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人魔のはみ出し者  作者: 生意気ナポレオン
第三章:時は過ぎ去り別れ編
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第四十三話:魔の命断つは愚者の剣

 アイゼルを出てから車はスピードをさらに上げ、背景が飛ぶように過ぎ去っていく。

 よほど村が心配なのか、ルフトの顔は青ざめ生気が無く、額からは汗が噴き出ている。

 兵士たちは依然としてこちらを不審そうな目でジロジロと見ており、雰囲気は険悪だ。そんな中、ルフトが口を開く。

「襲って来てる魔族は何族ですか?」

「それよりも、お前は……」

「何族が来てるかって言ってるんだ!」

 ルフトが凄まじい剣幕で怒鳴る。

「お、鬼族と妖精族の連合軍だよ」

 ルフトの剣幕にたじろぎ、男が答える。

「くそ、よりにもよって妖精族かっ!!」

「どうしたんだルフト、すこし落ち着け!」

「落ち着けるならそうしてる……! それで状況はどうなんだ?」

 ルフトの様子に素直に話した方が良いと思ったのか、男が流暢に喋り出す。

「奴らは周辺の町を同時に襲撃、それぞれの部隊が一部隊ずつで対処している状況だ。今から向かっている町には、北門から一斉に襲い掛かってきている。しかも運悪く近くに残党兵も居たようで、数は他の町よりも多い。今はまだ町への侵入は許していないようだが、時間の問題と言わざるを得ない……!」

「町の規模は?」

「アイゼルの二十分の一だ」

「相手戦力との差は?」

「各町によって相手戦力がまちまちだから不明瞭だが、数では俺達の方が上だが、いかんせん……」

「妖精族お得意の魔術に対抗できない、散々魔術を軽んじたつけだな」

「……その通りだ」

「鬼族と妖精族、聞いてるだけで良い何が出張ってきてるんだ?」

「鬼族で確認できているのはゴブリン、オーガ、ヴァンパイア。妖精族からは、フェアリー、サラマンデル、エルフだ」

「ゴブリンとオーガ、エルフの"自然魔術"で足留め。他の奴らで止め、ヴァンパイアは対強者への飛車角か」

「あ、ああ、そうだ」

「布陣としては実に定石(セオリー)、例え壊滅寸前でも、サラマンデルの得意とする火の魔術で焼き払えるからな。ところで、住民を避難させるとなったら何処に避難させるんだ?」

