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第92話 (番外)現在判明しているスペルとおまけ

 精霊が人間界で魔法を使えるのは、高位精霊である霊鳥と神獣に竜のみ。進化途上の精霊は魔法を行使する場合、魔力を通す触媒として術者が必要だ。ちなみに上位精霊へ進化すると、魔法ではなく物理扱いの特技を持つようになる。


 その精霊は異界と魔法の糸で繋がっており、魔素を集め術者に供給している。なので事実上、燃料切れが起きることはない。問題は触媒となる人間の方で、スペルを実行するには代償が必要となる。その代償が睡魔に襲われ、自らの寿命を縮める訳だ。


 大魔王ルシフェルの加護と、桃源郷の桃により、これら懸案は解消した。フローラの場合は霊鳥サームルクと、古代竜ミドガルズオルムの加護もある。ティターニアとオベロンに言わせると、大技を連発できる規格外の性能なんだとか。

 けれどひとたびベッドに入れば、眠り姫となるのは今までと同じ。フローラもグレイデルも三人娘も、スペルを連発すれば一晩では起きない。姫と呼ぶには語弊があるかもだが、キリアもそうなるだろう。


 さて触媒となる聖女たちだが、手に持つアイテムで魔法の威力が変わる。フローラとグレイデルは代々伝わる扇、三人娘は調理器具だが中華鍋が一番いいらしい。キリアは聞くまでもなく、商人らしいそろばんである。

 そんなローレンの聖女たちが使うスペルを、いま判明している分だけおさらいしておく。これからも増えるようだが、カテゴリ別に分けてまとめるとしよう。


 四属性の攻撃魔法――。


 クラッシュドファイア(炎のつぶて)

 火球を手のひらに出し、対象にぶつける火属性魔法。

 フレイムアナコンダ(炎に輝く蛇)

 直線タイプの範囲魔法で、進行上の範囲内にいる敵を焼き尽くす。

 |エグゾースト《堪忍袋の緒が切れました》。

 直線ではなく効果範囲が、術者を中心として全方位の爆裂範囲魔法。

 オバタリア(おばちゃんの意地)

 狙った敵に忍び寄る、隠密タイプの爆裂範囲魔法。ダーシュの専属スペルで、使えるのはキリアのみ。なお彼女が行使できるのは、以上の火属性魔法となる。


 クラッシュドアイス(氷のつぶて)

 氷塊を手のひらに出し、敵にぶつける水属性魔法。

 フローズン(氷結)

 本来は肉や魚を冷凍する教会魔法だが、もちろん戦闘でも使える。絶対零度で凍結した敵は、少しの衝撃でも粉々に砕け散る。

 フラッシュフルード(鉄砲水)

 水を操り敵を溺死させ押し流す技で、練度が上がれば土石流を起こす事も可。


 ホイールウィンド(風刃の車輪)

 小規模な風の渦を生み出し、対象を切断する風属性魔法。

 ジャイアントスイン(風の大車輪)グ。

 ホイールウインドの大型版で、直線上の敵を薙ぎ倒す。

 トルネー(風神)ド。

 竜巻を起こし、雑魚敵を空中に巻き上げるスペル。

 これ自体に殺傷能力は無いのだが、巻き上げられた敵が飛翔能力を持たない場合はお察し。地面に叩き付けられ、原形を留めないほどのミンチとなる。飛べる敵の場合は竜巻の中に、フレイムアナコンダをぶち込むという荒技も。


 ソーンウィップ(茨の鞭)

 茨の蔦を伸ばし、敵を打ち付ける地属性魔法。

 一見地味だが重量物を無視できるため、持ち上げて空中へ放り投げることも、地面に叩き付けることもできる。その応用で身近にある岩を敵軍に射出する、歩く人間投石器と化すことも。

