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思わぬ再会 6


 結局朝食は全員揃って摂ることとなった。

 そのために、ギアや皇帝陛下を起こしたり、何だか不機嫌なクラークをなだめたり・・・したのだけれど、それらは割愛かつあいする。私がやったわけじゃないし。

 というかそれらはそれなりに大変だったらしいのだが、私もその時は大変だったのだ。

 品行方正、真面目な我らがユイジィンさんに事情を説明がてら説教を頂いていた。


 理由は簡単である。曰く、一人で勝手に出歩くな、だ。

 いや、確かに分かるよ。他の人たちならいざ知らず、私を単独行動させるのはいろいろと心配だっていうのは。

 分かるけど・・、まさかこの歳でそんな幼児に対するような説教を受けるとは思わなかった。

 例え心配されているのだとしても、である。「それぐらい分かっているよ」って言いたい。余計怒られそうだったから言わなかったけど。


「ところで、ユイジィンは何であそこに居たの?」


 説教がようやく終わって、私は気になっていたことを訊くことができた。

 宿の裏手なんて、理由がなければ来ない所だろう。まさか私と同じ目的で来たわけではないだろうし、ちょっと気になっていたのだ。

 私の疑問に、ユイジィンは顔をしかめたまましばらく沈黙した。即答しないのは、何か話したくない理由でもあるからだろうか。


「・・・少し、妙な気配がしたからだ」

「妙な気配?」


 微妙な言い方だ。感覚的で、私にはちっとも伝わらない。そもそも妙な気配って一体何だ。

 顔に出ていたのか、難しい表情のままユイジィンが説明してくれた。


「朝、目が覚めてからどうにも落ち着かなくてな。街中を歩いていたんだ。その時、妙な気配を感じ、それを辿っていたらお前を見つけたのだ」

「ふうん。妙な気配って、具体的には何なの?」

「あれは・・・まるで神『ルーテウス』様のようだった」


 『ルーテウス』みたいって、あの人は『楽園パラディス』から動けないんじゃなかったか?だからこそ私たちが、こんな七面倒しちめんどうくさいことをするはめになったというのに・・・。

 いや天界に行くためには、どの道何かしなくてはいけなかっただろうけどね。

 それでも、神たる彼女が自由に動けるなら、彼女自身が事に当たった方が早いに決まっている。だから私は驚きのままに訊き返していた。


「えっ、『ルーテウス』が居たの?」

「違う。『ルーテウス』様のような、強い力を持った者の気配だった、ということだ。恐らく、他の神々の分体であろうが・・・。何故なぜ我々の近くに居るのか、それが分からないのだ」


 ユイジィンがやけに難しい顔をしているのは、神(だと思われる)の真意が分からないからだったらしい。しかし、神の真意なんて凡人ぼんじんには分かりかねると思うのだが・・。

 まあ、神の一人があんなだからなぁ。もしかしたら、ただなんとなく通ったってだけ、とかも有り得るんじゃないだろうか。


 この時点の私は、極めて楽観的な思考でもってユイジィンの話を聞いていた。

 逆にユイジィンは、真剣・真面目に、彼の神の考えを知ろうと美しい眉間にしわを寄せまくっていた。

 仕方ない。私もちょっと考えてみるか。と言っても、考えるべき材料がほとんど見当たらないのだが・・。


「まだ近くに居るの?その神様」

「居る。だが、正確な居場所までは分からない。付かず離れず見張っているような・・、そのように感じる」


 ふーむ・・・。それは一体どういうことだろうか。ただ通り過ぎただけならば、近くには留まらないだろうし。それに、見張っているような、とは穏やかではない。

 腕組みしつつ、真剣に頭を悩ませてみる。・・が、それで分かったら苦労はしない。



 私たちが揃って眉間に皺を寄せていたら、タクトが朝食に誘いに来た。

 「やったー、ご飯だ」と、早々に思考を放棄した私が立ち上がる。そうして全員揃っての朝食を摂ったのが、ついさっきのことである。

 騒がしくも楽しかった食事が済んだ後は、昨日の話の続きである。必然的に、ユイジィンとの話は棚上げとなった。

 何か実害があったわけでもないし、別にいっか。という風に思ったわけだ。



 そして、再び一室に集まった私たち。

 狭い部屋は相変わらずだが、一晩共に過ごしたからか、昨日のような緊張感はない。まあ、だからと言ってなごやかであるとも言えないのだけれど。

 ともかく、私たちは集まった。位置は昨日と違い、部屋の奥にジンと皇帝陛下。向きあうようにタクトとユイジィン。2つあるベッドの上に、それぞれギアと私が座り、一番扉に近い位置にクラークが立った。首を少し動かせば全員の顔を見ることが出来た。

