57.洋食屋の味を召し上がれ。
「くんくん。あーーーーユウ様。ミリネの匂いがします!ミリネと2人っきりで何やってたんですか!」
部屋に帰ったと同時に、樹木魔法の訓練の手を止め、胸に飛び込んできたシルネの開口一番のセリフに、軽く拳骨を落としてみる。
ゴッ!
「いったーい」
「何するんですか!義母さんもユウ様も私の頭をなんだと思っているんですか!これ以上叩かれたらバカになっちゃいますよ!ユウ様の事忘れてしまいますよ!」
涙目で頭をさすりながら訴えてくシルネにちょっとやりすぎたかな…。と爪の先ほどの反省をしてみる。
「しかし、よくわかったね。ミリネさんの匂いだなんて、獣人族でもあるまいし……。」
「ふふ〜ん。ミリネは決まった香水をつけてるからわかるんです!それに会議室みたいなところじゃないとこんな匂いは付かないですからね!イチャイチャしてた訳ではなさそうなので良しとします!」
フンすっ
と荒い鼻息を吐き出し、胸を張るシルネを少々かわいそうな子だな……。と思ってしまったのは間違いだろうか…
「まぁ。いいや。ほらこれだよ。4階層で取れたんだけどどう思う?」
「これは?」
「うん。透明の結晶部分を舐めてごらん」
ぺろっ
小さな舌をだし、シルネがその結晶部分を舐めとる。
「……しょっぱい?えっ…?塩?これ岩塩ですか⁈」
「そう正解。これがいっぱい採れてね。報告をミリネさんにしてたんだ」
「これを4階層で採取したんですね。しかも稀少ではない。………成る程。それでユウ様はこれの情報をどう開示するんですか?」
急に真剣な顔つきになったシルネは、流石は元ギルド職員だ。
この価値にすぐに気付いたようだ。そして、その情報を僕が秘匿独占しない事も分かっている。
そんなシルネが少し愛おしく感じ、思案しているシルネの頭を軽く撫でた。
「ニャ!」
「流石だね。シルネ。この情報の開示方法はギルドに相談中…。いやギルドが相談中だね。シルネが思っている通り独占するつもりはないけど、無償で提供する気もないからね」
今にも、頭から湯気を出しそうになっているシルネの頭から、手を離す。
名残惜しそうな目をしながらも、すぐに真剣な目に戻ったシルネは、改めて岩塩に視線をもどした。
「ユウ様。おそらくギルドは、情報の買取を提案してくるかと思います。ただしこれだと、最初だけ多少利益が出ますがそこまで大きな利益に繋がらないでしょう。なので、商業ギルドと冒険者ギルドに対し、情報開示条件として販売額の何%かをバックしてもらう契約を結びましょう。どうせ勝手に広がってしまう情報です。それに基本冒険者ギルドで買取を条件にすると思いますが、ギルドに売らず商業ギルドや直接商人に売る冒険者もいるでしょう。なので冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドを抑えておけば完璧です」
基本素材は直接ギルドを通した依頼でなければ
採取➡︎冒険者ギルドで買取➡︎冒険者ギルドが各素材を必要な先に販売
という形を取っている。なので、基本冒険者ギルドを押さえておけば良いのだが、シルネ曰く通さない輩も少なからず
存在するとのことで、その対策も必要なのだという。
これで料理を広めるという、ユウ様の願いも一歩前進ですね。と言い。
一過性の利益より、恒久的な利益を求めるように勧めるシルネの言葉に納得したところで、鶴嘴を振るい続けていた疲れが出てきた。眠気が襲う目をこすり、みんなの夕食時になったら起こしてくれるようシルネに頼み、キハクを抱き枕にし眠りに落ちた。
「ユウ様…ユウ様…」
肩を揺らされ、名前を呼ばれゆっくりと覚醒する意識とともに大きく伸びをし、ベッドから起き上がる。
目の前には、ライトブルーの髪の美しい少女が立っていた。
