58.材木店の主人
300gという、かなりのサイズ感のあるポークジンジャーに、女性陣3人がナイフを入れる。
蒸し焼きにされた豚肉は、確かな抵抗感を感じさせながらも決して固くなく、滑るようにナイフが自然と肉を切り分けていく。
驚くほど柔らかく仕上がったポークジンジャーに、3人は確かめるように次へ次へと肉を切り分けていく。
そして、テーブルの下では、勢いよくキハクがポークジンジャー に食らいつき満足な笑みを浮かべていた。
厚切りの豚肉も引きちぎるのではなく、キハクにとっては豆腐かのように抵抗感なく口の中に収めていき、その味を味わうようにゆっくりと咀嚼し、飲み込んでいた。
僕も、目の前のポークジンジャー へとナイフを入れ、その一切れを口へと運ぶ。
フォークで刺したポークジンジャー を口に近づけると、生姜とニンニクのしっかりと効いた香りが鼻孔を刺激する。
そしてそのまま口に運べば、玉ねぎの甘さがしっかりと、豚肉の甘さを引き立て、口一杯に甘い豚肉の脂が広がり、肉質も玉ねぎの酵素の力で更に豚肉を柔らかく仕上げられており、噛めば噛むほど豚肉の旨みが広がっていく。
もちろん、半分微塵切りにした玉ねぎの食感が、柔らかな豚肉に良いアクセントとなっている。シャリシャリと小気味よい音をこちの中で響かせ食欲を更に高めた。これはシャリアピンステーキを応用した一手間で、師匠からのお墨付きだ。
「おいしー!!」
「何だいこれは!豚肉なんて焼いちまえば、筋っぽくて固いのになんて柔らかさだい」
「ユウ様〜〜〜。私は幸せです〜お肉が甘いです〜」
レム、サラムさん、シルネが順に口へとポークジンジャー を運び、各々の感想を叫びながら加速的に口へとポークジンジャーが運ばれて行く。
300gもあった厚切りの豚肉の塊は、あっという間に3人の胃袋へと吸い込まれ、ジンジャーソースを千切りのキャベルに絡め、最後の一滴までパンでこそぎ取り、新品同様の輝きとなった空のお皿がものの数分で並べられた。
「「「「『ご馳走さまでした』」」」」
名残惜しそうに皿を見つめる3人と、1匹を尻目に皿をまとめると、レムが片付けをかって出てくれたので、その言葉に甘えることにする。シルネは片付けを手伝うと言い。レムに指示をお願いして1人で部屋へと戻った。
『主様の料理。本当に美味しいです』
「ありがとう。キハク。明日は4階層を一気に走破して、5階層に行くからね。多分階層主がいると思うから気合い入れていこうね」
5階層毎に存在している。階層主と言う名の中ボス的存在。
これは、通常の階層モンスターよりも一段階強く、冒険者たちに訪れる試練の一つとなっている。
しかし、この階層主を倒せばいつもよりも多くの【神力】が吸収出来る他、必ず宝箱が出現し、宝箱の色によっては稀少なアイテムや装備が手に入る。まぁ5階層くらいでは対していいものは入っていないらしいけど……。
『はい。主様!頑張りますです。』
「ユウ様〜。ただいま帰りました!」
明日の予定を話していると、片付けの終わったシルネが変化を解きながら、部屋へと戻ってきた。
「お帰り。シルネ。片付けの手伝いありがとね」
「いえ。ユウ様こそ。お疲れなのに美味しい夕食を作って頂いて!私明日からも頑張ります!明日も一生懸命魔法の練習します!」
気合いを入れて、拳を握るシルネが身体の周囲魔力を循環させている。
オーラのようにほとばしる魔力は薄っすらと緑色をし、キラキラとしていた。
「綺麗だ……」
「へ⁉︎ひぇ〜〜〜」
僕の呟いた一言に大いに慌てたシルネが、頬を両手で挟みながらくねくねと体をもじっているが、これ以上言っても藪蛇になりそうだ。まぁ自分も勘違いさせるような一言を言ったのが、いけないのだけど……。
「あー。うんっ!シルネ。明日なんだけど木工をお願いしたいんだ。その前に水に強くて腐りにくい木が欲しいんだけど、何処かで手に入らないかな?」
一度喉を鳴らし、シルネの意識をもう一度戻したところで、木材屋かもしくは森で水に強い種類の木がないかを聞いてみる。
シルネももじもじとしていた体を正し、少し思案した後、口を開いた。
「はい。それでしたらウック材木店と言う所が様々な木材を扱っています。どの位必要かは分かりませんが多少の木工で使う程度でしたら、切れ端を捨て値で売っているので、すぐ手に入るかと思います。ちなみに水に強いと言うのならマロニの木が良いかと思います。水に強く腐りにくいと言われているので、食器などにも使われている木です」
「それだ!バッチリだよ。ありがとうシルネ。さすがはエルフだね」
褒められたのが余程嬉しかったのか、えへへ〜と照れるシルネに明日の予定として、材木店へと行くことを伝えた。
「おはようございます!」
ウック材木店と書かれた看板の下のドアを開くと、元気な声でシルネが挨拶をする。
シルネの話ではウックさんというのは、昔シルネの村から迷宮都市へと移り住んだエルフらしく、もちろん姿を変えてだが、専門知識を活かし、材木店を営んでいるらしい。
「おや。シルネじゃないか。随分久しぶりだね。そういえばギルドを辞めたんだってね」
ずれた小さめの丸いメガネを戻しながら、長身細身の男性が落ち着いた面持ちで、シルネに返事を返した。
そして、ギルドを辞めたという話しのあたりで、僕をチラリと値踏みするような目で見た後。ニコリと笑った。
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