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思わぬ再会 4


わらわの配下になることに、何の不満があると言うだ!」


 酒場の開店時間が差し迫っていたため、私たちは場所を移すことにした。集まったのは、おんぼろ宿屋である。

 王族が泊るような所ではない。と言うか、これでお金を取る方が詐欺さぎじゃないかってレベルのおんぼろ宿だった。

 老朽化しすぎて怖い。家鳴やなりも酷いし、廊下は歩くたびにギシギシ鳴るし、何より部屋数が圧倒的に少ない。客を泊められるのが3部屋だけって・・・。かせぐ気あるのかって思ってしまう。

 今日は、私たちが全部屋取ってしまったから、貸切となったが。なんてゴージャス感の欠片もない貸切だろう。そしてその程度では大した利益にはならないと思う。関係ないとは言え、ちょっと心配してしまった。


 しかし皇帝陛下がこんな宿に泊まるなんて、何か訳ありなのだろうか。理由もなくこんなぼろ屋に泊ったりはしないだろうし。

 それこそ関係ないと言えば関係ないのだが、気にはなる。訊ける機会が訪れたら忘れずに訊いてみよう。



 さて、冒頭の言葉である。隙間風がないだけマシな一室に落ち着いた私たちは、皇帝陛下に物申したのだ。それを聴いての第一声が、先の不機嫌な言葉である。

 不満って言うか、何て言うかね、配下って何よって話だよ。

 いつどこでそんな話になったのか。私たちは情報を求めてただけで、貴方のために動くとか一言も言ってないんですけど。

 まあ、目的は同じだから協力し合うのは良いのだけれど。しかし配下って言葉の響きがなんか嫌だ。

 誰にも仕えていない私やタクトたちはともかく、ユイジィンの機嫌がみるみる落ちている。彼からすれば、主君でもない相手に命令されているのだ。それは機嫌も悪くなるというものだ。


「落ち着けよ。自国民でもない奴らに言うこと聞かせられるわけないだろ」


 ジンがなだめている。その言葉を聞いて、少し冷静になったらしい。まだ不機嫌そうな顔をしているが、命令を押し付ける気はないらしい。

 用意された椅子に座り、改めて私たちに向き直った。


 今椅子に座っているのは、彼女だけだ。

 部屋が狭い上に、部屋の中にあった椅子は1つだけだったのだ。当然一番位が上の者が座ることになった。

 別に座りたかったわけではないが、私たちは立ったまま彼女と向き合っている。


「むぅ・・、ではそなた等は、誰のために動いておるのだ?」


 神様です。とは言えない。かと言って、「秘密です」とか答えちゃ駄目だろうし。どうするべきか。

 タクトも答えあぐねているようだ。「えっと・・」とか意味のないことを呟いている。

 即答えない私たちの様子で、何か事情があると分かりそうなものだけど、皇帝陛下は黙したままだ。分かっていて何も言わないのなら、彼女はかなり意地が悪いと思う。

 その間も頭を悩ませているタクトに代わって、ユイジィンが口を開いた。


「私たちは、我が主の命により動いている。我々の目的は『救世術』の使用を止めること。その目的のためならば、貴殿らと協力関係になることに異存はない。しかしそれは、あくまで協力関係。貴殿の配下となるわけではない」


 おお、きっぱり言ったよ。格好良いね。

 ユイジィンの凛々しい横顔を見上げて、心の中で拍手を送る。

 はっきりと拒絶された皇帝陛下はと言うと・・うっすら笑っていた。「これは面白い」って呟いているし、どうやら怒ってはいないらしい。


「ふむ、そうか。では仕方ない。では、妾と共闘せぬか?」

「共闘、ですか」

「そうじゃ。3日後、『救世の使者』が信者を集めて術の布教を行う。そなたには、これに参加してもらい、術の正体を見極めてきてほしい。もちろん、こちらからもこいつを出す」


 傍らに立つジンを示して、提案する。

 こちらとしては『救世術』に近付けるなら、断る理由がない。ジンも特に口を挟まず、決定した。

 詳しい話はまた明日、と言うか、私たちが加わることで幾らか計画変更をするため、今は話せることはないということだった。


 まあ、他の人はともかく私は、ちょっと疲れてきたので休めるのは有難ありがたい。細かい打ち合わせでは、また頭を使わなければならないだろうし、今日はもう寝たい。

 男連中と別れて、部屋に引っ込む。

 この宿は全ての部屋(3部屋しかないけど)に、ベッドが2つと椅子が1つ用意されている。それらのせいで、狭い部屋が余計に狭く感じる。

 よくこの狭い部屋にあれだけの人数が入ったものだ。先程の集まりを思い出して、軽く感心してしまった。



 窓際のベッドに体を投げ出す。うっ、硬い・・・。ちょっと痛かった。でも気にしない。私は窓際が大好きなのだ。ベッドから外の景色が見える所が良いと思う。気分は良いのでベッドの硬さは無視することにした。

