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部屋に運ばれてきた朝食を摂り終えるとノック音が聞こえた。
ドリーが対応し、ロゼールが顔を出した。
「ロゼール。おはよう」
「おはようございます、シャルロット様」
彼は深々と頭を下げた。
「今日、あなたに食堂の件をお願いしたいの。私も街へ行く予定だったのだけど、今はちょっとね……」
肩をすくめると、それだけでロゼールは察したようだ。
「承知いたしました。なんなりとお申し付けください」
それから私はロゼールに指示を出し、街へ送り出した。
午後、まったりしていると再度ノックがされた。
応対したドリーが困惑した表情で戻ってきた。
「シャルロット様、医師の診察だそうです」
「ええっ?」
驚いて顔を向けると、そこには私より少し年上、二十代半ばくらいの女性が立っていた。
「はじめまして、奥様。私、セレナ・アルケミアと申します。どうぞ、セレナとお呼びください」
礼儀正しく頭を下げたセレナは祖父の代から、カロン侯爵家に仕えていると言った。
「昨日、湯あたりをしたとのことで、どこか他に具合が悪くないかなど、ひととおり診察してほしいとイザーク様から言われています」
「そんな、大げさよ」
苦笑してしまう。
「南部と北部では気候が違いますから、体調を崩すことも珍しいことではありません。生活習慣も違いますし、慣れるまでは精神的な苦労もあるでしょうから。なんなりとお申し付けください」
優しい口調でセレナは親身に説いた。
「ありがとう」
「それこそ、イザーク様もすごく心配なされていました」
ちょっと心配性じゃないかしら。医師まで呼ぶなんて。クスクスと笑った。
「いつもは私、騎士団の方たちの診察が多いのです。やれ、稽古でケガをしただの、どこを切っただの、ぶつけただの‼ 本当、むさくるしい男たちばかり診ていたので、シャルロット様みたいな美しい方を診られて本当に幸せです」
素直な本音を聞き、口に手を当てて笑ってしまう。
「さすが、南部のセバスティア家の秘宝と呼ばれる高貴なお方なだけあり、笑い声も可愛らしい。騎士団の男たちはガサツでむさくるしいだけですからね」
ずけずけとした言い方だが、仲が良いのだと思えた。
そこからセレナは一通り話を聞き、カルテに書き込んだ。
「はい、では、体調は特に気になる点はない、でよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ」
「イザーク様はとても心配していらしたので、結果を聞いたら安心なさるでしょう」
「彼が?」
どうしてそこまで心配するのかしら。
本当は私、どこか悪いのかな?
あまりにも心配されているので、逆に不安になってくる。
「違うのですよ」
セレナはふふふと笑う。
「ご自身の体も健康、騎士団でも男に囲まれてばかり。女性に不慣れだから、ささいなことでも過剰に心配になるのだと思います」
ドリーも同じことを言っていた。女慣れしていない、と。
次にセレナは重大な発言をした。
「愛されている証拠ですわね」
「えっ?」
驚いて思わず聞き返してしまった。
セレナはニコニコと笑っている。
だが初夜を拒否された身としてはなんとも言えない。あいまいに首を傾げた。
「イザーク様とは長い付き合いですが、女性との噂など耳にしたことがありませんもの。そればかりか、いつも側にいるのは騎士団の男たちばかり! むさくるしいったら、ありゃしない」
セレナは嫌そうに顔をゆがめた。
「だから、シャルロット様を大事にできるのか不安でしたが、大丈夫そうですね。イザーク様の様子を見て、安心しました」
聞けばセレナはイザークとは幼なじみの関係でもあると言う。だからこそ、気安いのだろう。
「妖精のように可憐なシャルロット様と、騎士団の筋肉ダルマ野郎どもとは違うと、ようやく思い知ったのでしょうね」
セレナは私の手をガシッと握りしめた。
「イザーク様は不器用なところもありますが、優しい方です。きっと大切にしてくださると思います」
「ええ、感じているわ」
思えば、ここ数日はとても気遣ってくれている。
「男ばかりでしたので、気の利いたことも言えず、察する能力も低いとは思いますが――」
「……聞こえているぞ」
低い声が響いた扉の方へ顔を向ける。そこには腕を組み、突っ立っているイザークがいた。




