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64.5階層へ 再び

ジューっと食欲を唆る音を立て、牛カツの断面に火が通り肉の香りが鼻腔を刺激する。


僕が牛カツの皿以外に用意したのは3つ、十分に加熱した鉄板を皆の中心に置き、ソイルー(醤油)と西洋ワサビのような風味のある木の実をすりおろしたものを各自に用意した。


一切れ目の牛カツを口に運び、それぞれが味を変えながら楽しんでいる。


「あぁ私はこれが一番好きだね。ステーキもいいけど、なんと言ってもこの牛肉の甘さ。生かと思う程に真っ赤なのに、しっかりと牛の甘みが出てきてるよ。焼き目をつけると味の変化も楽しめるし、何より楽しいね。それに外側もカリっと上がってて、ゴロポイト揚げみたいな、くどい油っぽさがまるでないよ。私はあれが苦手でね。ユウが揚げ始めた時は今日は食べるの諦めたんだよ。まさかゴロポイト揚げもこんな感じでカラッと揚げる事が可能なのかい?」


あ〜確かに。ゴロポイト揚げは脂っこいからな。僕も2つは食べられないや。


「そうですね。ゴロポイト揚げの店の人に教えようとしたら、怒られちゃいましたけどね。今度作りますよ」


「ホントですか!私ゴロポイト揚げ大好きなんです!お母さん嫌いだから全然買ってもらえなくて!」


身を乗り出して、目を輝かせるレムはサラムさんと違って、ゴロポイト揚げが好物らしい。

この牛カツもあっという間に食べきりっていた。物足りない顔をしていたし、この年頃って揚げ物好きだよな……。


あっ。僕も15歳か!醤油も手に入ったし、今度ゴロポイト揚げもそうだけど、唐揚げでも作ってあげよう。


「失礼する!主人よ。こちらの宿に登録のある。ユウという冒険者はいるだろうか。グストの件で兵士の詰所に同行頂きたい」


次の料理のレシピを頭に浮かべ、必要な食材が揃うかを思案していると、3人の兵士姿の男達が食堂へと入ってきた。

聞けばグスト達が捕まり、詰所へと連行されたが4人と報告されていたが3人しかおらず。どのような冒険者だったかを教えて欲しいとのことだった。




「お!来たな。すまねぇなわざわざ来てもらって」


詰所に入ると、迎えてくれたのはいつも迷宮の入り口にいる。ジルサさんだった。


「いえ。先程はありがとうございます。グスト達が捕まったんですね」


「あぁ5階層と1階層で挟みうちにしながら人海戦術で範囲を狭めて捕まえた。多少抵抗があったがまぁ無事捕縛できたよ」


兵士と言ったらある程度戦闘スキルの組み合わせが良い人達が採用されている。4階層までに出てくる魔物などまったく苦戦すらしないだろう。


「仕事が早いですね。流石です」


「あっはっは。これが仕事だからな。それはそうとユウ。お前は全員の顔を見ていると思うが、1人足りない奴がどういうやつかわからないか。奴らは奥の牢に目隠しをして閉じ込めてある。安心して確認してほしい。それとおかしな事を叫んでいるが、先に言っとくが俺らは全く信用していない。」


歩きながら説明を受けると、どうやら人海戦術で隈なく全階層の部屋を探したが1人だけどうしても見つけることが出来ず、どういう冒険者だったかだけでも教えて欲しいらしい。


そして叫び続けているという内容もすぐに確認できた。


「殺したんだよ!あのユウって奴が。」


詰所の奥に進み、牢屋に辿り着くとグストが騒ぎ立てていた。そしてすぐに誰が足りずどうなったかが分かった。

その事実に苦い顔をしていると、その顔に気付いたジルサさんが心配そうに、僕の顔を覗き込んだ。


「大丈夫か?ユウ」


「はい。すみません。分かりました」


僕が殺したと言われているのに動転したと思ったのか、ジルサさんが心配して声をかけてくれた。


ただその時僕の目に映っていたのは。


名前:グスト

年齢:28

性別:男

職業:冒険者

スキル:大剣術 採掘

備考:恐喝 傷害 窃盗


名前:テファ

年齢:24

性別:男

職業:冒険者

スキル:小剣術 解体 整頓

備考:恐喝 強盗 殺人


名前:カーマン

年齢:25

性別:男

職業:冒険者

スキル:棒術 農耕

備考:傷害 殺人


あいつら、リットスとか言った若い魔術師を殺しやがった。

なぜ殺したか分からないし、彼を殺したことを僕のせいにしてどうなるのかも理解できないが

確かにリットスをカーマンに殺させた……。


「あぁ大丈夫です。いないのはリットスと呼ばれていた魔術師ですね。風魔法で攻撃して来ました。確か女の子を助けた時気絶させたはずです」


あぁ。言って気付いた。

あいつら気絶したリットスを運んで逃げるんじゃなくて、殺して口封じしたのか!


「そうか。ありがとうよ。あいつらの逃げたスピードから考えて、口封じに殺したんだろう。ならこれで全員だな。ユウ安心して迷宮の探索に戻ってくれ。こいつらが、ここから出ることは未来永劫ないからな」


ジルサさんは、同じ考えに至ったらしく。調査終了の書類にサインを入れていた。

救助された少女以外に、冒険者は発見されず登録されていた宿にも帰宅していない事からも奴隷主は死亡として手続きされるそうだ。


まぁ。なんにせよこれで5階層に挑戦できる。

目標は5階層の突破、今日の目標はしっかりこなしておきたい。

なんせ、引っ越しまでそんなに時間がない。出来る事を最短でやるべきだろう。


そして、やはり慣れない一瞬の浮遊感を感じつつ、改めて5階層へと転移した。


先程は、無我夢中で階段脇の魔道具に触れ、迷宮外へと脱出し周囲を見る間もなかったが、5階層はギルドで教えてもらった通り1部屋のみの作りとなっていた。


普段であれば、ここには他のパーティがボスへと挑む順番待ちをしている事もあるらしいが、今回は僕らだけが挑戦者であった。


階段と向かい合う形で、反対側の壁には大きな真っ黒な扉があり、嫌が応にも胸の鼓動を早くした。


目の前の扉を見上げる。

重厚な鉄のような質感の扉に、様々な模様が描かれている。植物が覆ったような模様の扉の絵にはなんら規則性が無いように思える。この中に出てくるボスのヒントとかあればよかったんだけどね。


「いこうかキハク。この先は、今迄の魔物とは一段以上格上の相手になると思う。油断しないようにね」


『はい。主様』


キハクと共に士気を高め、黒色の扉に手をかける。

ゆっくりと押された門は、少しずつ開きその後、自動で最後まで開き僕らを招き入れた。


薄暗い部屋の中へと数歩足を踏み入れると、バタンッと扉が閉まり僕らを閉じ込め、周囲の壁に取り付けられている照明がいっせいに点灯し、明るくその空間を照らした。

ギルドでの話では、鍵が掛かっていることはなく戻ることは出来るらしい。


しかしそれを確かめる暇はなかった。

扉が閉まった直後、部屋の中央に黒い靄が出現し収束し始めていたからだ。



読んで頂き有難うございます。

ブクマや評価有難うございます。


これからも頑張ります。

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