 でもここで、とあることを思い出す。ファンタジー小説を読んで「なるほど!」と思ったこと。


 2階程度なら窓から侵入者がやってくる可能性もある、というような話を主人公たちが話す。そしてそんな話をしたからには、侵入者が来るわけである。窓から。所謂いわゆるフラグであり、伏線であり、鉄板と言えば鉄板な展開である。

 まあ、そんなわけで窓際は恐ろしいんだよって話を思い出した私は、窓際のベッドから扉側のベッドへ移動する。

 扉側は扉側で危ないのだが、すぐ逃げられない窓際よりはマシだろう。


 窓際のベッドを皺だらけにしてしまったが、まあ良いだろう。どうせこの部屋は私しか使わない。明日の朝、まとめて綺麗にしとけば問題ないだろう。

 そう思って、寝巻に着替える。

 さ、寝よ寝よ。



 ベッドに横になるのと同時に、部屋の扉が開く。

 横たわった体を元に戻す。一体誰だ、てかノックはどうした。

 寝るモードになっていた私は不機嫌を隠さず、むしろ前面に押し出すつもりで思いっきり歪めた顔を入ってきた人に向けた。

 が、すぐに驚き顔に変わったと思う。

 だって金髪美少女が居たんだもん。


「うん?そなたもう休むのか」

「え?ええ、はい・・?」


 そうです。でも眠気は今の驚きで飛んで行きましたよ。とんだドッキリである。

 ああ、そんなことより、私に何か用なのだろうか?用があるなら更に何か言ってくるだろう。

 皇帝陛下を前にベッドに入っているわけにもいかず、立つ。しかし皇帝陛下は何も言わずに、奥のベッド・・・私が乱したまま放置していたベッドの脇に移動した。

 そのままじっとベッドを見つめる。


「・・・ふむ、民の寝具はこのような形なのだな」


 「ふむふむ」とベッドを観察する美少女。何をしているんだろうか。ベッド観察?珍しいのだろうか。まさか、ベッドを見たいがためだけにこの部屋に来たんじゃないだろうな。だったらどうしよう。

 そして私はどうしたら良いのだろうか。いつまで待っていれば良いのだろう?

 確か、王族とか身分の高い人には、気安く話しかけちゃいけないんだよね?え、でもじゃあどうやって話を進めれば良いんだ?


「そなたは何故立って居るのだ?」


 ひたすら待つ私に、皇帝陛下はやっと気付いてくれたみたいだ。しかしそんな不思議そうな顔で、そんな問いを発するとは・・。もしかして、私が立つ意味なかった・・・?

 王族だから、とか気にしていた自分が馬鹿みたいだ。彼女はそういうことに拘らないようだ。あるいは、私にそういった礼儀を期待していないのだろう。

 それはそれで、礼儀知らずと思われてそうで嫌だが、王族に対する礼儀なんて確かに私は知らないから良しとしよう。私の中にある知識は大概、小説からの引用なのだから、何が間違っていても不思議ではない。

 だったら期待されない方が良いだろう。



 脱力してベッドに座る。駄目だったら何か言うだろう。そう思って彼女を見たら、既に私に対する興味は失せたらしい。ベッドの弾力を確かめる作業に入っていた。

 どうやら私に用があったわけではなかったらしい。そしてベッドを観察に来たようだ。そんなの自分の部屋でやれよう!!とか思ったけど、表には出さなかった。

 礼儀知らずでも、常識は心得ている私である。


「うーむ・・・、随分と硬いのだな・・。驚いたぞ」


 そう言いながら私に向き合うようにベッドに腰掛けた。

 あれ?やっぱり私に用なのかな?

 そう思って、さっと背筋を伸ばす。しかし彼女は、私を無視して手にしていた物を隣に置いた。それはどうやら衣服であるらしい。

 そしておもむろに服を脱ぎ始めた。人形みたいな美少女の生着替え。

 昔、とある有名な人形で遊んだ着せ替えごっこを思い出して現実逃避してみる。


 もしかして、もしかしなくてもこの人、此処ここで寝る気じゃ・・・。

 いやいや、きっと違う。着替えるスペースが他になくて、仕方なく此処で着替えているだけだ。皇帝陛下と同じ部屋で寝るって・・・、何かあったら私の責任になる確率100%じゃん。

 違う違う、絶対違う。


「う・・引っ掛かった・・!助けて!」


 長い髪の毛が何処かで引っ掛かったらしい。とりあえず助けて、ついでに服(やっぱり寝巻だった)を着せてあげる。

 どうでも良いが、服を手にした私を見て、大人しく万歳のポーズをする皇帝陛下が可愛くて仕方ないんだが。思わず頭を撫でたくなった。そんな恐れ多いことしないけど。


「手間を掛けさせたな。すまぬ、ありがとう」

「いえ、どういたしまして」


 着替えも完了したことだし、きっと皇帝陛下は出ていくはずだ。

 あー・・、やっと寝られる。

 安心した私の前で、少女がベッドに潜り込む。

 もしもし?何やってるんですか?


