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銀杖のティスタ  作者: マー
銀杖の魔術師
43/86

42.先生からのご褒美


 正式な魔術師へ昇格してから3日。


 昇格の報せを聞いた人達が、僕の元にお祝い品たくさん送ってくれた。


 送り主は、短期留学の時にお世話になった魔術学院の同級生達。珍しい魔導書や魔術の基礎知識の論文、魔術師界隈で密かに話題になっている噂を纏めた雑誌、他にも色々とある。寝る前に読むには丁度いい。


「トーヤ君、魔術師昇格おめでとう!」


 便利屋事務所の方々も祝福してくれて、1日では食べきれないほどの御馳走を千歳さんが用意してくれた。僕の肩には、いつの間に「本日の主役」と書かれたタスキが掛かっている。


 照れ臭かったけれど、お世話になっている人達に祝ってもらえるのは本当に嬉しい。頑張ってきた甲斐があるというものだ。


 魔術師として認められたことがひとつの区切りではあるけれど、まだ魔術師としてのスタートラインに立ったばかり。ここからが肝心だ。


「皆さん、ありがとうございます。これからも頑張ります」


「トーヤ君は固いですねぇ。もっと喜びましょうよー」


「ティスタ先生、もう飲んでるんですか……」


 先生はパーティー開始前から酔いどれ状態。僕に寄り添いながら、穏やかな笑顔を浮かべている。今までにないくらいのご機嫌である。


「こーんなおめでたい時に飲まないわけがないでしょうッ! キミは見習いから卒業すると同時に、私からも卒業して魔術師として正式に認められたのですから」


「先生のおかげです。ありがとうございます」


「今の私は、キミの先生ではありませんよ。だから――」


 ティスタ先生は急に黙ったかと思うと、今にも泣いてしまいそうな顔で僕を見つめている。


「え? えっ、あの、どうしたんですか先生」


「だっでぇ゛~……」


「おぉ、よしよし……」


 遂に泣き出してしまった先生の背中を撫でていると、千歳さんと金井さんが苦笑いしながら理由を説明してくれた。


「キミの卒業が嬉しい反面、自分から離れていくのが寂しいんだよ」


 兄弟子も「こんなティスタさんを見るのは初めてのことだ」と笑っている。


「トーヤさん、1年と経たずに卒業だもんなぁ。普通は5年以上は必要な見習いの過程をすっ飛ばして、飛び級で魔術師になったから」


 兄弟子の言う通り、立場こそ変わったけれど学ぶことはまだまだ多い。ティスタ先生の弟子としてだけではなく、ひとりの魔術師として一緒に働きながら色々なことを学びたい。


 僕の気持ちを伝えたかったが、ティスタ先生は号泣してしまって話せる状態ではない。


「うぅぅ~……」


 酔っているからか、情緒が少し不安定。今まで何度もお酒を飲んでいる姿を見てきたけれど、ここまで泥酔した姿は見たことがない。


「先生、僕は今後も便利屋で働かせてもらうので、お別れというわけではないですよ。まだまだ先生から学びたいことがたくさんあります。これからもよろしくお願いします」


「そ、そうですかぁ? んへへ」


 僕の言葉を聞いた途端にフニャっとした笑顔を見せた先生は、僕の腕にしがみついてスキンシップを繰り返す。まるで猫みたいだ。


「先生、人前なのでそういうことは……」


「ほぉっ!? 人前でなければいいんですねっ?」


「今日は本当に自由ですね、先生……」


 正直、満更でもない。


 師匠と弟子という関係だけではなく、ひとりの魔術師として先生と接することができる。これまでよりも一歩進んだ関係になったのだから。




 ……………




 パーティーを終えて解散した後、ティスタ先生を事務所の隣にある仮眠室に連れて行った。腕にしがみついたまま離れないので、そのまま移動する。


「飲み過ぎですよ、先生」


「こういう時くらいですよぉ……」


「……ありがとうございます」


 先生は、魔術師になったことを僕自身よりも喜んでくれている。飲み過ぎで体を壊してしまわないかだけが心配だが、先生の気持ちは素直に嬉しい。


「先生。部屋につきましたよ」


「ベッドまで~」


 普段は見せないワガママな一面を見せてくれて、ちょっと嬉しくなってしまう。他者を優先することが多いティスタ先生が、弟子の僕を頼って素直に甘えてくるのは珍しい。


「はい、どうぞ」


 先生をゆっくりとベッドの上に座らせて、僕は部屋から出ようと「おやすみなさい」と挨拶をした。しかし、先生は「こっちにきて」と目線で訴えながらベッドをポンポンと叩いている。


「……いいんですか?」


「当然ですよぉ、キミは特別ですから……」


 相変わらずフニャフニャの笑顔を浮かべているティスタ先生を見て、心臓が高鳴る。この人、僕が年頃の男いうことを忘れているのではないだろうか。


「失礼します」


「はい、どうぞ」


「……えっ」


 ベッドに腰掛けた瞬間、気付いた時には膝の上に寝かされていた。突然の膝枕に困惑している僕の頭を撫でながら、先生が話しかけてくる。


「今の私は、キミの先生ではないですからね。気軽に名前で呼んでくれてもいいんですよ?」


「それは、そうですね……慣れたら……そう、します……」


 憧れの女性に膝枕をされながら頭を撫でてもらう。なんというご褒美。


 先生は膝枕をしたまま僕の頭を撫でながら、ひとつ提案をしてきた。


「親しい者は、私のことを「ティセ」と呼びます。プライベートの時、気が向いたらでいいので……そちらの呼び方をしてください」


 初めて聞くティスタ先生の愛称。千歳さんや兄弟子が愛称で呼んでいないということは、僕や一部の人にしか教えていないのかもしれない。気恥ずかしいけれど、思い切って愛称で呼んでみる。


「はい、ティセ」


「……~~~っ……」


 天井を見上げながら「最高だ」みたいなリアクションをしている先生を見て、僕は思わず笑みが零れる。


「えへへ、嬉しくなったところで……そろそろ寝ましょうかぁ……」


「はい、おやすみなさ――」


 何故か僕までベッドの中へ引きずり込まれてしまった。力が強い。魔力を使って肉体を強化している。本気過ぎる。


「ちょっと先生、何をしているんですか……!」


「……んぅー……」


「えぇ……寝てるし……」


 僕を抱き枕にしながら、ティスタ先生は夢の世界へと旅立ってしまった。身動きが取れずにいたけれど、今の状況が幸せ過ぎて頭が回らない。


「まぁ、いいか……」


 僕も最近は魔導書解読のために夜更かしを繰り返していたから、強い眠気が襲ってくる。心地良い温もりの中、大好きな女性に抱きついてもらって朝まで眠ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後が羨ましいです。
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