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プロローグ
「春人さん」
穏やかな午後の商店街で、そう彼の名前を呼んだのは小柄な可愛らしい女性だった。春色の着物を着て、春人さんの隣に立つ彼女は小鳥のようだ。人混みを突き抜けて聞こえてきたのは名前だけで、後はなんと言っているのか聞こえない。二人は並んで楽しそうに店先の髪飾りを見ていて、端的に言って幸せそうだ。
変わらず穏やかな彼の笑顔は、そのまま絵に出来そうな程に美しい。さざなみのような人の声の中、私は数瞬見惚れてしまった。けれど商店街の賑わいが私を正気に戻し、踵を返す。
いつかも彼の長い髪は静かに風に靡いていたなとか、あのように柔らかい笑みを浮かべていたなとか思い出しては、その度に私は足を速めた。私はもう完全にお邪魔虫だ。もう「春人さん」と名前を呼ぶことは出来ない。あの女性は、どこからどう見ても彼の妻に違いなかった。




