌギさん。もう1回やってみて良いですか?」


「ああ、好きなだけやると良い。俺はもう少し苺を摘んでくる」


「はい! いってらっしゃい」


 真剣な顔をしつついってらっしゃいをしてくれるベルタに和みつつ、苺摘みを開始する。

 うむ、バトルはともかく、なかなか和むゲームだ。


 苺は、10個だけだからすぐに摘み終わった。

 と、ついでに俺のステータスも確認しようとステータス画面を開くと、パーティーの項目が増えている。

 もしやと思い開くと、メンバー一覧が表示され、一番上にベルタの名前がある。


 ……ふむ、これで彼女の詳細が見ることができるのか。さっそく【調合】を……


 む、好感度とはなんぞや。


 好感度:48


 言葉通りの意味なら俺に対するベルテの好意を示す数値だろう。高いのか低いのか分からないが。

 こういうのが数値で見えるのは、なんか嫌だな。

 それよりスキルの詳細だ。


 スキル詳細

 調合Lv.2:レベルに応じた薬品の調合ができる/消費SP:アイテムLv


「む……」


 ポーションを出して解析を行う。


 アイテムLV2:ポーション、イエローベリーと精製水でできている/効果、HPが50%回復


 と、いうことはポーションはSPを2使うんだな。ベルテは3個ポーションを作ったらおしまいだな。

 俺もだがベルテもSPが低すぎる。

 どうやったらスキルレベルは上がるんだ。これも経験を積むしかないのか。

 うむ、やる分にはタダ――SPは消費するが湧水飲めば回復するしな。


 とりあえず、手当たり次第に【解析】してみるか。 



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