表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/89

近付くタイムリミット 7

***********



 俺の産まれた家は、代々木をって暮らしていた。所謂いわゆるきこりだ。

 父さんは無口で・・・クラークよりは話をするって程度に無口でさ、俺に木を伐る様子を見せて学ばせてた。

 一から十まで見て覚えろって感じだったな。

 だからかな、俺は昔から他人を見て過ごしてた。

 父さんの姿を見て歩き、母さんの姿を見て生活して、友達を見て遊ぶ。

 誰かが何かをやり、その後にそれを真似まねする。それを繰り返していた。


 誰かの追従をしているんだ。失敗なんかも見てて、じゃあ自分は失敗しないようにってやってた。・・・・いや違うな。

 いろんなやり方を見て、失敗しないやり方を真似してたんだ。

 だから俺は、昔はよく皆に頼りにされてた。何をやっても上手くいくから。


 でも、俺のはただの真似だ。

 誰もやったことのない初めての作業は必ずと言って良いほど失敗した。

 だから、「誰かがやるまで俺はやらない」って、そんなこと考えて、必死で回避してた。


 馬鹿だろ?

 何にも挑戦しないってことは、自分の世界を広げないってことだ。俺は自分で自分の可能性を狭めていたんだ。

 小さな世界で満足して。

 でもそれじゃ駄目だった。駄目だって気付いた。



 きっかけは、村に魔法使いが来たことだった。

 魔法使いなんて、その時初めて見た。

 見た目はただの老人だったのに、あの人が操る魔法は鮮やかだった。


 一瞬で目を奪われた。それを俺も操ってみたいって思うのに、時間は掛らなかった。

 魔法を模倣もほうするために、あの人の後をついて回った。呟く呪文に耳を澄ませて、動作の一つ一つを詳細に真似した。

 だけど・・・俺は魔法を使えなかった。

 当たり前だ。

 魔法っていうのは、知識が大切なんだ。仕草を真似したところで出来るはずがなかったんだ。

 当時の俺はそれに気付かなかった。でもなんとなく、このままじゃ使えないってことは分かった。


 そこで諦めるって道もあった。・・もちろんこうして此処ここに居る以上諦めたりはしなかったわけだけど。

 諦めきれなかったんだ。

 でも悩みはした。だって魔法使いになるってことは、家を出るってことだったから。

 あの人は村に立ち寄っただけ。いつ出て行くとも分からない。再び村を訪れるかも知らない。そして魔法ってのは一朝一夕に使えるようになるものじゃない。

 あの人について行くなら・・・、魔法使いになるなら、帰れない可能性もある。それを幼い俺は感じ取ってた。

 実際、魔法使いになりたいと言った当時の俺に、あの人も父さんも似たような忠告をした。


 当時俺は12歳になったばかりだった。まだ成人には早い段階で生きる道を決めなくちゃいけなかった。

 悩むなって言う方が無理だった。

 さっきも言ったけど、俺の世界は極めて狭かったんだ。広げる気もなかった世界を大きくする。今までの生活と未知の世界。

 正直言って尻込みした。魔法は魅力的だったけど、居心地の良い場所を離れることは苦しい。


 子供特有の無謀な行動は、俺とは無縁だった。俺はそんな奴らの後を追うだけだったから。だから尚更悩んだ。

 悩んで・・・でも、悩むことから逃げることだけはしなかった。逃げたくなかった。

 その結果が、目の前の俺だ。



************



「それでも、時々思うんだ。俺の選択はあってたのかなって。でも年をとるたびに、答えを出したくないって思うようになった」


 自嘲じちょうの笑みが浮かぶ。

 私は何も言わずに先を促した。


「だって、間違いだったら、怖いから。今までのこと全部が、無意味になってしまうみたいで」


 タクトがこんな不安そうな顔を見せるのは、初めてだ。

 私を元の世界に帰すって、それだけのために頑張ってきた姿を思い出す。弱い私を護ろうとしてくれたタクトは、そんな不安を抱えていた。

 それを、初めて知った。


「・・・君をかえすべきか否かって考えた時、幼い時の俺を思い出したんだ。あの時も随分悩んだなって。でもあの時と今と、違うこともあった。決断から逃げなかった時の気持ちを、思い出したんだ」


 私の目を見るタクトは、澄んだ瞳をしていた。自嘲の笑みは消え、真剣な顔で私を見ている。

 「もう答えは出ている」

 音のない言葉が届く。だから私も、彼の言葉を受け止める覚悟を決めた。


「俺は、後悔していない。あの日、あの人・・師匠について村を出たこと。魔法使いになったこと。・・・王立魔術師にならず、旅に出たこと。だから・・・」




*************




 私は一人、部屋のベッドに座っていた。

 タクトの話を聞いてすぐ部屋に帰ってきた。もう気分転換などする気分ではなかった。

 いや、気分なんてとっくに変わっていた。

 


