第四十四話:文武両道
奇跡の三日連続更新!
「頼む、どいてくれぇぇぇ!!」
巨大な狼が人間の言葉を話すその光景に唖然としてる兵士の顔がちらちらと見える。
「くそっ! 騒動が大きくなりやがった! あとはお前で頼む!」
「了解!」
ルフトから飛び降り、近くに居た兵士に声を掛ける。
「おい! 作戦会議室は何処だ!」
「あ、あんた、あの……」
「早く教えろ! ヴァ……んん゛!」
危ない所だった、ここでヴァンパイアが紛れ込んでるなどと言おうものなら、パニックは必至。それだけは防がないといけない、すでに遅い様な気もするが。
「あ、あっちだ」
返事もせず指差された建物の方へへ少しはましになった足を動かす。中々近寄ってこない建物が酷くもどかしい、くそっ!
「大丈夫か!!」
「騒々しいぞ! ……誰だお主? 此処は女子供が来る場所では無いぞ」
「話を聞いてくれ、今この場にヴァンパイアが紛れ込んでいる!」
「何を言っておるのやら、のう?」
「そうそう、何を言いだすと思いきや」「これだから女は」「まったく、狂言を言う場を弁えろ!」
「信じないならそれでもいい! 私を追い出す前に、それぞれ名前を教えてもらいたい!」
「何を言いだすかと思いきや……もうよい、衛兵」
一番偉そうな人物が首を動かし、衛兵を此方に向かわせてくる。この朴念仁どもが!
「良いから! 名前を教えろと言っているんだ!」
「衛兵早くつまみだ……」
「話を……聞けと言ってるんだ!」
近寄って来た衛兵を峰打ちで吹き飛ばす、その体で簡素な机が割れ、物が砕ける音が騒々しく響く。
「ふむぅ……気が済むなら言ってやろう、儂の名前はホウルだ」
「次!」
「偉そうに……! ドルグだ!」
「次はお前!」
「…………」
何も言わない、という事は!
「どうした名前を言って貰おうか?」
剣を喉元に突き付ける、周囲の馬鹿がどよめくがどうでもいい。
「…………」
男は答えず歯軋りをするのみ。
「どうした早く名前を言えい。その女に殺されてしまうぞ」
「言えないんだろう、お前はこっちの言葉は喋れないんだからな! ヴァンパ……」
『***********!』
「「「なっ!」」」
明らかな魔界の言語を叫び、ヴァンパイアは後ろへ飛ぶ。余りの動きの速さに、目で追う事が出来ない。
「早く逃げろ!」
「馬鹿言うな、儂達とて戦える!」
「他に侵入したヴァンパイアがいるんだっ!」
喋りながら、壁を跳ね襲い掛かってくるヴァンパイアを何とか退ける。相手の獲物が短剣で助かった。
「何ぃ! ぬぬぬ……分かった! 無事でおれよ!」
『**************!!』
「行かせるか!」
追おうとするヴァンパイア前に立ちふさがる。すると、ヴァンパイアは変化の魔術が解き、その青白い顔を露わにする。どうやら、私を始末してから追う事にしたらしい。
「来いよ、蝙蝠!」
相手を挑発し、自分の気が昂らせる。体の隅々まで神経を行き渡らせ、相手の一挙一動に注目する。
『ひゅっ!』
ヴァンパイアが短い息吹と共に跳躍。それを認識しても、体は中々反応してくれない。それでも何とか回避は出来たのか、肩の革鎧が剥げる程度で済む。
避けたのを認識した瞬間、ヴァンパイアは屋根を跳躍、背中が浅く削られ、引き攣ったような痛みが奔る。
「このっ!」
背中を慌てて薙ぐが、すでにヴァンパイアは後ろに跳び、剣の範囲を逃れている。
完全なヒット&アウェイ。その後も成す術も無く徐々に徐々に、体内から血液が、心からは気力が失われていった。対してヴァンパイアは、短剣に残る血をすすり、より力が漲っている。
「はぁ……はぁ……」
出血の所為で意識が朦朧となる意識を必死に繋ぎ止め、打開策を練る。
良く考えてみろ、あいつは完全に遊んでいる。やろうと思えば、短剣などより範囲の広い魔術を放てたはずだ。なにせヴァンパイアの特徴は他者の血液による魔力回復だ、どれだけ魔力が尽き果てていようとも、もうある程度は回復しているのだ。油断して遊んでいる今が好機、玩具はいつ飽きられるか分からない、攻めるなら今しかないのだ。だがどうやって? 仮に不意打ちが出来たとしても、一太刀だけで奴を殺せるとは思えない。となれば二の太刀、三の太刀と重ねるしかない、幾ら不意打ちでもそこまでやるのは……不可能。
どんなに考えても、結論は常に不可能の三文字。魔臓欠陥さえなければ、魔術が自由に使えれば……!
