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この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

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 翌日はすっかり元気だった。ウォルクの街へ行き、食堂へ顔を出したかったがイザークが渋る。


「しばらく部屋で過ごしているように」


 しばらくって、いつまで?


「大げさです」


 たんに湯あたりだったし、セレナの診察だって受けたじゃない。それなのに私の行動を制限する必要がどこにあるの。


「だって暇なんですもの」


 納得できずにむくれていると、イザークはため息をつく。


「わかった。時間が潰せるように、なにか考える」


 どうしてここまで心配するのかしら。私の視線からイザークは察したのか、肩をすくめた。


「今度、俺の見ていないところで倒れてしまったらと思うと――」

「私はそんなに体が弱いわけじゃないですわ」


 スッと立ち上がり、イザークの前に立つ。


「熱だってありませんし、どこも痛くないですし」


 胸を張って主張するとイザークは視線を逸らし、たじろぐ。


「だが、そんなに細い腕でなにかあったら困るだろう」

「そうですか? そんなに細くもないですよ」


 袖をまくり上げて二の腕をチラリと見せる。


「な、なにをしている! 隠せ!」


 イザークの顔は一瞬にして赤くなり、しどろもどろになる。


「意外に力持ちですよ、私」


 イザークに腕を見せつけグイグイ近づくと、彼は唇を噛みしめ後退する。その視線は決して私を見ようとはしない。


「わ、わかったから、腕をしまってくれ」


 イザークは降参と言わんばかりに、両手を上げた。


「それにそんなに近づかないでくれ。甘ったるい匂いをさせて」

「甘ったるい?」


 私は自分の腕に鼻を近づけ、クンクンと嗅いだ。


「もしかして私、匂いますか……?」


 無臭だと思っているけれど、自分のことはわからないもの。勇気を出して聞いてみる。


 だがイザークは唇をクッと噛みしめ、言葉に詰まる。その頬は赤い。


「と、とにかく!! 数日は大人しくしていること。あとから時間を潰せるよう、考える」


 イザークは吐き捨てると、そそくさと退室した。


「ドリー。正直に答えてちょうだい。私って、どんな匂いがするの?」

「花のような優しく甘い香りですわ」


 匂いのことなど初めて言われたので戸惑う。


「イザーク様、周囲には汗臭い男しか、いなかったのでしょう。だから髪につけた香油の香りなど、馴染みがないのかもしれませんね」


 普段嗅ぎ慣れないから、気に障るのかしら。

 ともあれ、数日間は部屋に閉じこもっていることになりそうだ。


「ロゼールを呼んで参りますわ。あと、本も探してきます」

「助かるわ」


 しばらくはロゼールに食堂の件はお願いすることにし、部屋で大人しく過ごすことにした。

 

 ***


 そして数日が経った。


 部屋で時間を潰すことにも飽きたので、ドリーを連れて屋敷内を歩くことにした。イザークは屋敷内なら好きにしていいと言っていたし、ちょうどいい運動になるだろう。


 ドリーと連れ立っていると、どこからかかけ声が聞こえてきたので、私とドリーは顔を見合わせた。


 声の聞こえる方へ足を向けることにし、階段を登った先は円形状の競技場だった。座席がずらりと並び、下では騎士たちが訓練に励んでいる。座って観戦することもできた。


「この声だったのね」


 騎士たちは魔物たちとの戦いに備え、日々訓練しているのだろう。剣のぶつかり合う音が聞こえる。


 ドリーと少し見学することにし、そっと腰を下ろした。


 それにしてもすごい迫力だ。体格のいい男性がテキパキと動き、剣を受け止めている。ドリーも食い入るように見つめている。


 そしてひときわ、目立つ存在がある。


 銀の髪が輝き、動きに無駄がない。剣で相手を軽くなぎ倒している。苦悩の表情を浮かべる相手と比べて、イザークは冷静だ。


 剣を静かに受け止め、一瞬の隙をついてなぎ払う。


「すごいわ」


 侯爵家のイザークがみずから総指揮官を務めている。それだけ北部を魔物から守りたいという思いが強いのだろう。


 イザークは額に流れる汗を腕でグイッと拭き取った。


 こうやって遠目でも思うけど、やっぱりかっこいいのよね。私とは距離がある関係だけど、ここ最近では少し近づいたわ。そう嫌われていないのかしら。だったらいいのだけれど……。


 まあ、仲良くなるに越したことはないわよね。


 イザークは自由を望んでいるようだけど、この結婚は王命だ。


 彼の望み通り、早く解放してあげられたらな……。


 その時、視線を感じたのか、イザークがパッと振り返った。


 その瞬間、目が合った。


 彼は少し口を開け、遠目でわかるほど、動揺を見せた。

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