 何よりもそれが重要だと言わんばかりに、ルフトが不自然に質問を投げかける。

「そのような事態は考えたくないが、境の大山脈に避難させるしかない。あそこは天然の要塞だからな」

 その答えに矢継ぎ早に投げつけていた質問が止み、代わりにコツコツと落ち着きなく指先で叩く音が鳴る。

 直ぐに音は止み、ルフトが決心したように口を開く。

「妖精族の注意を二割でも引けたら、食い止めるぐらいはできるか?」

「アイゼルの戦士をなめるな、食い止めるどころか全滅にしてみせる!」

「上等。済まないが運転手、ここで下してくれ! イレーナ、一緒に来てくれ」

 車が停止し、ルフトがひらりと飛び降る。訳も分からぬまま、ルフトに従い車を降りる。

「逃げるのか?!」

 兵士が目を血走らせて叫ぶ。

「違う! 俺達がその役目を買って出てやる!」

「お前達二人でか!? 無理だ!」

「無理は承知だ! おい運転手! 速く行け!」

 ルフトの声に蹴とばされたように車がもうスピードで駆け、あっと言う間に姿が見えなくなる。

「何をする気だ?」

「良いか、俺は今から化け物になる。そこまでしないと妖精共をかく乱するのは不可能だ。だが、攪乱後そのままだと俺も魔族として殺される」

「私がお前を殺した事にするって事か?」

「そう言う事だ。俺は俺自身の為にお前を巻き込……」

「言うな、今まで世話になりっぱなしなんだ、これくらいどうってことない。それより時間が惜しい、全身変化は時間が掛かるんだろ?」

「その点は問題ない。変化、圧縮……"召喚:大狼"」

 ルフトがぶつぶつと呟いた途端、その背中から巨大な白き大狼が飛び出る。

「お前、全身変化したのをずっと圧縮して……?!」

「そう言う事だ、ほら、早く乗れ!」

 下げてくれた頭から背中へとよじ登る。感じる臭い、体温はまさに獣のそれ、物語に出るような獣の背中に私は居た。

「わ、分かった!」

「飛ばすぞ、しっかり捕まってろ!」

 僅かに体を後退させ、白き狼が駆ける。風を置き去りに、足跡を残して、幻想的な白を魅せ、白き大狼は只管に駆ける。

 戦場へと近づいて行く中、ゆっくりと目を瞑る。視界が黒に染まり、これ幸いと恐怖がその姿を現し、弛緩と震え、相反するものを体に同居させようとする。良く人は言う、恐怖に打ち勝つのではなく恐怖を飼いならせ、と。残念ながら、私にそんな度量の広いことは出来そうにない。出来るとしら恐怖から目を逸らし、自分を鼓舞して、危険を顧みず、狂信的に自分の無事を信じる。それこそ良く言うではないか、馬鹿と言った奴が馬鹿と、なら死なないと言った奴は死なないのだ。そんな馬鹿な考えに奔る私は、戦士にはなれそうもない、なれても戦場において生を夢見る馬鹿。それでいい、生きていれば、生きようとすれば、それだけで人は生を貫く戦士なのだから。


◆◇◆◇◆◇◆


「着いたぞ! これ以上は互いに別行動だ!」

 ゴブリンを蹴散らし、オーガを潰し、エルフを薙ぎ払い、妖精族の甲高い声がつつむ戦場を大狼は駆けていた。

「と言われても!」

 今は妖精族の部隊のど真ん中、何処に下りろと言うのか。

「俺が防いでいる内に早く!」

「そうは言われてもなぁぁ!」

 腰に下げた鞘、その装置のボタンを押し、真新しい刀身を戦場に晒す。

 訳も無く声を上げながら背中を駆け走り、飛ぶ。

 飛び降りた先に居たフェアリーに剣を突き立て、抜けなくなる前に死体を蹴って剣を抜く。

『*************』『*************』『*************』

 休む間もなく、意味が解らない言葉と共に、燕、牛、犬、様々な生物の形をした魔術が浴びせられる。

「多勢に無勢だ!」

 そう吐き捨て、足を狂ったように動かし魔術を避ける。すでに背後にあった巨大な存在感は無い、代わりに途切れていた断末魔が再開する。

 こんな所にまで攻め込まれるとは想像して無かったのだろう、妖精族は誰一人としてまともな防具は付けていなかった。

「邪魔だぁぁ! "我流:愚犬狂走"!」

 足を止めたら魔術に捕われ死ぬだけだ。狂ったように足を動かし、加速する視界の中一瞬だけ映る姿を辻斬り、白かった刀身を赤に染めていく。

『*************!!』

 目の前に現れた水の亀に剣が防がれ、自然歩みが止まる。途端、足元に火を纏った鳥が衝突し、その爆発で地面を無様に転がる。

「***********!」

 転がった私の視界に幾つもの、生物が飛来してくるのが分かる、立ち上がって走ったのでは当然間に合わない。

[我が手に一瞬の煌きを"火花手(デトナ・プラウゾ)"!]

 体が砕けそうな衝撃、当然だどれだけの至近距離で爆発してと思っているのだ。何が楽しいか、再び地面を転がりついでと言わんばかりに妖精族を巻き込んでいく。

 勢いが弱まったのを見て、無理矢理体を立ち上げ、足の動きを再開。

 周囲には魔術の巻き込みを恐れ、妖精族はおらず、四方八方取り囲まれ……と言うか、最初から囲まれている。

「イレーナ! 掴まれ!」

「了っ解!」

 視界に端に見えた白に、勘だけで飛び毛を掴む、襲い掛かる風その他諸々にすぐに手が離れかけるが、蛇の尾が体を持ち上げられ事なきを得る。

「もう終わりか!?」

「なわけ無いだろ! クッションやるから、もう一回行って来い!」

 その声と共に凄まじい遠心力を掛かり蛇の尾が切れ、蛇の尾が巻き付いたまま妖精族の一団へと放り投げられる。

 妖精族と溶けつつある蛇の尾をクッションにしながら、地面に不時着する。

「まだ、生きてるよな私ぃぃ!」

 三度目となる狂走と辻斬り、生ぬるい血が体に浴びせられ、度々魔術が体を掠る。

 がむしゃらに走る先、ゴブリンの姿があるのが見える。魔術部隊の異常に前線から出張って来たらしい。

「"我流:愚犬猛追"!」

 勢いを乗せ剣を振り下ろす、単調な軌道だ元より弾かれるのは覚悟の上! 

 意識は疲労でもはや朦朧、ただただ無意識に剣の軌道を決め、質より量で攻めるのみ!