 タクトの言葉は、私の胸に真っ直ぐ突き刺さった。

 分かっていたことだ。頭の何処かで察してた。タクトが何故急に過去の話をしたのか。私に何を言いたかったのか。

 タクトは本当に優しい人だから。


「サエ、君がどんな選択をしても、せめて後悔しないように・・・よく考えて」


 あの時タクトに言われた言葉がよみがえる。

 選ぶことは苦痛を伴う。特に、大切なもの、どちらか一方しか選べない場合は。

 でも私はもう、選択から逃げないと決めた。


 どうあっても選ばなければならないのだ。

 今回ばかりは流されて決めるわけにはいかない。


 そうして私は、一晩中悩んだ。




***********




 ああ、視界が白い。

 寝不足だからかな、日が眩しいのだろう。

 テンションが上がらない。寝不足だからか。

 いや、きっと今の心境からだ。

 この先どうするか、それを決めたから。



 ・・・・・いやしかし、ちょっと待て。これ、朝日の白さじゃなくない?


 まばたきを数回繰り返し、ようやく気付く。

 此処は、白い空間だ。


「なるほど、じゃあ結論を出そうか」


 真っ白な空間に、色とりどりな男女が7人。

 その中の1人、紫の髪を持つ彼女がそう言った。

 眠った覚えはないが、きっとこれは夢だろう。一堂に会した神々の姿に納得いく回答はそれしかない。

 ぼんやりと立つ私を無視して、『プルプラ』は他の6人の顔を順に見た。

 そのうちの一人、赤い髪の少年がふいにこちらを見る。


「おーい、なんか来てんぞ」


 全員が私に顔を向ける。

 タイミングが同時過ぎてびびった。

 寝不足だからか、思考が上手く動かない。返事をし損ねる私を無視して、6人は『プルプラ』に目を戻す。

 「お前か」という声が聞こえてきそうだった。


「だって当事者ってやつだよ?ちゃんと呼ばなきゃって思って」


 可愛く言うが、同じ神たちには効かない。

 『ルーテウス』だけがにやにやと笑うだけで、他の神は呆れたような視線を寄こす。


「良いじゃないか。いちいち追い返すのはつまらないと思うよ、ワタシは」


 にやにや笑いのまま、『ルーテウス』が発言する。それを皮切りに、残りの神もそれぞれ返事をし出す。


「『ルーテウス』・・貴女は本当にいい加減ですね」


 と呆れを前面に出しているのは、『アルブス』。


「オレは別に良いけどなー」


 赤い前髪をいじりながら、気のない風に言う少年。


「私も気にしないわ。『プルプラ』の言うことにも一理あるし」


 おっとりと微笑んだのは、緑の髪が美しい女性。


「・・・好きにしろ」


 長い黒髪をさらさらと鳴らす男。


「・・・・」


 不機嫌そうに口をつぐむ老人。


 三者三様、である。でもとりあえず、受け入れられてはいるらしい。それが良いことなのかはちょっと判断付かないが。


「で?私の問いにはいつ答えてくれるのかしら?」


 紫色の髪を振って話題を戻す。

 6人の神は数秒沈黙した。

 何の話をしているのか知らないが、私が口を開ける立場でない事だけは分かった。ので、黙って彼らの彼女らの様子を窺う。

 最初に言葉を発したのは、『アルブス』だった。


「私は待つと約束しました。自身の道を決めるぐらいの権利はあると思いましたので」

「ああ、それはワタシも同意だね。過程がどうあれ、先がどうなれ、決定権は彼女にある」


 次いで『ルーテウス』が頷く。何か含んだような笑いのまま、ちらりとこちらを見てきた。

 何だと思う間もなく次の神、赤い髪の少年が口を開く。


「オレはどうでもいい。好きにしろ」

「私は・・・そうね、『ルーテウス』に賛成、かしら。決定権って言い方はあれだけど、少なくとも私たちが決めることではない気がするもの」


 『ウィリディス』がふわっと微笑んで、隣の老人に視線を向ける。

 「貴方は?」と言うようなその視線に気付いたのか、老人がすっと視線を上げる。『プルプラ』を真正面に捕える。


「・・・・どうせ好きにするのだろう?『おぬし』は」

「んー、そうだね」


 剣呑けんのんな光が宿った瞳に、笑って答える。

 今にも喧嘩しそうな雰囲気に感じてしまったが、他の面々は動く気配がない。

 火花が散る様をたのしんでいるような彼らに、肝が冷える。彼らが戦ったりしたら、間違いなく私が一番にやられるに決まっている。そんな事態は御断おことわりだった。