「おはよう。シルネ。ありがとね」
既に下の食堂の声も少なくなり、厨房の慌ただしさもそこまで出なさそうな気配を感じ、みんなの夕飯を作るために厨房へと降りる。
「おかえりなさい!ユウさん」
満面の笑みで出迎えてくれるレムに、軽く挨拶をして厨房へと入ると、さすがにこの忙しい時間帯を乗り切ったサラムさんがぐったりと体を調理台に投げ出して休んでいた。
「お疲れ様です。サラムさん」
「あぁユウかい。どうって事ないよ。こんなもん」
顔を上げ、答えるサラムさんの顔はたしかに疲れは見えたが、既に回復しているようだった。
「さすがですね。今日は新しい調味料が入ったので期待しててくださいね」
早速いつものように食材庫から夕飯に使う材料を選んでいく。
手元のバッグからは、プーチルさんに貰った【醤油】と一緒に分けて貰った【砂糖】がある。
【醤油】が使える事で、一気に料理のレパートリーが増える。あれもこれもとメニューを考え、最終的にはまずは定番中の定番を作ることにした。
〜ラビエ豚のポークジンジャー 〜
材料(5人前)
使用包丁:玄亀【解体包丁】
ラビエ豚のロース 厚切り 1500g(5枚)
ジンジア
グリュメニン種 適量
酒 少量
塩、こしょう 少々
ソース
オニオル 1個(1/2個すりおろし 残りは微塵切り)
ジンジア 3かけ(45g)
ネルーツ 2枚
リンア 1/3個
赤ぺパルの実 少量
ソイルー 50cc
ぶどう酒(白) 45cc+砂糖12g(味醂の代用)
キャベル 1個
〜ソース〜
①ソースの材料(オニオル、ジンジア 、ネルーツ、リンア)をすりおろし、微塵切りのオニオル以外全て合わせ、よくかき混ぜておく。
②植物油を引いたフライパンを熱し、豚肉の下処理の際に切り取った脂身と微塵切りにしたオニオルを火にかけ、オニオルがしんなりとするまで弱火で炒める。
③微塵切りオニオルがしんなりとしたところで、合わせた材料を加え酒のアルコールが飛ぶ程度に煮詰める。
〜ポークジンジャー 〜
①肉の反りを予防するためと焼いた後柔らかく仕上げるため、厚切りにしたロース肉の筋を両側ともに深めに包丁を入れ筋切りをし、脂身の部分にも包丁を入れる。
その際脂身の多い部分から少し脂身のを取っておく。(ソースに活用)
②下味として豚肉に塩こしょう少々両面にふるい数分馴染ませた後、強力粉をまな板にまぶし、豚肉の表面に満遍なく均一につける。
※粉はあまりつけ過ぎないよう、余分な粉はおとす。
③フライパンに植物油を多めに入れて中火で熱し、豚肉を入れる。器に盛る際に表になる面を軽く焼き色がつくまで焼く。
④焼き色がついたところで弱火にし、酒を加えひっくり返した後、蓋をして蒸し焼きにする。
⑤酒が飛び火が通ったら蓋を開け、ソースに入れて再びひっくり返し両面をソースに絡め取り出す。
⑥千切りにしたキャベルとともに、皿に盛り付け完成
様々な材料を使うソースは全て混ぜ合わせた後、《どうぐ》へと入れ、20分を5倍速計1時間程時間を早め味を馴染ませた。
厚切りの豚肉は、念入りに筋切りをする事で火の通りを良くし蒸し焼きにする事で柔らかな仕上がりにした。
醤油に生姜、そしてニンニクの香りが辺りを漂い。懐かしい洋食店の匂いを思い出す。
生姜焼きやポークジンジャーは、簡単に作れるという印象が強くその印象を崩さず、かつプロとしての味を出すのに、店側は神経を使いオリジナルのレシピを作り出す。
もちろん僕のレシピと、師匠のレシピも違う。
完成したポークジンジャーと《どうぐ》に保管してあるパンを添え、漂う香りに待ちきれない様子の3人と1匹の元へと食事を運び皿を並べる。
「お待たせしました。お客様。本日のメニュー。ラビエ豚のポークジンジャー でございます」
この料理が作れた事。
僕は心から醤油の存在に感謝した。




