29
その翌日の午前九時頃、嶋ら七人全員は伴のいる病院に到着した。嶋が受付で用件を伝えると、すぐに看護師が彼のいる部屋へ案内してくれた。
全員が病室に入る。伴はベッドで眠っていた。
「伴くん!」
「純也くん」
鷲尾と箕輪が二人して彼を呼ぶ。しかし、彼は目を覚ます気配がなかった。
「……どうやらまだ意識は戻らないらしい」
それから、嶋がそう言った。
「え……」と、鷲尾が残念そうに言う。
「そうなんだ……」と、箕輪も落胆して言った。
それから、二人は黙る。嶋たちも黙って彼の方を見ていた。
「ねえ、どうして伴くんは飛び降りたりなんかしたの?」
ふと、箕輪が皆に聞こえるように言った。
「さあ?」と、嶋は首を傾げる。
「それと、ペンションに灯油を撒いて火事にしたのはどうして??」
箕輪が疑問を口にする。
だが、皆、下を向いて黙っていた。嶋が口を開いた。
「それは多分、伴さんは、皆殺ししようと考えたんだと思うんだ……」
嶋がそう言うと、戦慄が走ったかのように皆がビックリする。
「み、皆殺し……」
鷲尾が呟くように言う。嶋は静かに頷いた。
「犯人――伴さんは多分、最初から演劇サークルのメンバー全員を殺そうと考えていたんじゃないかと僕は思うんです。大門さんや小山内さんを殺したのもそのためです」と、嶋は話す。
「それじゃあ、私たちも……?」と、鷲尾が言う。
「おそらく」と、嶋は頷く。
「そんなあ……」
箕輪が手で顔を隠して言う。
「二人も殺すつもりだった。それから、僕らミステリー研も。全員殺そうと思ったに違いありません」と、嶋は言う。
「え?」と、加賀谷が驚く。
「ウソ!?」と、桜庭もビックリした。
「どうして俺らも狙われることになったんだ?」と、中森が訊く。
「多分、犯人にとって僕たちミステリー研は邪魔な存在だったんだよ」と、嶋は言う。
「邪魔?」と、中森が訊き返す。
「だってほら、僕たちは間違ってあそこへ行ってしまったからね。泊まらせてもらったとはいえ、本当はあの場所にいるべきじゃなかっただろう? だけどいるものだからどうやって始末しようかと考える。中森、もしお前が犯人だとしたら、どうやって始末する?」
嶋がそう中森に質問する。
「それは……」と、中森は考えて「俺も火事にして全員に死んでもらうかな……」と答えた。
「だろう? それが一番確実な方法だ。つまり、犯人はそうして全員を殺害する。それから、犯人は本当はそこから一人で逃げるつもりだったんだんだと思う……」
嶋は真顔で言う。
「でも、失敗したという訳か……」と、湯川が口を挟む。
「そう」と、嶋が湯川を見て言う。「中森と加賀谷は上にいたが、桜庭と湯川と僕の三人は一階にいてまだ起きていた。だから、すぐに臭いにも気付けたし、彼を追い詰めることもできた。伴さんは灯油を撒いたことを僕に気付かれ、自分の部屋に入った。けれどそこは袋小路だった。だから、窓から飛び降りるしか他になかった……」
嶋はそう話すと、一度口を閉じた。
「最悪で最低な犯人だな……」
湯川が舌打ちして言った。皆が彼を見る。
「どうしてそういうこというの?」と、桜庭が湯川を見て言う。
「だって、そうだろう? こんな奴……」
湯川はそう言って伴の首に手を掛ける。
「おい! 湯川、やめろ!!」
慌てて嶋が彼を注意する。「まだ生きてるんだって!」
嶋にそう言われて、湯川は手を離す。
ふいに、伴が咳き込んだ。皆が彼を見る。
「伴くん!」
鷲尾が声を掛ける。
「わ、悪かったな……」
伴は目を開けてそう呟いた。どうやら皆の話を聞いていたようである。
伴が目を覚ましたことで全員が驚いた。もちろん、湯川もビックリしている。
「良かった……」
嶋がホッとして言う。鷲尾も微笑んで頷く。
「全部聞いていたよ……。犯人は俺だよ」
伴は七人をゆっくり見て言った。
箕輪と鷲尾は困惑した顔をしていた。犯人が彼であるということよりも、彼の意識が戻ったことをまだ実感していない様子であった。
再び伴は口を開いた。
「しかし、嶋くん。アレには驚いたよ……」
「アレ?」と、嶋が訊き返す。
「中森くんと加賀谷さんのことだよ」
「ああ」
「まさかアレが演技だったとはね……」
伴は感心してそう言った。
「フフフ」と嶋は笑う。それから、中森や加賀谷らミステリー研全員が笑った。
「アレは僕が考えたものです。犯人を暴き出すための作戦というか……」
嶋はそう言ってにやりと笑う。
「なるほど……」と、伴は頷く。「うまいなあ」
「でも、その後すぐに決定的な証拠が見つかりました……」
嶋がそう言うと、「ウソ!?」と、中森が言った。「そうなの?」と、加賀谷も言う。
「それは何だい?」と、伴が訊く。
「カメラです」と、嶋は言う。「小山内さんの持っていたあのカメラに映っていたんです」
嶋はそのカメラで動画が撮られていたことを伴に打ち明けた。すると、伴はビックリした顔をした。嶋は話を続ける。
「その動画に犯人らしき人物が映っていました。犯人は小山内さんを殺害した時、あるものを落としたんです」
「あるものって?」と、伴が訊く。
「小さな銀色のモノでした」
「銀色のモノ……?」
