40.行進
ドンドンドン
階段をかけ上がる慌てるような足音に続き、強くドアがノックされる。
瞬間。
キハクはグレーパックウルフの姿に。
シルネは魔道具を起動し、エルフの姿から【元ギルド職員のシルネさん】の姿に変化する。
「ユウさん。ユウさん。緊急事態です」
「どうしたんだ?いったい」
「あっユウさん! よかった。(服着てた………)」「そうじゃなくてですね。宿に対し、ギルドより各拠点登録冒険者並びに周囲の冒険者への招集伝達依頼が入りました。全ての冒険者はギルドへ集合せよ。これがメッセージです。」
顔を出した瞬間に、何かとっても気になる事を小声で言った気がするがこの際気にしないでおこう。
それよりも。
「わかった。キハクと2人で向かいます。シルネ。ギルドがこういう対応を取るケースで最も考えられる事は?」
「はい。ユウ様。全階級の冒険者への通達となりますと、おそらく百鬼行進が起こったと考えられます」
「百鬼行進?」
「はい。迷宮から出てきたゴブリンと、森などに生息するゴブリンが出会い爆発的に勢力を伸ばし、近くの村や町を襲い出します。これらの場合大体が100以上の群れとなっています。そして時に数千の規模になる事も確認されていますが、今回は緊急避難の伝達を出していないので、おそらくは1000未満の群れだと推測されます。ちなみに群れが大きくなって強くなったと錯覚しているゴブリンが浮かれながら行軍してくるのでゴブリンマーチと呼ばれています!」
「ありがとうシルネ。それならば、キハクは僕とギルドへ。シルネはここを万が一の為守ってて」
『了解です〜。主様』
「わかりましたユウ様。お気をつけて」
「じゃあサラムさん。レム行ってくるね。避難命令が出たらすぐに行動してくださいね」
「あぁ行っておいで。気をつけて行くんだよ」
「ユウさんもキハクちゃんも。気をつけてくださいね」
「はい。行ってきます」
「ウゥ」
ギルドの近くへたどり着くと、そこは既に多くの冒険者達で溢れていた。
さすがにこの人数をギルド内へと入れる事はできないため、既にギルドの入口前にギルド長がスタンバイし、冒険者達が揃うのを待っていた。
「静粛に!」
ギルド長の威圧を込めた一声に、騒がしかった周囲から音が消える。
その様子を確認し、一度頷き声をあげた。
「諸君!これから夕暮れ時を迎えるというタイミングで招集をかけてすまない。よくぞ急な招集に迅速に対応してくれた。感謝する!前置きはこれくらいで良いだろう。今から1時間ほど前に東の森周辺の平地に多数のゴブリンを確認した。
数は400!今回は早期発見の為数も少なく、おそらくだがキング、ジェネラル、ナイトなどの上位種はいないと思われる!
だがしかし、十二分に気をつけてほしい君たちは優秀な冒険者だ!あちらも祭りならこちらも祭りだ!1体につき金貨1枚だ!愉快に騒ぐ馬鹿どもを殲滅せよ!」
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーー」」」」」」」」」」」
一斉に東門へと向かう冒険者達、最高Aランクの冒険者から僕らGランクの最下級までそれぞれの役割を持ってゴブリンを殲滅する。
今回参加するのはここに集まっている約80名の冒険者達。
一人5体のゴブリンという単純な計算でない。ゴブリンは群れれば群れるほど強くなる。元が非常に弱い為400程度ではそこまでにはならないが、群対群、低級であれば孤立すれば危険を伴う。
一応この後にも、緊急招集が広まり続々と冒険者が集まってくるであろうが、この規模の百鬼行進であれば第2陣を参加させる事なく収束できるだろう。
ギルドから東門を出ると、前方では既に乱戦が始まっており、敵味方入り乱れて剣を斧を振り下ろしている。
「討伐部位は取らなくて大丈夫なんですか?」
遠巻きに矢をゴブリンに射ち込む冒険者に、話しかける。
先程から淡々と弓を構え、矢を射っている彼の放つ矢は、確実に何体かのゴブリンを討伐している。
「なんだ。新人か?今回の百鬼行進は迷宮のゴブリンが引き起こしたもんなんだよ。ほら」
そう言って冒険者は、自分の冒険者カードを見せる。
ゴブリン 7体
そこには、先程から矢で留めを刺したゴブリンの討伐数が記載されていた。
「特別ですか?」
「あぁ特別だな。お前も早く参加しないと取り分少なくなるぞ」
「はい。ありがとうございます」
《そうび》
マントの下に迷宮用の装備を換装する。
群から逸れた2体のゴブリンに向かい、石を投げつける。
正確に頭を捉えた石は、容易にゴブリン達の頭蓋を破壊し膝から崩れ落ちる。
「【血桜】」
腰につけたナイフケースに手を添え名を呼ぶ。ナイフケースが一瞬にして日本刀の鞘へと変わり、準備が整う。
なるべく乱戦の場所は避けつつ孤立しないよう、鶴翼のように広がった冒険者達の端に移動する。
「ギャー ギャ」
「ギィギャー」
煩く騒ぎ立てるゴブリンは、どこか余裕の表情で乱戦を楽しんでいるかのように見える。
そのうちの2体のゴブリンの側面にまわり込み、手前のゴブリンの首を落とす。
その首が地面に落ちるのとほぼ同時に、奇襲に気付いたもう1体が石斧を振り上げこちらの懐に飛び込んできた。
「ギャーーー」
しかし、その斧が届く事はない。
僕しか見えていないゴブリンの足元に、キハクが噛み付き、勢いを殺した。
その一瞬の隙を逃さず、心臓付近を一突きにすれば、そのまま倒れこみ起き上がる事はなかった。
『主!』
血桜を深々と刺してしまった事で起きた引き抜くまでの間。
この乱戦に、切り捨てるのではなく刺し倒す事を選択したのは、間違いなく悪手だった。
引き抜いている間の無防備になった瞬間、2体のゴブリンの死角から現れたゴブリンが、短剣で襲いかかってくる。
一人ならば切られていただろう。決して死ぬ事はない攻撃だが、怪我をすれば今後の戦いを大きく左右していただろう。
しかし僕にはキハク《仲間》がいる。
一瞬にしてアーマードウルフの姿になったキハクが、その種属特性を活かし斬撃を防ぎきる。
「グルルル。ガァ『よくも主を!』」
その鋭い爪を、アーマードウルフの能力で30cmほどに伸ばし切り裂く。切り裂かれたゴブリンは左肩から右の腰にかけて5本の爪でざっくりと切られていた。
「有難うキハク!」
次々と襲いかかってくるゴブリンを、一刀のうちに斬り伏せていく。普通のゴブリン程度なら、スキルの無い低級冒険者でも十分、一太刀で倒せる。周りを見れば、どの冒険者達もあっという間にゴブリン達を斬り伏せていく。
ゴブリン達は、周りの仲間達が次々にやられて行くのにも関わらず、相変わらずのハイテンションで、その醜悪な顔をニヤつかせ、戦争ゴッコをする子供のような感じで、この場に臨んでいるようだった。
「キハク。何体たおした?」
『20位です。主様も同じくらいです?』
「うん同じくらいだね」
僕とキハクだけで既に40体。冒険者達が80名、その人数の冒険者達が各々の持ち場でゴブリンを討伐していく。
本当に400体か?明らかに多くないか?
そんな疑問が頭をよぎった瞬間。
「グラァァァアアアア」
森の中から咆哮が響き渡った。
「なんだアイツは⁈」




