41.咆哮そして奇行
本日2話目の投稿です。
よろしくお願いします。
突如響き渡る天を衝くような咆哮に冒険者達が注目する。
顔はゴブリンによく似た醜悪な顔。
そして青黒い2m程ある体躯に、全身を守る銀色の鎧。そして身長と同じくらいのハルバートを携えたゴブリン達よりも明らかに格上の魔物。
そのゴブリンが現れたと同時に、森の奥から新たなるゴブリンの大集団が現れ歩みを進めた。
残りも100体を切ったであろう初めの一群は、そのまま突如後方へと退散し新たな群へと合流した。
「ジェネラルだ…」
壮年の冒険者がそう口にした。
周囲の冒険者はその一言で、一気にざわめき始めた。
「静かに!」
ざわめきが更に大きくなった時、よく通った声で一人の冒険者が前に出てきた。
A級冒険者 フォルス
現在の迷宮都市において最もS級に近いとされる冒険者。
そのフォルスさんが前に出た事で、先程までのざわめきが一切なくなり、皆フォルスさんに意識を向けた。
「私はA級冒険者のフォルスだ!今回の一件ジェネラルが出てきた事で、一気に討伐難易度が上がった。いいか!こちらの戦力は現在80を切っている。そしてこれからはソロは厳しいだろう。どうかパーティ単位で事に当たって欲しい。そしてその前に遠距離攻撃が出来る者は前に出てきて欲しい。奴らの進軍に対して、合図と共に一斉攻撃を開始する!」
「グォォォォォ!!」
フォルスさんが方針を決め、配置につかせようと忙しく指示を出す。しかし、状況はこの咆哮により急激に変化し始めた。
「なっなんなんだ。この光景は……」
まさにありえないと言った光景。ジェネラルの咆哮に応えるように、ゴブリン達は周囲の仲間を襲い始めたのだ。
無抵抗に倒されるゴブリン達。
あるものには殴り殺され、ある者には剣で、槍で、投石で、既に自分がやられ役だと理解しているかのように、無抵抗のままその命を奪われ地に倒れていく。5000体以上の群がその数を600程にまで減らした頃。ゴブリン達の様子が一変した。
「グギャーーーーーー!」
小さく体を揺らし、頭を抱え始めるゴブリン達。
そして次々と薄汚い灰色の靄がゴブリンを包み込んでいく。
その間あまりにも理解出来ない状況に、冒険者達の足は止まりゴブリン達の変化の終着点を見守る事しかできなくなっていた。
「グアァァァァァァ!」
ジェネラルの再度の咆哮が響き渡り、生き残ったゴブリン達に纏わりついていた靄が取れていく。
そしてその中からは、先程までのゴブリンの姿とは明らかに違う様々なゴブリン達が一斉にその場に現れた。
「おいおいおい。なんなんだアイツら!気をつけろ皆!今目の前にいるのは雑魚ゴブリンなんかじゃねぇ。奴ら自分らの仲間を殺して進化しやがった!」
ホブゴブリン
言わずと知れたゴブリンの進化先だ。本来であれば短命のゴブリンが獲物を狩り、一族の長まで登り詰めた先にあるとされるゴブリン上位種。
そのホブゴブリンは自らの能力によって、呼び名が変わる。
生き残る為の知識に長け、一族をまとめ上げられる程度の武を身に付けた【ホブゴブリン】
仲間を護る事を信念とし、誰よりも防御に長けたものが至る【ゴブリンナイト】
斥候や暗殺。身を隠し、素早く隙をつく事に長けた者が至る【ゴブリンシーフ】
数多くの敵を屠り長剣・斧・槍・槌等複数の武器を扱う事に長けた者が至る【ゴブリンファイター】
武器に頼らず、自らの肉体を武器とし格闘戦に長けた者が至る【ゴブリンモンク】
魔法のスキルを持ち、魔力を高め頭脳戦に長けた者が至る【ゴブリンメイジ】
遠距離からの攻撃と索敵に優れ飛び道具の扱いに長けた者が至る【ゴブリンアーチャー】
信仰に目覚め、仲間を魔法の力で癒す事に長けた者が至る【ゴブリンプーリスト】
動物の知識を深め、動物との親交を深める事に長けた者が至る【ゴブリンテイマー】
ざっと見渡しただけでもこれだけの種類の上位種が生まれた。
いや。奴らは恐らく元々素養のあった者達。つまりは最後の仕上げに、やられ役のゴブリン達の命を大量にそれぞれの適応した方法で絶ち、Lvを上げて進化したのだ。
「嘘だろ?おい!G級冒険者で近接戦闘のやつを下がらせろ!急いでギルドへ行って増援を依頼しろ。そろそろ緊急招集に応じた奴らが出揃っているはずだ!」
フォルスさんが大声を上げ、G級の戦士タイプを下がらせる。
今いる80弱は呼びかけに即時対応出来た80名前後の冒険者達。多くがまだ通信が受信される宿屋を利用している低級の冒険者であり、今回のような小規模の百鬼行軍であれば経験と生きていくための小金稼ぎとして討伐隊にいち早く参加する。もちろん上級冒険者のフォローも入るため、そうそう命を落とすことはない。まさに祭でありボーナスステージ感覚のイベント
ーーーーーーのはずだった。
「これは百鬼行軍なんかじゃない百鬼狂宴だ」
フォルスさんの言葉を受け近くの上級冒険者達が頷き、周囲の冒険者に説明を入れる。そして、ここからは本気で生死を分けた戦いになる事は間違いなかった。
百鬼狂宴
ゴブリンの進化体が群の大半を締め、最早中級〜上級冒険者でなくては太刀打ちできず、仕損じれば都市が蹂躙される。
百鬼行軍とは違い、ジェネラル以上の指揮官の下、烏合の集から軍隊へと変貌する。
それぞれが役目を持って動き、余裕をかまして笑いを浮かべる者ならばその隊のリーダー格自らがそのものを処分する。
まさに軍隊である。
ゆっくりと軍となったゴブリン達が歩を進める。
右手の石を握りしめ、迫り来るゴブリン達を睨みつけた。
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