「普段より早いが、そなたが休むのならば妾も休もう。おやすみ」


 言って目をつぶる。寝る姿勢としては正しい。正しいけどさ・・、どうしよう。

 そうだ、ジンを頼ろう!そう思いついて廊下に出る。3つ並んだ中で、此処は真ん中である。この内どちらかにジンが居るのだが・・・どっちだ?

 先に出て来てしまったから分からない。


 と言うか今気が付いたが、3つ部屋があって1つを私と皇帝陛下が使っている。と言うことは、残る2つの部屋を男衆おとこしゅうが使っているわけだけれども、人数とベッドの数が合わなくないか?

 タクトとクラーク、ユイジィンとギア、そしてジン。1人どうしてもベッドに入れない人がいる。それはどうしているのだろうか。

 ベッドは小さいから一人しか寝られないし、てか同じベッドに2人寝てたら嫌だし、1人は椅子・・とか?


「・・・・」


 可哀想な図を思い浮かべてしまった。とにかくどっちでも良いからノックしてみよう。

 そう思って、ちょうど向いていた方に歩く。下に続く階段に一番近い部屋だ。ちょっとの距離でも廊下のギシギシいう音が煩く響く。

 よし、さあノックだ。と、手を上げたら、勝手に扉が開いた。

 なんとこの部屋の扉は自動ドアだった!ということもなく、中の人が開けただけである。

 開けたのはユイジィン。彼の体が邪魔で、中は見えない。最低でも後1人は居るはずだけど。まあ、ユイジィンに訊けば良いだけだ。


 隙間から中を覗くのを諦めて、顔を上げる。

 ユイジィンが険しい顔で見下ろしていた。

 あれれ?私何かいけないことでもしたでしょうか。・・あっ、ひょっとして部屋に皇帝陛下を置き去りにしたのが、まずかったのだろうか。

 いや、これはあれですよ。さっさとジンにお願いして、さっさとお引き取り願おうと思った結果なんですよ。


「・・・お前は何て格好で出歩いているんだ!?せめて何か羽織はおれ!でなければ、今すぐ部屋に戻れ!」

「ど、どうした、ユイジィン?」


 おっと、中に居たのはタクトだったようだ。他に声は聞こえて来ないし、こっちが2人部屋だったようだ。と言うことは、一番奥の部屋に男3人が詰め込まれているわけだ。しかもクラークとギアとジンって・・。思いつく限り最悪な組み合わせじゃないか?


 なんてことを瞬時に考えていた。なのでユイジィンの言葉に行動したのは、タクトの方が早かった。まあ、ユイジィンの後ろからこっちを覗いただけだけど。

 見た途端に固まった。そして凄い勢いで引っ込んだ。更に数秒後にはユイジィンを押しのけて出てきた。びっくりしていた私に自分の上着を被せて、ほっと一息吐く。


 この上着、ちょっと汗クs・・・・何でもないけど、一体何だと言うのか。

 原因を考えて、ようやく辿り着いた。そうだった。私着替えもせずに、寝巻のまま出て来たんだった。それだけ焦っていたのだが、怒るユイジィンと頬が染まって困り顔のタクトに言っても仕方ないことだ。


「えっと・・・ごめん?」

「・・・・。とにかく、何の用で出てきたんだ?まさかそのまま外へ行くつもりだったわけではないだろう?」

「ああ、うん。実は私の部屋に皇帝陛下が寝ててさ。何かあったら困るから、ジンに何とかしてもらおうと思って捜してたの」

「でもこの宿、部屋が3つしかないから、女子は女子で集まるしかないんじゃないかな?ただでさえ奥の部屋はベッドが足りないくらいだし」


 タクトの正論に頷くしかない。と言うか普通に考えて、どうにかなるはずがなかったのだ。自分勝手な考えに、今更ながら羞恥心が湧く。

 皇帝陛下に何かあったら、それは大変なことだが、だからと言って私の我儘わがままを通して良いことにはならない。それに、ジンも馬鹿ではないのだ。それなりの対策を考えていて当たり前だろう。

 誰も私に警護を期待してはいないはずだ。

 うわ、恥ずかし!考えれば考えるほど恥ずかしい行動の数々だ!


「俺たちも警戒するし、多分大丈夫だよ。だから、安心して」


 タクトが優しいよ!恥ずかしい私に追い打ちをしない。それどころか慰めてくれるなんて・・。

 いや、タクトが優しいのはずっと前から知ってたんだけど。

 まだちょっと恥ずかしいけど、何だか気分も落ち着いてきたかも。

 タクトにお礼を言って、部屋に戻る。上着は・・洗ってから返そうかな。

 隣のベッドを覗いて、ちゃんと皇帝陛下が居るのを確かめる。ぐっすり寝ている美少女の愛らしさを堪能たんのうして、私もベッドに入る。


 あ、窓際。そう思ったけど、起こしてまですることでもあるまい。と言うか、これだけ狭いのだから、何処どこに居ても多分あまり変わらない。

 今日はぐっすり眠れそうだ。




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