 一部を除いて、真剣な顔が集まっている。


 心理的な息苦しさを感じる室内。

 ベッドの上を使えば、物理的には息苦しく・・・・あるけど、多少緩和はされたと思いたい。

 全員が姿勢を整えたところで、皇帝陛下が口を開いた。


「では、約束通り例の件について、詳細を話そう」


 以下、皇帝陛下・・、と言うかその配下のジンたちが集めた『救世の使者』の情報である。



 一つ、彼らは常に2人一組で行動する。但しそれは、平等な立場ではなく上下関係が存在する。・・・先輩後輩みたいなものだろうか。


 一つ、『救世術』は使い手を選ぶ。使用できるものが少ないため、高い効果に関わらず今まで大々的に広まらなかったようだ。それは、情報漏洩じょうほうろうえいを防ぐのにも一役買っていたと推察。


 一つ、『救世術』は改良が重ねられている。威力もそうだが、何より使い手自体が格段に増えてきているらしい。


 一つ、『救世術』の使い手は『救世の使者』となる。一瞬意味が分からなかったが、どうやら『救世術』を使えるようになった農民とかを仲間に引き込んでいる、ということらしい。今までの立場を捨てさせ、改めて『救世の使者』として活動させているそうだ。

 そして、そのことから『救世の使者』の存在が外にも伝わりだしたらしいのだ。



 などなど、「よくぞ調べたなぁ」と思わなくもないことまで入れたら、結構なことが分かっていた。しかしどうでもいい行動なんかは調べられても、肝心の術のことがほとんど分からなかったらしい。

 彼らの肝となる部分なので、そう簡単に分かるわけもない。それに、取っ掛かりはある。


「・・で、だ。数日前に仕入れた情報によると、奴らが更に活動を活性化させ始めた」


 活性化した活動。その一つが、昨日から話に出ている『救世術』の大々的布教であるようだ。

 術の改良はどうやら順調らしい。

 困ったことだ。今でさえ世界の危機とか言っちゃってるのに、これ以上使われたら、あっという間に世界が滅ぶんじゃないのか?

 事情を知る私たちは、内心気が気じゃなかった。


「急激な活性は隙ができやすい。上手くやれば、この接触でダメージを与えることも不可能じゃない」


 ジンの言うように、今回の行動はかなり重要なことだ。特に私たちにとっては。

 むしろ組織力のない私達からすれば、今回が最大のチャンスであると言える。広まってからでは遅いし、もし失敗したら広まったそれに対処することが出来なくなるだろうから。



 ふと、さっきユイジィンと話したことを思い出す。もしかしたら、『ルーテウス』の他にも世界のために動いている神様が居るのかもしれない。

 ぱっと浮かんだそれは、すぐに思考に移った。

 神様は人間に干渉しないって話を聞いた気がするし、多分その神様も私たちみたいな第三者を使っているのだろう。で、私たちと同じように、『救世の使者』が大きく動く今を狙っているのだとしたら・・・。


 そこまで考えて、止める。都合が良すぎる考えは危険だ。

 前提からしておかしいし。いきなり「もしかしたら」で始めては、論理的でもなんでもない。夢物語と大差ないではないか。

 慌てて都合の良い夢を追い払って、まだ続いている話に意識を戻す。



 あれ、やばいぞ。今何の話をしているんだ?