 幸い彼らは指一つ動かさずに視線を逸らしてくれた。


「さ、残りは貴方よ、『アーテル』」

「元より我はそのために動いている。でなければ、我が祝福を与えし者が戻って来ぬからな」


 彼の言葉に、クラークの顔が頭に浮かんだ。

 どうしてかは分からない。が、多分祝福を与えられたのは、彼のような気がしたのだ。

 しかし恐らく、クラークはこのままタクトと旅を続けると思う。

 どんな理由で魔界を出たのかは知らないが、彼がそう容易たやすく意志を曲げるとは思わないのだ。

 でもそれをこの黒い神に伝える気はない。思考は筒抜けだから意味ないかもしれないが、そもそもクラークのことを少しでも知っていればすぐ至る考えだから。


「じゃあ、満場一致ね」


 ふわりと紫色の髪が舞う。

 私の正面に立った彼女が笑う。


「さあ、貴女の答えを、聞かせて」




************




 本当の朝日に照らされた広場。

 法則性の見えない幾何学模様の中央に、私は立っている。

 離れた場所には、タクト、クラーク、ギア、ユイジィン、ユキが居る。

 会話はない。

 話すべきことはもう話したから。


「では、道をつなげます」


 『アルブス』が腕を上げる。幾何学模様が光り出し、発動する。

 光が舞う向こうに居る皆を見る。

 この世界最後の光景は、彼らが居るべきだ。そう思うから。


 そう、私は、元の世界に帰る。







 神々の邂逅かいこうから戻った私は、すぐに部屋を出た。自分の決定を彼らに伝えるために。

 彼らは、まるで知っていたかのように、居間に集まっていた。


「サエ」


 部屋に入った私を迎えたのは、タクトの穏やかな声だった。

 この声に安心するようになったのはいつからだろうか。


「・・・・」


 壁際にたたずむクラーク。

 彼と打ち解けられるようになって、嬉しかったのを覚えている。


 彼らに会って、私の旅は始まった。

 いろいろなことがあった旅。その終わりに私は、少しだけ決意が鈍った。

 彼らは私の気持ちが整うまで待ってくれていた。タクトも、私の名前を呼んでからは口を開かない。

 ゆっくりと深呼吸をする。

 大丈夫。ちゃんと、決めたのだから。


 胸のドキドキは収まらない。それでも私は、言葉を出した。


「私、決めたよ。私・・・元の世界に、帰る。私の、居場所に」


 意を決して切り出したその言葉を、皆はどう受け止めただろうか。

 誰も、目を逸らすことなく見つめ返してくる。

 ふとタクトが微笑む。その暖かな笑みに、少しの寂しさを感じて、泣きたくなった。


 嫌なわけじゃない。しっかり考えて出した答えに不満はない。

 それでも、寂しさはどうしても感じてしまうのだ。

 きっとタクトも同じ気持ちなのだろう。お互い寂しさの隠せていない笑みを交わす。



 こうして彼と笑い合うことはもう、なくなる。

 分かっていることでも、理解していることでも、それでも・・・胸は痛くなるものなのだと知った。


「今まで、ありがとう」


 これでもかと気持ちを込めて頭を下げる。

 思い出すのは旅の道中。

 それらに別れを告げて、私は、前へ歩き出す。







 私の服装は、この世界に来た時のものだ。

 靴以外は大事に取っておいた。この時のために。

 いや、その時はただ無くすのが恐ろしかっただけなのだが。捨てることが出来なくて、捨てるべきではないと思って、それで取っておいたに過ぎない。

 今にしてみれば、それは正しいことだったと言える。


 地面に書かれた文字が、空中に浮かび上がってくる。それらが次々視界を埋めて、段々彼らの姿を消していく。

 消えていく・・・皆が。

 逆だ。消えるのは自分だ。

 そんな風に茶化してみても、胸の締め付けはなくならない。


「・・・元気でね、サエ」


 もう見えないタクトの声が、届いた。


「皆も」


 呟いた声は、きっと届かなかったと思う。既に視界は光に閉ざされている。


 広がる光の世界。そこに一本の道が伸びている。

 その上を歩く。

 白い世界に何かが過ぎて行く。それらを眺める。



 ユイジィンと一緒に草原のような所に居る。少し離れた所に『アルブス』が居た。何か草をむしっている私と笑うユイジィン。


 見たことのない光景。

 何だと言う前に次の景色が目に飛び込む。


 ギアと森の中を突き進む私。怖がる私に構わず、意気揚々と槍を振り回すギア。


 これは一体?

