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やがて重厚な扉の一室の前まできた。彼女はノックをすると、中から返事が聞こえた。
シャルロットは無言で扉を開ける。
するとそこには、一人の女性がベッドで横になっていた。
そしてその腕に抱かれていたのは――。
「二番のローズ姉さまよ」
彼女の紹介を聞かずとも、姉妹だとすぐにわかった。シャルロットに横顔がすごく似ているからだ。
「姉さま、紹介するわ。イザーク・カロン侯爵よ」
「まあ、妹がいつもお世話になっています」
姉さまと呼ばれた女性はペコリと頭を下げる。
「その子供は――」
彼女の腕に抱かれていたのは小さな赤ん坊だった。
「姉さま、子供が産まれたの。昨日からずっと付きっきりで、すぐに顔を出すことができなくて、ごめんなさいね」
「辛くて長い時間だったけど、やっとこの子に会えたわ。シャルロットのおかげよ」
彼女は腕の中で眠る赤ん坊を大事そうにギュッと抱きかかえた。
「イザークが魔物討伐に行っている間、姉さまから手紙をもらったの。もうすぐ産まれそうだって。でも、逆子で難産になりそうだって知って、私も心配でたまらなかったの。それに両親もちょうど視察に行く時期だったから、その間に産気づいたらどうしよう、って」
「来てくれてありがとう、シャルロット。あなたのおかげでなんとか助かったわ」
「いいえ、姉さまこそ、よく頑張ったわね」
シャルロットはふわりと微笑んだ。
「イザーク様、シャルロットを寄こしてくださって、本当にありがとうございました。私が無事にこの子を産めたのも、シャルロットの力があったからです」
そうか、シャルロットの癒しの力が、出産の助けになったのだろう。
その後、出産後に気を遣わせてはいけないと、早々に退室した。
そして客間に戻ってきて、ソファに並んで座る。
「これで私が南部に戻っていた理由がわかったかしら?」
「ああ」
「逆子だというし、両親も不在だし、万が一のことがあったら、どうしようと考えていたら不安でたまらなくて。姉さまについていてあげたかったの」
優しいシャルロットのことだから、責める気にはならない。
「でも、どうして北部の皆も私からの手紙はなかったと、言ったのかしら。ちゃんと事情を説明したはずだけど」
シャルロットが、納得のいかない表情を浮かべていると、視線を感じた。
フッと顔を上げると、少し開いた扉の隙間から顔を出していた人物と目が合った。
「ロゼール」
「わ、イザーク様、失礼しました。ノックをしたのですが……」
モゴモゴと口ごもる様子は違和感がある。
「ロゼール」
目を細めて名前を呼ぶと、背筋を正す。
「はい、いかなる罰も受けます! 申し訳ございませんでした」
ロゼールはその場で深々と頭を下げた。
「……ちょっと、待っててくれ」
ソファからスッと立ち上がると、ロゼールの首根っこをつかんだ。
「お前には話がある。ゆっくりと聞こうか」
屋敷内で騒ぐわけにはいかないと、庭園に連れ出した。
***
刈られた芝と花の香りのする庭園まで来ると、ロゼールの首をつかんでいた手をパッと放した。
「……で、説明してもらおうか」
腕を組み、ジロリとにらむとロゼールは背筋を正した。
「すみません、本当は知っていたんです。シャルロット様が姉上の出産の手伝いに南部に戻ったことを」
「――なぜ黙っていた」
低い声で問い詰めると、ロゼールは白状し始めた。
「イザーク様とシャルロット様の仲がちっとも進展しないので、一芝居打ちました! 申し訳ありませんでした!!」
ロゼールは深々と頭を下げた。
「いや、もう。イザーク様が少年の初恋のような甘酸っぱい行動を見せるものでして、見ている方がはがゆくて! お二人は夫婦であるのに、いつまでも初々しくて! 我々としても、どうにかしてイザーク様がシャルロット様のお気持ちをガシッとつかんで欲しいと日々願っておりました!」
「……」
「だって、シャルロット様、魔石を採掘できるようになって『自分の役目は終わった』みたいな態度を時折見せるものでして、我々も不安だったのです。ここはイザーク様がしっかりシャルロット様をつかまえていてくださらないと! あんなに素晴らしい方は他にいないですよ! 踊り子なんかに心を奪われているひまはありません!」
「誰が心を奪われたというんだ……! 俺じゃない、お前だろう」
「あっ、そうでしたね」
熱弁するロゼールに耳を傾けた。
「ですが、これでイザーク様はシャルロット様に対する気持ちを再確認するはずだと」
「――この件を知っているのは他に誰がいる」
「あ、北部の屋敷にいる皆です。南部についてきた部下は俺以外、知りません」
皆でグルか!
「……帰ったら覚えておけ。三か月の減給だな」
「そんなぁ」
「足りないか? では六ヶ月にするか」
「無慈悲です!」
無慈悲もくそもあるか。俺がどれだけ悩んだと思っている。
シャルロットに愛想をつかされたのかと、自問自答した時間をかえしてくれ。




