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56.不遇解消への第一歩

暫く鶴嘴を振り続けた結果。

透明な結晶の周りには、ソフトボール程の大きさの岩塩が埋まっている事がわかり4階層の壁を見れば、それが稀な素材ではない事がわかった。


「凄いよキハク〜」


塩を発見した最大の功労者であるキハクを、これでもかと言うほど撫で回す。


『ワフ〜。気持ちいいです〜。あふぅ〜〜』


幸せそうに緩んだ口元からは、子犬のような甘えた声が漏れ、褒められた喜びが全身に現れていた。




「ふ〜。これくらいでいいかな」

暫くキハクを撫でた後は、再び鶴嘴を振り続けた。鶴嘴をしまって、少し痺れた腕と手首を振りながら、その岩塩の量を確認する。


ある程度の量を確保した事を確認したところで、今日の探索を切り上げることにした。


4階層の魔道具から、迷宮の外へまだ慣れない浮遊感を味わい帰還する。


受付の兵士に軽く挨拶を交わして、ギルドへと向かった。


ギルドの扉を開けると、丁度夕方の混雑時期に差し掛かったところで、続々と冒険者たちが戻ってきていた。

シルネがいなくなり1人減った受付も、既に新しい人員が補填され問題なく業務は回っていた。


「まぁギルドの受付は高待遇らしいし、当然か……」


そんなギルドの受付を見ながら、ミリネさんの列に並び《どうぐ》からバッグへとコボルト他、迷宮内で討伐した魔物の魔晶石を移し替えて置いた。


「お疲れ様です。ユウさん。4階層・5階層の地図はお役に立ちましたか?」


すでに、ゴブリン上位種を討伐している実績のある僕に対し、1〜3階層では問題ないと地図を勧めてくれたミリネさん。

最初から気にかけてくれているミリネさんに信頼してもらえると何だか嬉しい。


「はい。お陰様で今日は4階層を探索出来ました。コボルトも問題なく戦えます」


今日の報告をしながら、2〜4階層で討伐した魔物の魔晶石をトレイに出していく。


「あれ?ユウさん今日はお昼過ぎから潜られていましたよね?」


前のペースに比べ明らかに少ない魔晶石を見て、ミリネさんが疑問の顔を浮かべた。


「はい。その事で相談があるのですが、4階層で取れる素材は数種類の薬草と屑鉄、稀に粗悪な鉄鉱石で間違い無いですよね?」


「はい。それ以外の素材は見つかっておりませんね。ごく稀に出現する宝箱に中級回復ポーションがあった記録はありますが」


4階層からは、極々稀にだが浅い層でも宝箱が出ることがある。ただ浅い階層では、ただでさえ出にくい宝箱の中身も精々回復量が多いポーションくらいで、中層以降に出るような加護のついた装備や、希少な素材は出てこない。


「そうですよね!いや宝箱ではないんですが、素材について後でご相談したいのですが……」


「フィー!」


全てを言い切る前に、ミリネさんの表情が変わり奥にいた女性を呼び出した。


「はい。先輩!」


元気に、というより部活の後輩が先輩から呼ばれ、すぐに駆けつけた完全な体育会系の反応を見せたのは、背は低く幼女のような幼い面影を残した可愛らしい女性だった。

その少しウェーブのかかったゴワッとした薄いグレーの髪の両サイドには、羊のような特徴的な巻き角がありその女性がノームであると判断するのに十分な特徴だった。


「フィー。悪いけどここの業務を頼んだわ」


「えっ?先輩?」


突然受付の交代を言い渡され、困惑するフィーと呼ばれた女性を尻目にミリネさんがこちらに視線を向ける。


「さぁユウさん行きましょう!」


あっという間に受付から出てきたミリネさんに背中を押され、ギルドの会議室へ通される。

ここは、ギルド長室とは違い長机が向かい合わせに並べてある12人程入れる会議室だった。



「さぁユウさん。今度は何を仕出かしてくれたんですか?」


問い詰めるというより、興味津々といった顔で向かいに座ったミリネさんが前のめりになって目を輝かせている。

あれ?いつの間にやらかしキャラに僕はなったんだろう。


「あ…ミリネさん。落ち着いて。落ち着いて下さい!今出しますから」


前のめりになったミリネの姿に少々目のやり場がなくなり、視線を向けないよう最大限自制しつつ、バッグの中から歪なソフトボール大の岩塩を取り出す。


「これは?」


「はい。4階層で採取しました恐らく。いや間違いなく岩塩だと思います」


ガタっ!

岩塩を手に取り、報告を聞いたミリネさんが椅子を後ろにずらし立ち上がり、その顔を硬直させた。


「ユウ……さん。4階層と言いましたか?ちなみにこの岩塩は稀少素材でしょうか?それとも薬草同様通常素材でしょうか……?」


流石はやり手の受付嬢。その素材の価値をすぐに理解したようで、岩塩を握りしめ頭の中で試算を始めていた。


「はい。コツというか探し方と道具があれば通常素材となり得るかと思います」


そう言って、この何時間かで採取した岩塩をゴロゴロと机の上に広げてみせた。


「これは……。なるほど。ではユウさん。この岩塩を精製後に塩として活用可能だった場合。この情報秘匿しますか?広めますか?」


ミリネさんからの質問は、もっともな質問なのだろう。

冒険者として、独占的に塩の売買ができれば今の高い相場のもと、対して労力もかけず大量の塩を独占販売出来る。

それこそ商人に卸せば、かなりの儲けを得ることができるのだから。


ただ僕のこの世界での目標は、富豪になる事ではない。素材が手に入れられるくらいの財力は必要だが、必要なのは料理が広まり、料理スキル持ちが不遇でなくなる事だ。だから僕の答えは決まっていた。


「いえ。この情報を秘匿する気はありません。ただ多少の利益は確保したいですかね」


「ユウさん。やっぱりあなたは面白いですね」


にこりと微笑む女神のような笑みに、つい引き込まれてしまう。


「この発見は低ランクの冒険者の安定した稼ぎになります。そうすれば冒険者たちが装備や道具の補充に費やせるお金に余裕ができます。より安全に迷宮に潜れるようになるでしょう。まだ早いかもしれませんが、有難うございます」


頭を下げるミリネさんに、慌てつつ岩塩の扱いについて確認すると、岩塩の鑑定とその扱いについて、ギルドで相談する時間が欲しいと言われこの場はミリネさん預かりとなり、岩塩の塊を一つ預けて結果を待つことになった。


「では。よろしくお願いしますね」


「はい。ユウさん。お任せください」


頭を軽く下げるミリネさんに見送られ、シルネの待つ宿へと帰宅した。




新規にブックマーク頂いた皆様ありがとうございます。

これからも皆さんから面白いとご評価頂けるよう頑張ります。


よろしくお願いします。

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