 耳を傾けた先では、既に布教現場に潜入を果たしていた。ジンが淡々と説明しているが、どうやら先に説明を終えた部分は省いているらしい。「さっきの通りに」とか「最初と同じように」とかで済まされちゃっていて、全然分からん。

 おっとー、肝心な部分を聞き逃しちゃったぞー。何かやたらと難しい話をしてないか?あれ?魔法がどうとか・・あれ?『救世術』は?


 一度話が分からなくなると、もう駄目だ。あっという間に蚊帳かやの外へ弾かれてしまった。

 えー、ええー!どうしよう・・・。・・・・こうなったら、仕方ない。

 焦りを隠して他の皆をうかがう。

 困った時は他人頼り。こっそり教えてもらうのだ。



 今中心となっているのは、どうやらタクトのようだ。魔法の話とか出てるみたいだし、まあ当然か。

 タクトはちゃんと話を把握しているようだ。

 いや、彼が付いていけてなかったら、そっちの方が問題なのだが。ジンは一体誰と話を進めているんだよってなっちゃう。

 魔法は研究有りきのものだから、『救世術』解明にも期待されているのかもしれない。話はどんどん専門的になっていっているようだ。・・・うん、問題ないようで何よりだよ。



 さて次に話を理解してそうなのは、タクトの隣に居るユイジィンかな。距離的にちょっと遠いけど、話に熱中している彼らを邪魔することはないだろう。

 彼は話には加わらず、聞き役に徹しているようだ。が、何処どこか落ち着きがない。

 どうしたのだろう。まさか私と同じ状況ってことはないよね。と観察してみれば、彼は美しい顔を若干じゃっかん歪ませていた。

 話が分からなくて難しい顔をしている!?まさかの仲間が居た!と思ったのは一瞬だった。


 彼の目が動く。それは、目の前の皇帝陛下を意識してか、本当に小さな動きだった。けれど確かに動いたのを見た。

 その先を追うと、窓に行き当たった。どうやら外を気にしているらしい。

 さっきの思いつきが戻ってくる。誰かは知らない神様は、未だにうろついているらしい。迷惑なことだね、ユイジィン。

 心の中で同情して、更に観察する。今問題にするべきは、ユイジィンの理解度である。

 しかしどうやら、外を気にしている割には彼もちゃんと理解しているようだ。時折分からないことを訊き返しているのだ。


 私もそうできたらどんなに良いか。

 いや、今訊き返したら、多分始めの方からもう一度説明してもらわなくちゃならないだろうから、やらないけど。

 うーん・・・。ユイジィンも外と中、両方を気にしている状態だから、これ以上面倒は掛けられないよね。



 仕方ない、次だ。と、大きく視線を動かして私は正面を見る。

 ベッドに横座りしている私の前には、もう一つのベッドとその上のギアが居る。

 きっと聞いていないだろうけど、一応訊いてみよう。そう思っての行動だった・・・のだが、止めた。

 だって明らかに聞いていないんだもん。


 階段から落ちた時の痛みは、とっくにえているくせに、我先にとベッドを占拠したギアさん。今はベッドの上に胡坐あぐらをかいて、愛用の槍を磨いていた。

 それはもう真剣な顔して磨いているから、多分話の切れ端すら耳に入っていないだろう。

 期待するだけ無駄だ。



 早々に諦めて最後の一人に視線を飛ばす。

 でもなあ、こいつもなんか聞いていなさそうだもんなぁ。

 いや、表情一つ変わらないから分からないだけで、きっと聞いてる。そうに違いないよ。というか、そうでなくては困る。

 ユイジィンより近くに居るし、ベッドの反対側に移れば普通に耳打ちできる距離になる。目で確認してひっそり位置を変える。


「・・・クラーク、クラーク」

「・・・・」


 ささやき声で呼ぶと、静かな瞳が私を見た。

 更に小声で用件を伝える。こうやってこそこそしてると、何だか変にドキドキするのは何故だろうか。

 疾しいことがあるわけでもないのに、妙に後ろ暗い。

 とにかく早くして。そう思っていると、ジンの声が聞こえた。


「じゃあ2日後、計画通りに頼む」


 ・・・待っている間に、話が終わっちゃったよ。





大変お待たせしました。読んでいただき、ありがとうございます。


今回は一話のみですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。


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