『***!』

 手に感じる確かな手ごたえ、肉を裂き内臓に突き刺さる、気味の悪い感触。それを振り払うように、ゴブリンの一団へと突っ込む。

『******』『*******』

 幾らゴブリンと言えど、一団に突っ込めば九割は死ぬ。しかし、ルフトが暴れまわっているお陰で今は恐慌状態、冷静な判断が出来ておらず、正面から突っ込んだと言うのに、私の背後妖精族の中心で暴れまわっているルフトを見て叫んでいる。

「あぁぁぁ!!」

 片っ端から、腕を断ち、胴体を裂き、首を落としていく。目の前から発せられる叫びに、ようやく目の前の死にゴブリン共が気が付く。

「遅い!」

 今度は闇雲に剣で薙ぐことなく、勢いのままゴブリンを蹴り飛ばす。密集していた所為で、ドミノ倒し形式に体勢が崩れていく。

[煙火放つは我が火の導き"火線(ラッゾ・ヴィアーリオ)"!]

 指を指した先に足元から導火線を付けた様に火の線が走る。倒れたゴブリンに火が付き、再び周囲は恐慌状態。その内に背を向け後退する、これ以上突っ込んだら死ぬのは間違いない。


「ひゅー……はー……」

 戦場の高揚で無理やり押し付けていた疲労が、もう耐えかねたと顔をだす。あれから逃げ続けた足は止まり、立っているのも難しく、肺の痛みは限界に達し、呼吸音が五月蠅い。

 視界には妖精族が此方に気付き、口を開こうとしているのがゆっくりと見える。今までの数々の事が思い返される様な気がしたが、不吉なので思考放棄。まだまだ私は死にたくない。

 赤い牛がそれこそ猛烈な速さで突進してくる。あと一秒も無く衝突だ、避ける事は叶わない、なら!

「はぁ!」

 タイミングを合わせ、剣を振りかぶる。無駄だとは思っていた、炎を相手に剣を振りかぶったところでそう思っていた、ルフトに会うまでは。

 ルフトはかつて言っていた「魔族の使う"概念魔術"は"概念"に縛られる」とならば、生物を模したあの炎なら、命を宿したあの炎なら


 ――殺せる!


「ぐもぉぉぉ!」

 牛の断末魔が耳を貫き、炎が僅かに肌と髪を焼く。

『************!!』

 今まではこちらを嘲笑っていた妖精の顔に焦りが生まれる。当然だ、人間はこちらの魔術の常識に捕われ、未だかつて魔術を防ぐことはあっても攻撃した者は居なかったのだから。

 先程の倍以上大きさの炎牛、だからどうした! 牛は牛! 

「喰らうかぁ!」

 脳天を貫き、牛は再び淡い炎へと姿を変える。思わず顔に笑み浮かべるが、それも一瞬妖精族が五人集まり、一斉に魔術を放つ。

 燕、牛、犬、蜥蜴、蛙。統一性のないラインナップが、襲い掛かってくる。そのラインナップに、白の狼が追加される。

「イレーナ!」

「ルフト!」

 魔術の群れと一馬身差つけてルフトが向かってくる、白い毛が蛇の尾と変わり体に巻き付き背中へと乗せる。

「ナイスタイミング!」

「あたぼうよ!」

 お互い大声で叫び合い、戦場において狂った様な笑い声をあげる、他者を殺してでも生ある今は何よりもうれしい。

「それより、見ろ!」

「アイゼル軍が押してる!?」

「ああ、あの兵士の言ってた通りだ! 二割引付けたら本当に、押し切ろうとしてやがる!」

「よし……よし!」

「おっと、イレーナ悪いがまだやる事はある!」

「なんだ!」

「本拠地にヴァンパイアが紛れ込んでる! それも隊長がいる作戦会議室にだ!」

「何!?」

 それが本当ならば、もし隊長でも殺されようものなら、被害はそれだけに留まらず、最悪押し返される可能性がある! 

「奴ら見かけは人間そっくりだからな!」

「なんでそんなこと分るんだ!?」

「ゴブリン共が嬉しそうに話してやがった! 所詮人間に分かるはずないって高をくくってっやがったからな」

「どうするんだ!」

「阻止する! お前がな!」

「ちょっと待て、この姿で行ったら……」

「分かってる! けど、しょうがないだろ! 後の事は考えるな、一気に行くぞ!」

 返事をする間もなく、ルフトが一気に加速、戦場を駆け戻り、毛の隙間から僅かに覘く城門へと向かって行く。

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