「そうです。何だと思いますか?」
嶋が伴に質問する。
「さあ?」と伴は首を傾げるので、嶋は答えを言う。
「おそらくアイコス――電子タバコです!」
嶋がそう言うと、「あ!」と、そこで伴は思い出した顔をした。
「その後、犯人は現場に戻ってそれを拾いに来てます」
「マジか……」
「どうですか? 心当たりはありませんか?」
嶋が伴にそう訊くと、彼は口を開いた。
「ああ……そうだ。小山内を殺した時、俺はそれを落としたことに気付かなかったんだ。だから、後でそれを吸おうとしてポケットにないことに気付いたんだ。それで慌ててあの部屋に戻って拾ったんだ」
「そうでしたか」
嶋は一呼吸置く。再び彼は口を開いた。
「しかし、大門さんを殺害した犯人があなただと、すぐにはピンときませんでした……。一体、誰が殺したんだろうと考えました。探し物をしている時にあるものが無いことに気付いたんです」
「あるもの?」と、伴は訊き返す。
「カラオケ室のライターです……」と、嶋は答える。
「それが何?」と、伴は訊く。
「カラオケ室にあったライターが消えていたのは、あなたがそれを持って行ったから……ですよね」
「そうだけど?」
「どうしてあなたはそれを持って行ったのか? それはこのペンションの火事を起こすために必要だったからです! あなたは電子タバコを吸っていて、最初からライターなんて持っていなかった。どうしてもライターが必要になった。だから、あなたは大門さんからライターを借りる必要があった。そこであなたは大門さんをカラオケ室へ呼び出すことにした。雑談でもしながら一緒にタバコを吸おうなどと言ったんでしょう。そして二人でタバコを吸い、その後あなたはすぐに彼を殺害した……。それから、凶器を捨てに部屋へ戻った。凶器は窓から捨てたのでしょうね。ライターはその後にでも回収したんでしょう……」
嶋がそう話すと、「なるほど」と、湯川が納得して言う。
「合ってます?」と、嶋は伴に訊く。
「ああ、その通りさ」と、伴が言った。
「でも、どうしてサークルのメンバーを殺害しようと思ったんです?」
それから、加賀谷が伴にそう訊く。
「それは……」と、伴が口を開く。「メンバー全員が憎かった……。皆、部長の言うことも聞かないし、俺がやりたいって言った脚本もすぐ駄目だしする。おまけに皆、色々と好き勝手言って正直うんざりだった……。」
伴がそう話すと、箕輪や鷲尾は申し訳なさそうな顔をする。
「だから、俺は皆を殺してやろうと思い、あることを思いついた」と、伴は言う。
「それが今回の合宿ですか?」
嶋がそう訊くと、「ああ、そうだ」と、伴は頷く。
「なるほど」と、嶋は言って黙る。嶋は同じ部長として少し分かるような気がした。だが、流石にメンバーを殺したいほど憎いと思うことはない。
少しして、ガラガラとその病室の扉が開いた。皆ビックリしてそちらを見ると、この間の警察官が二人立っていた。鈴木という黒髪短髪の警察官と、三浦という坊主頭の警察官であった。
「お取込み中、失礼ですが、伴さんのお加減は?」と、鈴木は訊いて驚いた顔をする。
「目を覚ましたんですね。それなら話が早い。伴純也さん、あなたを殺人の容疑で逮捕します」
彼にそう言われ、「あーあ」と、伴は残念そうに言う。
嶋たちは目をぱちくりさせる。それから、全員が笑った。
「平気なら、署までご同行お願いします」と、鈴木は言った。
伴は頷く。
「あ、それと。ここにいる七名の方にもお話をお聞きしたいので、署で事情聴取をお願いできますか?」
それから、三浦にそう訊かれ、嶋たち全員がはいと返事をした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
皆さん、こちらの作品はいかがでしたでしょうか?
今回のテーマは、「冬歌ミステリー」でした。
なぜ冬歌ミステリーかというと、以前、「男女六人殺人事件」という作品を書いた際、「夏歌」をテーマにミステリーを書きました。私は以前にも書きましたが、J-popが大好きです。その時は、夏だったこともあり、夏歌をテーマに小説を書けないかと考え、作品を完成させました。今回は、夏歌があるなら、冬歌ミステリーもあってもいいじゃないかと考え、「平成レトロ」なども織り交ぜながらこのような作品に仕上がりました。
それから、今回のミステリーでもやはりクローズドサークルを書きたかったので、季節は冬。冬の孤島として、北海道の礼文島を採用しました。年末年始という閑散期。そして、時代も「令和」(まさに今)の時代にしてみました。
「ミステリー研究会」も使ってみたかった要素の一つだったので、今回、挑戦してみました。
「男女六人殺人事件」よりも登場人物が多いです。登場人物が多いので、読みやすさを考えて今回は最初に「人物紹介」の欄を加えてみました。
皆さん、犯人は当てられましたか?
犯人を当てられた方、お見事です!
そうじゃない方も楽しんでいただけたら、幸いです。
長くなりましたが、最後にいいねや感想等など頂けたら励みになります。
改めまして、どうもありがとうございます。




