66.スキルの可能性
【スライムゼラチン】:ゼラチン 魔力回復(小)
この表示が意味するもの。それはこの塊の名と、前の世界での最も近い食材だ。
ちなみに……
【ゴロポイト】:食材 じゃがいも
僕が食材を直接手に取ると、《料理》スキルが働き食材かどうかを教えてくれる。
実際、市場ではこれで食材を探し回った。
が。正直今はどうでもいい。
「ねぇキハク?魔物って美味しいの?」
おかしい。ダンさんとローファさんはたしかに魔物は不味いと言っていた。
それに僕も試しにと、魔物牧場の餌用にと、解体されていたリーフラビットの肉を焼いて食べたが、勿論食材の表示が出ず、更には2人の表現通り、吐くほどクッソ不味かった……。
『味しないです。主様のご飯は美味しいです』
魔物は魔物を食べるが、美味しくも不味くもないという事だろうか。
でも確かに、このスライムの破片には食材の表示が出ている。
そして効果も……。これは料理に使えばMPの回復する料理が出来るって事なのだろう。
「何が違うんだ?いや。そもそも単純に、このスライムが食材で、リーフラビットが食材じゃない?」
様々な可能性を考え、ふと違う破片に目を向けると他とは違う破片が目に付いた。
「毒々しい色がそのまま……?」
宝箱の出現した近くに落ちているのは、毒々しい色のまま残ったビッグスライムの切れ端だった。
【 】
何もでない?
手に持ったその切れ端は、手を溶かす事なく生前の特徴は失ってはいるが、確かにスライムの体の一部のままで、食材の表示は出る事は無かった。
どうしてだ?何が違う?
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……!まさか。いやいやいや。そんな事するか?
いや。するなぁ あの残念美神は。
この世界が神力を得るための世界なら。
迷宮が最も神力を得られる場所だとしたら。魔物を倒すことが、より効率が良いのだとしたら。
より多く。より強く、より特殊な個体を倒す多くの冒険者が必要なのだとしたら。
料理なんて代表的なスキルを、無能なスキルとして生み出すか?
《料理》スキルが出来る、魔物の食材化
何故誰も試さなかった?料理スキルは家庭のスキルだから?魔物が、恐ろしく不味いと誰もが知っているから試そうとも思わなかった?まぁゴブリンには出なかったから全部が全部ではないのだろう。
それに熟練度がそれなりに高い《料理》スキルを持つ冒険者が、自らが討伐した魔物でないと意味がなく、食材にはならないのではないだろうか。
《料理》スキルと《剣術》スキル持ちはいなかった?
いや。いたはずだ。でも迷宮で稼ぐため、料理は人に任せ剣術スキルを上げようとしたはず。料理に興味を失った世界なのだから。
そうすると料理スキルの熟練度が足りない。
だから足りない熟練度で討伐し、それを料理しても不味く食べられない。
だから料理スキル持ちでも、ダメだと言う結論になった?
何故冒険者の食欲は、味を、きちんと調理されている料理を求めない?
冒険者こそ、味を探求し美味いものを求めるはずだ。実際僕の料理を食べた人達は大いに喜び、定期的に注文するようになっている。
ただ神の作ったこの世界は、迷宮の攻略が中毒性のあるエンターテイメントだ。
神が、そうなるように創造しているのだから。
調理などという時間も、手間もかかる事は省かれてきた。
王族や貴族は違う。
迷宮のアイテムをこぞって集め、自分達の舌を満足させる料理を求めて、料理スキル持ちに料理を作らせる。
逆にそういう料理人は、戦闘系スキルが低く迷宮に潜ろうとはしなかった。生活できてしまうから。
より早く、より多く、より安く日々の食事を取ることを考えている市井の人々は、料理を嗜好品と考えなくなった。
そんな世論の中で、調理道具以外に補正のかからず、補助なしと考えられた料理スキルは、ハズレ補助と呼ばれ、戦えるスキルを一つ持っていたとしても、それ以外に補助がプラスされるスキルの組み合わせが優先され、料理スキルがある事を隠しそれを育てる機会も失った。
どんなスキルにもメリットがあり、デメリットがある。
武器に補正がかからず、《木工》や《調合》のように魔法のようなスキルもない。
料理を作っても、今のような一手間を惜しむ料理では、それほどスキルによる違いはでない。
当たり前だ。魔物の食材化などという、メリットがあるのだから。
これがあれば、同じ階層で何泊もして探索しなければならない時に、食材の持ち込みを相当減らせるだろう。
それに、他にも何か効果の付いた魔物がいるかもしれない。
公表すべきか?
いや無理だろうな。今のままじゃ誰も信じないし、おかしな伝わり方をして混乱を招くだけだろう。
「慌てる事はないかな……」
『主様?』
キハクに心配をかけてしまったみたいだ。
色々と検証の余地がありそうだけど、まずはこのスライムゼラチンで何か使ってみよう。
一歩ずつだ。まずはこの都市で信用を勝ち取る。
その後は僕以外の《料理》スキルの高い人に同行してもらって検証しよう。
「良い物が手に入ったよ。帰って何か作ろう」
寒天のように半透明となったビッグスライムの破片だけを全て回収し、《どうぐ》へと収納し6階層の魔道具で階層を登録し、ギルドへと戻った。
「ミリネさん。ただ今帰りました」
「あらユウさんお帰りなさい。その様子なら5階層のボス部屋は問題なかったみたいですね」
相変わらずの女神のような笑顔で迎えてくれるミリネさんは、どうやらもう一度迷宮へ潜る事を予想していたようだ。
僕の様子を見て5階層突破を確信していた。
「はい。ビッグスライムでした」
「えっ?コボルトリーダーではなくですか?」
「はい。コボルトではなくスライムでした」
どうやらビッグスライムはあまり出ない階層ボスのようだ。しかも打撃ほぼ無効。叩っ斬るような西洋剣は相性が悪く、余程の切れ味の鋭い剣じゃないと、まず低級冒険者では苦戦して逃げ帰るらしい。
まぁ血桜は刀だし、斬撃特化は相性が良かったんだろう。
「さすがですね。スライム系は6階層から出てきますので、滅多に出ないんですよ。その分5階層の報酬としては、多く金貨が入っている事が多いそうです。通常は1〜2枚程度なので。これで5階層突破ですね。おめでとうございます。明日から6階層ですか?お気をつけくださいね」
どうやら金貨9枚は相当多いらしい。厄介な魔物だし妥当なんだろうな。
「そうですね。明後日には引っ越しなので、今のうちの進めておきたいです。ご心配ありがとうございます。ミリネさん」
軽く頭を下げ、ニコリと微笑むミリネさんと別れ、宿へと戻った。
GW中 データの入ったパソコンを忘れて出かけてしまい。まったく更新できませんでした。
遅くなりましたがよろしくお願いします。
ブックマーク300を超え
評価も1000を超えました。嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




