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始まり

 

 

「ふむ、ここがスタート地点か……」


 林に囲まれた、3mほどの高さの岩が円形状に並んだ場所に俺は立っていた。

 岩は何かの形に加工された遺跡――おそらく宗教の儀式に利用されていたのだろう――であることが分かる。

 岩の崩れ方や汚れで長らく放置されていることが推測されるため、今は使用されていないことは容易に分かる。


 凝った作りに感心しながら、タブレットからステータス画面を開き、更にアイテムから地図を取り出す。

 現在地を拡大すると、ここから南方およそ1km地点に集落があることが示されている。なかなか出来の良い地図だ。衛生を利用した3Dマップのように地形が詳細に分かるため、ルートの選定がしやすい。拡大縮小機能も装備されているな。


 ――地図は今のところ問題なし:スタート地点にて


 同じくタブレットからメモ機能を起ち上げ一言メモをする。


「よし、集落へ向かうか……」


 環状遺跡を出て林を抜けて集落へ出発する。


 と、その前に、装備をもう一度確認だ。

 この手のゲームは歩いているだけでモンスターと遭遇して、バトルに突入だったな。全く意味が分からんがゲームとはそういう物なのだろう。


 武器:サバイバルナイフ


 うむ、何回確認してもサバイバルナイフはサバイバルナイフだ。

 これだけで大丈夫なのだろうか。


『スタート地点はレベルの低いモンスターしか出ないから大丈夫』


 製作に携わる者が満面の笑で言うのだから大丈夫なのだろうな。とは言え、現実世界だけでなくゲームですらも戦闘などしたことのない俺が、何かできるとは到底思えない。


『だーいじょーぶ! ナイフ振り回せばなんとかなるから!』


 奴の笑顔が脳裏にちらつき余計に不安になってきた。




 俺は、この度ネイション社の新作VRMMORPGのBLTとやらに選ばれた。ネイションは旅行代理店から武器開発まで幅広く手がけている多国籍企業だが、広告塔代わりにゲームの開発に乗り出したらしい。

 そのゲームのテスターをネイションに務める既知に頼まれたのだが、俺はゲームはさっぱり分からないので即座に断った。


『お願い、マーちゃん! 報酬はちゃんと払うから』


『……いくらだ?』


 思わず聞き返してしまうと、奴はしたり顔で両手を広げた。


『ああ、任せろ』


 しがない言語学者の俺の年俸を遥かに上回る報酬を提示されれば断る理由など全くない。

 即座に契約書にサインをし、BLTの役割を快く引き受けるに至った。

 OGBだかOPBFの前にテストプレイをして、その中で感じた疑問――バグでも仕様でも――は些細な物でも記録に残す。

 それが俺の仕事だ。


「ここで、じっとしていても仕方ない……」


 集落まで1km――俺の足で10分程度だが、その間にバトルが発生する確率は低いだろう。

 俺はサバイバルナイフを握りしめて、歩き出した。

 



 そして俺はその30秒後に予想を裏切られた。

 林を出るか出ないかのところで、茂みから青い半透明の不定形の生物が現れたのだ。サッカーボールを一回り小さくした生物で、ほぼ水分でできているような不思議な体だ。

 無闇に殺すのは俺のポリシーではないが、どう好意的に見ても敵意剥き出しだ。しかも、よく見ると半透明の体に小動物の溶けかけている体が見える。


「……これは……ナイフでなんとかなる物なのか?」


 俺としては、酸で溶かすか高熱で蒸発させたい。


『だーいじょーぶ! ナイフ振り回せばなんとかなるから!』


 いや、無理だろう。

 だが、アイテムを思い返してもキャンプセットのライターくらいしかない。火力が足りん。


 ……そうだ、確か殺虫剤を持っていたはずだ。それでも足りないか……?


 ポケットを探ると、噴射式の殺虫剤が手に当たった。

 ナイフよりはマシな気がする。

 敵は知能があるらしく、こちらの動きを警戒するような動きをしている。目を離したら襲いかかってくるだろう。

 目を離さず足元の枝を拾いライターで何とか火を着ける。


 ……バシャッ


 敵は火を見て後退を始めた。

 ふむ、見た目通り火は得意ではない生物のようだ。

 火種を向けてモンスターに近付くと、奴は少しずつ後退しながらも逃げようとはせず、間合いが狭まっていく。


 ……よし、もう少し近付いたら


 そう思った瞬間奴が意外な素早さで飛びかかってきた。


「うわっ……」


 俺は咄嗟に火種に殺虫剤をスプレーした。

 思っていた以上の火力は敵を追い払うどころか、ある程度蒸発させるのに十分だった。


 殺虫剤のラベルを見ると、ネイション社のロゴと国連軍のマークがプリントされている。

 軍用の殺虫剤か。


 シュウシュウと音を立てて蒸発していくモンスターに、また飛びかかられては適わない。

 最期を見届けるまでそいつを観察することにした。


 そいつはゆっくりと溶けていき、30秒程かけてようやく消えた。最後には、そいつの体内にいた動物の溶けかけの死骸と青い石が残った。

 青い石はドロップアイテムとか言うやつか。


「それにしても、これが作り物とは……侮れないな」


 モンスターの動きと良い、知能と良い、まるで現実のようなリアルさに感服だ。


 たかがゲーム、されどゲーム。

 BLTも悪くないかもしれない。


 青い石を拾い、再び集落に向けて出発。林を出るとなだらかな草原が続いている。うむ、岩場や砂漠地帯などでなくて良かった。

 その後、モンスターに遭遇することなく10分程で集落のが見えてきた。

 

 ――スタート地点から集落に着くまで問題なし




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