――魔術? ちょっと待て、無意識にもう何発ともたない自分の魔力を度外視していたが、これを上手く使えばこの状況を覆すことは出来ないか? 一括りに魔術と言えど、その威力は攻城戦級から日常使うレベルまでピンキリだ。魔術と剣術、二つの術を組み合わせてはならないと、文と武、二つの道を重ねて行けないなどと誰が言った? むしろ、古くから推し進められていたぐらいではないか――
文武両道、と。
長い時間思考していたが、現実には一秒も立っていないらしい。意識はさきほどよりかなり明瞭、希望があれば未来も視界も明るくなる。
善は急げ、急がば回れ、二つの相反する諺があるが、この場合回り道をなどしていれば、途中で失血死だ。だから前者の諺を採用する事にする。
割れた机の隙間に足を入れ、蹴りあげてちゃぶ台ならぬ机返しで視界を塞ぐ。何時ものならここで走り出しすのだが、今日はひと手間加える。
[木の葉と舞うは風に魅入られし子"浮風"]
出来るだけ早口で詠唱する。本来なら重い荷物運搬用の小学生が覚えるレベルの魔術。今回私が運ぶ荷物は他ならぬ私自身――の上半身。上半身を地面すれすれに落とし、ここでやっと疾走を開始する。浮風により上半身が支えられたことにより、まるで超低空を滑空する燕の様に地面を走る。
目隠しの机が逆に吹き飛ばされ頭上を通過する、破片が頭に降り注ぎ僅かに痛い。
まぁお前には死ぬほどの苦痛を刻んでやるがな。
「"我流:燕尾斬"!」
燕は急上昇し、ヴァンパイアの胸を縦一文字に切り裂く。血が傷口から迸り、浮風の効力が切れる。
[剛健な体に重みあれ"鍛重"]
これまた本来なら体を鍛える程度の重力付加魔術。それをなるべく剣先に掛かるようする、後は重みに任せるだけ!
「"我流:川蝉落刃"!」
さすがに持ち直したのか、短剣を手から弾かれつつもこちらの一撃を防ぎ、そのまま、後ろへ跳ぶ。剣の範囲から跳び去ってしまう。
だが私は知っている、短い短剣を深々と突き刺す技を、剣を弾き飛ばし範囲を無理やり延ばす殺人技を!
[我が手に一瞬の煌きを"火花手"!]
剣の柄に手を当て唱える。爆発が剣を、反動が私を吹き飛ばす。剣は一直線に空を貫き、気味の悪い笑みを浮かべた蝙蝠を突き刺し、壁に貼り付ける!
「"殺人者の刺突剣"……なんてな」
反動で壁に打ち付けられた衝撃で指一本動かせそうにない。衝撃が抜けても、気が抜けて動けそうにない。
「はっはははは……!」
自然と笑い声が零れる。本日二度目の臨死体験ならぬ瀕死体験、もうこれ以上は無いだろう、と思った矢先。
とっくに壊れていたドアが開き、青白い顔が覗く。二度ある事は三度ある、そんな言葉を思い出す。
「イレーナ! 大丈夫か!」
青白い顔の主が僅かに目を潤ませながら駆け寄ってくる。顔からは生気は無く、額には汗がびっしり浮かんでいる。
「ルフト……」
「よしっ! よし……! 衛生兵!」
「はい!」
タンカを持った兵士が足早に近寄り私を乗せる。良く考えれば、倒せても出血は止まらないのだ、そう気付くと途端自分の体が冷たくなっていくような気がする、視界がぐにゃりと崩れ、目の前が暗くなる。
「あ……あ……」
意味も無く口を動かし、私の意識は消えた。




