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日本人の私が次期公爵夫人なんて務まるでしょうか〜恋も試練も簡単にはいかないようです〜【第二部後日談】  作者: 七宮叶歌
第3章 便り

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便り1

 別れの時はあっという間に来てしまった。荷物も持たずに、キャサリンやヒルダ、リアナと四人で馬車に乗り込もうとしたところで振り返る。屋敷の大きな扉の前では、クラウが潤む瞳で私を見ていた。その後ろにはレオニスもいる。


「精一杯、頑張るんだぞ」


「はい」


 応援はしてくれているのだろうか。レオニスが笑顔で力強く言ってくれたので、私も大きく頷いてみせる。

 クラウは何も言ってくれない。ううん、言葉が見つからないだけだろうか。ただ、私を見詰めるだけだ。


「行ってくるね」


 私が囁くと、クラウは目を伏せてしまった。せめて『頑張ってね』とか、何か一言でも言って欲しかったのに。仕方なく、クラウとレオニスに背を向ける。

 待っていてくれた女性陣三人に続き、馬車へと乗り込んだ。ドアが私たちを隔てても、視線が離れることはない。

 馬車が車輪を回し始めると、クラウの足も前へと出る。思わず私も叫んでいた。


「頑張るね〜!」


 目頭が熱くなる。それも束の間、クラウの膝がガクリと折れた。それでも馬車は止まらない。「あっ」と小さな声が漏れる。


「大丈夫だよ。クローディオったら大袈裟なんだから」


 向かいに座るヒルダは苦笑いをし、髪をサラリと撫でた。


「ですが、あんな表情のクローディオ卿、初めて見ました」


「それもそうですね」


 驚いた様子のリアナに、キャサリンも小さく頷く。


「そもそも、どうしてクローディオはミエラを選んだんだろ?」


 ヒルダの一言で、三人の視線が私に集中する。無言の圧が私にのしかかる。


「あ、あの……」


「二人の馴れ初めを聞かせてもらおうかなぁ」


 ヒルダのちょっとだけ意地悪な目が心地悪い。

 どこから話せばいいだろう。私たちの場合は、今世での出来事では済まない。ドレスを握り締め、慎重に口を開く。


「話は百年前に遡るんです」


「どうして?」


 理由を言ってしまえば、私の何かが変わってしまうような気がする。息を詰め、唇を噛んだ。


「私たちは、前世でも恋人だったんです」


 信じてもらえるとは思わない。予想通り、三人は眉間にしわを寄せた。でも、これが私たちの真実だ。私の思うままに、さらに言葉を並べていく。


「先に死んでしまった私と、後悔するクローディオがまた出会って、優しくされて、自分の気持ちに気付いて……私たち、何回も一緒に泣きました。それで、また恋をして……。そこからはご想像にお任せします」


 物凄く簡潔に纏めてしまった。これ以上の言葉はいらないし、説明する必要もないだろう。

 ヒルダは眉をひそめたままで、キャサリンはちょっと目を見開いて私を見詰めるだけだ。

 間を置いて、ヒルダが身を乗り出した。


「……クローディオが先に、ミエラに優しくしたの?」


「はい」


「ありえない。あのクローディオだよ?」


 ヒルダはキャサリンの方へと視線を遣ると、キャサリンも首を傾げた。


「あんなに、ご令嬢に興味がなさそうだったのに」


「だよね」


「それは……」


 私に心当たりがある。百年前のクラウ――リエルがプロポーズしてくれた、あの時の笑顔が蘇った。


「私が死んだのは自分のせいだって思ってたみたいなんです」


 今はタイムカプセルの中で眠っている、百年前の私――カノンとリエルの結婚指輪がその証拠だ。彼は転生する度に、カノンの指輪を身に付けていた。今世も例外ではない。


「転生する度に私を探し回って、ワープして、寿命を縮めて……本当にクローディオにはなんて言っていいのか……」


「ワープ?」


「それって、百年前も二人は魔導師様だったってこと?」


「はい」


 ヒルダとキャサリンは顔を寄せてコソコソ話を始めてしまった。罪の重さに耐えられず、手は小刻みに震えてしまう。

 二人は話し終わると、意気消沈した表情で俯いてしまった。先に口を開いたのはヒルダだ。


「クローディオが社交界に興味を示さなかった理由が、何となく分かった気がする」


 大きく息を吐き出し、小さく唸る。


「ミエラしか見えてなかったんだもん。そりゃ、他の令嬢なんてどうでもいいよね」


 ヒルダに続き、キャサリンも何度か頷いた。


「八ヶ月も面会は極力禁止なんて、残酷なことをしてしまいましたね。ごめんなさいね」


 キャサリンは謝るべきではない。親として当然のことをしただけなのだから。

 私も大きく首を横に振ってみせた。


「クローディオにつらい思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」


「貴女もつらかったでしょう? 謝らないで。それより」


 キャサリンは儚く微笑み、私の手を取った。


「あの子に出逢ってくれて、ありがとう」


 その仕草が、表情が私の胸を熱くする。止めどない涙まで溢れてくる。私は感謝されるべきことなんて、何もしていないのに。


「ミエラ嬢ー!」


 隣に座っているリアナが声を震わせ、私に抱き着いてきた。その腕を掴み、私も声を上げて泣き出してしまった。

 何とも言えない空気が馬車を包む中で、進路は右へと曲がった。門をくぐり、同じくレンガ造りの屋敷へと入る。

 ここが別邸だろうか。本邸よりは小さく見えるけれど、それでも大豪邸には変わりない。

 八ヶ月間、ここが私の戦場となるのだろう。

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