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そして食事をいただきゆっくりとしていたら、すぐに夜になった。いつも以上に入浴に時間をかけ、気持ちを落ち着かせた。
眠る前に本でも読もうとしていると、扉がノックされた。
「どうぞ」
声を出すと顔を出したのはイザークだった。彼もまた、湯上りなのか、シャツ一枚のラフな格好だった。
「今、少しいいか?」
イザークは話しながら、手にしていた包みを私に差し出した。
「洞窟で採掘された結晶だ。見たがっていただろう?」
私はうなずくとイザークに近寄った。手の中の布を広げると、結晶がコロンと二つ出てきた。
「まあ、素晴らしく純度が高いですね」
興奮した声を出す私にイザークは手に取るように目で促した。
ランプの灯りに照らすと、より一層、きらきらと輝く。
「このままでも高値がつくでしょう。ですがもう一つ、案があります。見ててくださいね」
私はイザークから少し距離を取り、結晶に手をかざした。目を閉じて念じると、手のひらが熱くなった。
「はい、これでどうでしょうか?」
本来なら透明の結晶が、私の手の中で紫に変わる。
色の変化にイザークは驚いたようだ。
「結晶に治癒の魔力を込めたので、魔力結晶となります」
口で説明するより、実際に体験してもらった方が早い。イザークの腕をつかむと、シャツのボタンに手を伸ばす。
「な、なにを……」
いきなり脱がしにかかった私に、イザークは目を白黒させている。
「脱いでください。私が眠っている間、稽古でケガした箇所があるでしょう?」
ボタンを全部外し、勢いよくシャツを左右に開けると、たくましい胸が現れた。
「な、な、な!!」
イザークは真っ赤になってうろたえている。私が傷を探して胸をさすると、イザークは体をビクンと震わせたと思ったら、後方に飛び跳ねた。
「じ、自分でやる!!」
イザークはシャツの胸元を両手で隠している。どこかの乙女のような反応だ。
やがてイザークは腕の一か所を指さした。稽古の時、打撲したらしい。
私はそこに魔力結晶を当てる。周囲はまばゆい光に包まれた。
「――痛くない」
不思議そうに腕を見るイザークに、魔力結晶の使い道を実演できてよかった。
「魔力結晶は魔力を注ぐたびに、生き返ります。それでも使いすぎたり、純度が悪いとすぐに壊れてしまいますが、ここの結晶なら大丈夫でしょう」
何百年と眠っていた結晶、その力はすさまじいものだろう。
「あと、ここに癒しの力とは別に、私が洞窟で使用した風のような、攻撃の魔力も注入できます」
イザークがテーブルに置いた結晶に再び、手のひらをかざす。今度は緑色に変わる。
「こちらは風の力を込めました。今後、魔物と戦うときも、遠くから投げて先制攻撃するとよいでしょう。接近戦を防ぐことができるはずです」
「ここに魔力を入れるのは、かなり大変なんじゃないか」
「これほど純度が高ければ、直接治療するよりも、注入したほうが負担は少ないです。それに少しの魔力で済みます」
世の中には私みたいに魔力を持っている人間が、少ないながらもいる。多くは魔道具にかかわる仕事をして生計を立てている。私以外に、北部にもいるはずだ。
「これで、北部の暮らしはグッと楽になるはず」
「あんたは――」
イザークはグッと言葉を飲み込んだ。心なしか、頬が赤く、目は潤んでいるように見えた。
私は魔力結晶をテーブルの上にそっと置くと、イザークと向き合った。
彼の両手を取り、ギュッと握りしめた。
「あまり採掘しすぎるのも価値が下がるから、そこも含めて管理はカロン家で」
こんなこと、イザークは言われなくともわかっているはずだ。
「ありがとう、シャルロット」
イザークもまた、私の手を強く握りしめた。
ああ、もう大丈夫だわ。彼とは今回の件を通して、絆ができたと思う。
「俺は――」
「あのね、私、南部に帰ろうと思うの」
なにかを言いかけたイザークと被ってしまった。イザークは目を見開き、私を見つめる。