 術者の練度が上がれば蔦をどんどん枝分かれさせ、複数の敵を同時に攻撃できることから、結果として近距離と遠距離を兼ねる範囲魔法となる。


「ねえ樹里、酒樽を何個持ち上げられるの?」

「うーん……試したことないから分からないわ、明雫」


 兵站の馬車から運んできた酒樽十個を、樹里は樽台にひょいひょい乗せていく。地属性の精霊さんと一番付き合いが長いから、練度が上がるとこうなるのだ。ほええと目を丸くする、桂林と明雫に兵站糧食チームである。


 二霊聖の攻撃魔法と合わせ技――。


 シャイニングアロー(輝ける矢)

 天使ちゃんの専属スペルで、神聖な光の矢が敵を貫く。加えてエンゼルリングが発生し、範囲内の魔物を一瞬にして灰と化す。

 ダークプリズン(暗黒の牢)

 悪魔ちゃんの専属スペルで、暗黒空間へ繋がる転移門に敵を吸い込む。


 炎の魔物には火属性魔法が通用せず、属性の相性というものがある。対して二霊聖のスペルに相性の良し悪しは関係なく、どんな敵でも通用する万能攻撃と言えるだろう。もっとも使えるのはお友達となった、フローラだけであるが。


 ストーンゴーレム(岩の巨人)

 トゥリーマインド(樹木の意思)

 ミドガルズオルムの古代スペルで、四精霊の合わせ技。神木や奇岩霊石の力を借りるのだが、他にも土地や川の守護霊を呼び出すバージョンもあるらしい。


 ライディー(雷神)ン。

 四精霊と二霊聖の合わせ技で、フローラが持つ最大奥義のひとつ。天を支えるが如く、巨大な雷撃の柱をお見舞いする事ができる。

 ミーティ(流星)ア。

 これも四精霊と二霊聖の合わせ技であり、フローラが持つもうひとつの最大奥義。ミドガルズオルムの古代スペルで、最強にして最凶とも言える。隕石を召喚して任意の地点へ落とす技なんだが、練度が上がれば召喚できる数を増やせるもよう。


「高位魔法ほど、詠唱が長くなる傾向にあるのよね、グレイデル」

「恋人が魔人化するのは聖女を守るために、時間稼ぎを請け負うのでは? それが本来の趣旨かも知れませんわね、フローラさま」


 ライディーンもミーティアも神々と魔王に求め訴える大技ゆえ、エロイムエッサイムから始まる長い詠唱となるのは周知の事実だ。フローラはそれ当たりかもと、ナタリーに剣の手ほどきをしているシュバイツを見やる。

 最近は女装しておらず、いやそれが正しいのかもだが、ちょっと複雑な乙女心。フローラにとっては女装した、シュバイツことシュバエルも好きなのである。今夜は女装してって、おねだりしてみようかしら、そんなこと考えてたりして。


 補助魔法と回復魔法――。

 注意点として補助系と回復系は、全て四精霊の合わせ技となる。


 ヒール(回復)

 病気や傷付いた肉体を修復する、回復の基本魔法。ただし失われた血液までは戻せず、万能でないところが基本と言われる所以である。

 レストレーショントゥハ(体組織の再構築)ース。

 血液も込みで回復するヒールの上位版だが、老いに伴う身体能力の低下や病気には効果がない。また致命傷の場合は間に合わず、悔しい思いをすることも。


 ビーナスバッファー(金星の加護)

 金星が輝く早朝と夕暮れ限定のスペルで、味方に馬も込みでバフをかける広域補助魔法。攻撃力と防御力、回避力と瞬発力が上昇し、兵士を大幅に強化する。


 ディフェンスシール(物理防御結界)ド。

 物理攻撃に対する防御壁で、術者の練度で耐久性が変わる。教会魔法では青のルキアから使えるようになり、複数人による重ねがけで強度を上げる連携もあり。


 マジックシールド(魔法防御結界)

 物理ではなく魔法に対する防御壁で、運用はディフェンスシールドと同じ。教会魔法では、緑のルキアから使えるようになる。紫のルキアになれば、物理と魔法の同時結界であるデュアルシールドが発動可能に。