 白く煙った風景が飛んでくる。


 温泉に入る私。

 岩の向こうで顔を赤くしながら、火の番をするタクト。クラークが料理をしている。


 旅の一幕だ。だが、私は2人と温泉に行ったことなんてない。



 何が起こっているのか、考えようにもいつの間にか頭の中はふわふわとしていた。

 いや、頭の中だけではなく、体自体がふわふわと浮いている。

 歩いていたはずの道は何処にもない。


「気をしっかり持った方が良いわよ」

「えっ?」


 誰も居なかった空間に、声が響く。

 気が付くと、目の前に『プルプラ』が居た。

 にっこりと笑う『プルプラ』。


「今のは・・・っていうか、何で・・」

「今の?ああ、あれね。元の世界に還ることにした貴女は、気にしなくても良いものよ」

「何で?」

「だってあれは、これから来るかもしれなかった未来だから」

「?」

「貴女がこの世界に留まっていたら、あんな未来も有り得たってこと」

「それは・・・」


 それは、本当か?

 いやそもそも何故そんなものが今見えるのか。

 深く考えようとするが、思考は回らない。


「えっと・・・」

「だからしっかりしなくちゃ。それに、今更あれらに意味はないでしょ?だって貴女はもう選んだのだから」

「・・・・」


 その通りだ。私はもう選んでしまった。

 来ない未来に未練を残してはいけない。

 ぎゅっと目を閉じ、皆のことを思い出す。皆は、私を送り出してくれた。だから私は、前へ進むのだ。


「本当に決めたのね。なら私も言える。・・ありがとう、私の力になってくれて」


 笑顔で手を振る『プルプラ』が遠ざかる。


「私もっ、私も、ありがとう!この世界へ連れてきてくれて!」


 私の声は届いただろうか。

 鮮やかな紫は、白い景色に埋没して、もう見えない。











「・・・・!?」


 瞬き一つで景色が激変した。

 整備された道路。走る車。懐かしいアスファルトの道を呆然と見つめる。


 帰って来た。そのことは理解したが、あまりの呆気なさに気持ちが追い付かない。

 私は何をしていたのか。

 思い起こしてみればすぐに「今帰るところだったんだっけ」と浮かんだ。

 そうだ。私は、就職活動に疲れて、外に出て・・・そしてもう帰ろうとしていたところだったはず。


 すんなりと思い出せた事柄に、違和感が拭えない。

 私、確かに異世界に行ってたんだよね・・・?

 日常に溶け込む思考が気持ち悪い。

 ふと視線を落とす。

 使いこまれた靴は、クラークが買ってきてくれたもの。元の靴は使えなくなってしまったから、これだけは替えようがなかったのだ。

 そしてそのおかげで、自分が壮大な夢を見ていたわけじゃないと実感することが出来た。



 家への道を歩きながら、時間の経過を感じさせない街並みに首をひねる。

 景色の変化はなく、見知ったままの視界。


「あ、ケータイ」


 向こうの世界でも時計として活用していた携帯電話を取り出す。

 表示された日時は、あの日。

 どういうことだ、とは思わなかった。物語でよくあるご都合主義だ。あるいは『プルプラ』辺りの仕業だろう。

 元の世界、元の場所、元の時間に帰してくれたのだ。

 素直に有難ありがたい。もし時間が経っていたら、帰った後の対応に困るだろうから。



 帰ってきた。元通りに。

 でも私の内面は変わった。あの旅のお陰で。


 なんとなく生きることは止める。

 すぐに答えが出なくても、考えることを諦めず生きて行く。

 それがあの世界で学んだことだから。


 それに、やりたいことも見つけた。

 足元を見る。あの世界に居たという証拠。

 あの日々を忘れないために、私はいつか、彼らとの旅を文章として残そうと思う。

 そのためにも、やるべきことを一つずつ片付けて行こう。


「よし・・!」


 まずは就職から、頑張ろう!

 ぐっと握り拳を作って歩き出す。




『只今、冒険活動中!』本編はこれで完結です。


こちらの登場人物を主役にした短編集『只今、主人公交代中!』を書いています。

短編の方はもう少し書いて行きますので、興味があればそちらもどうぞ。



次回作はまだ考え中です。決まり次第活動報告にて知らせます。


此処までお付き合い頂き、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