 リバースディフェンスシ(逆位相の物理防御)ールド。

 味方を守るのに展開するのではなく、敵を防御壁で包み込むスペル。何もできなくなるので、割りとあくどい使い方と言えよう。思い付いたのは言わずと知れた、大聖女その人である。


「魔法はイメージすることが大事とは言ったけど、ねえオベロン」

「やっぱりフローラは面白い子だね、ティターニア。誰も思い付かないような、技の使い方を考案するなんて」

「んふふ、あの子も私とあなたみたいに、神霊となるかも知れないわね」

「大天使になるか大精霊になるか大魔王になるか、どう見る?」

「フローラの精霊天秤はど真ん中、きっと大精霊よ」


 なら精霊界の住人になるんだねと、オベロンは黒胡椒をひょいぱく。もっともフローラは人間としての輪廻転生を望んでおり、永劫とも言える寿命に興味はなさそうよと、ティターニアが赤唐辛子をひょいぱく。


「神霊に昇華した魂が人間として転生するなら、メシア(救世主)になるのでは? ティターニアさま」

「そうねヒュドラ。人類が滅んだ前時代の、ブッダ、イエス、ソロモンになるかも」


 それはそれで一興と、黒胡椒に手を伸ばすオベロン。今日はもう三個食べたでしょうと、その手をぺちっと叩くティターニアである。 


 ディスペル(解呪)

 呪いや罠を解いたり、敵が発動中の術を妨害するスペル。ただし双方の力量差があってこそで、とんでも性能のフローラだから勝てるってのも多い。


 その他――。

 スペルは唱えていないけれど、フローラが無意識に発動しているものがいくつか。


 コアシャン(威圧)

 頭にきた時、腹に据えかねた時、目には見えない闘気を彼女は発する。筋が通らないことを殊更に嫌う、彼女特有の精神に与える圧迫だ。


 トランスミューテー(錬成)ション。

 スプーンをねじ曲げたり元に戻したり、素材を自在に加工し錬成する能力を会得している。本人が気付いてないだけで、実はとんでもない能力だったりして。


 ソウルガイド(魂の導き手)

 フローラの歌声は信仰心がない者でも、その魂を揺さぶり己を見直すトリガーを引く。楽曲を聴いて、書籍の文章を読んで、心が共鳴する経験は誰しもあるはず。これこそが新たな千年王国を築かんとする、大聖女の御業なのかも知れない。


「どうしたのザンギ、打ち合わせで何か疑問や不満でも?」

「いえ、そうではなく」


 女王テントで軍議が行なわれ、ザンギとその配下が自警団及び聖堂騎士と、連携を取ることで方針が決まった。首脳陣と隊長たちは解散したのだが、なぜかズルニ派の親分は居残ったのだ。風呂に浸かり髭も剃り、さっぱりしているザンギがだ、変にもじもじしておりレディース・メイドが気味悪がっている。


「あのですね」

「うん」

「そのお」

「うんうん」

「讃美歌第二編第百六十七番を歌って頂けないかと」


 それは小さな子供が寝る前に、母親へ絵本を読んで聞かせてと、おねだりするような願いであった。いいわよとフローラは、ライアーハープを手に取る。シュバイツさまを呼んできますと、ミリアが外へ駆けて行った。


 野営地に賛美歌のアメージンググレイスが流れ、誰もが手を止め聞き入る。心の深い所へ刺さる、フローラとシュバイツのハーモニーだ。近頃上手になってきたフローラのライアーハープに、吟遊詩人が伴奏を入れ音に重みを増す。


 ザンギと配下たちは身じろぎひとつせず、じっと耳を傾けていた。どんな悪事を働いた者でも、心を入れ替え進むべき道を定めたならば、神はお救い下さるという歌詞に。

 中には目に涙を浮かべている暗殺者もいるが、これぞ大聖女の真骨頂なのかも知れない。力で捻じ伏せるのではなく、法に従わせるのでもなく、どう生きたいですかと心に触れてくる優しい歌声が。

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