表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!  作者: 夏目みや
第三章 近づく距離

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/73

28

 心地の良い、甘く優しい香りがする。

 これは南部にいた頃、部屋に飾っていた花の香りによく似ているわ。


 瞼を開けると、天使の描かれた天井画が視界に入る。


 ここは私に与えられた部屋だ。


 部屋はほんのりと明るくなりかけているが、今は何時頃だろう。

 窓から入り込む光を視界に入れた時、ハッと気づく。


 私、昨日、お湯を浴びて――。


 そこから先の記憶がない。


 いてもたってもいられず、ベッドから跳ね起きた。


 手触りのよい夜着を着ていることにホッとした。


 でも待って……。


 私は昨日イザークと一緒に湯を浴びて、途中で熱くて湯あたりをして、イザークに支えられた。

 肌と肌が密着していることに強く意識してしまい、顔がカーッと熱くなったんだ。

 そこで倒れてしまったのかしら。


「最悪だわ……」


 再びベッドに倒れ込み、枕に顔を突っ伏した。

 あれからイザークはどうしたのだろう。意識を失った私を抱きかかえたのだろうか?


 そこではたと気づく。

 誰が着替えさせたのだろう? まさかイザークなの?


 そこに考えつくともう、羞恥でいてもたってもいられなくなる。


 恥ずかしくて枕から顔を上げられないでいると、扉がノックされた。


 きっとドリーが来たのだろう。

 枕に顔を埋めたまま、くぐもった声で返答した。


 扉が開く音がして人の気配を感じる。おずおずと顔をあげるのと同時だった。


 紫に輝く瞳と視線がかち合ったのは――。


「まだ気分が悪いのか?」


 そこにいたのはイザークだった。

 思いもよらない相手の出現で心臓がドクンと跳ねた。


 私、心の準備ができていないのに!


「き、昨日はお騒がせしました」

「――いや。あそこは湯あたりしやすいんだ。つい話し込んでしまって。俺にも原因がある」


 意外なことに彼は責任を感じているようだった。あなたのせいではないのに。

 私は意を決してゴクリと喉を鳴らす。


「起きたら着替えていたのですが、誰が着替えさせてくれたのでしょうか」


 イザークの目をジッと見つめる。


「な……」


 言葉の意味を理解したのか、みるみるうちにイザークの顔が真っ赤になる。


「俺じゃない! あのメイドだから安心しろ!」


 この慌てよう、嘘ではないだろうと思い、ホッとする。


「そんな具合の悪い相手に、どうこうするわけないだろう!」


 こうも否定されると構ってみたくなるというか、ちょっといたずら心がムクムクとわく。


「別に着替えさせてくださっても良かったのですよ?」

「なっ……!」


 イザークは耳まで熱を帯び、湯気でも立ちそうなほどだ。

 視線は落ち着きなく揺れ、指先はそわそわしている。


「私もあなたの胸の傷を見ましたし、お互いさまです」


 ニコッと笑って告げるとイザークはウッと言葉に詰まったのち、叫んだ。


「バ、バカか! そんなことを口にするな!」


 この人、考えていることが割と顔に出やすい人かもしれない。

 それに、こうやって早朝から様子を見に来てくれるなんて、優しいんじゃないかしら。

 新しい一面を知った気がして嬉しい。


「うふふ。冗談ですよ」


 微笑むとイザークは首の後ろに手を当て、視線を逸らした。


「でも、本当にありがとうございます」


 彼がいなかったら、そのまま湯に沈んでいたかもしれない。

 イザークは私の言葉を素直に受け止めると、小さくうなずいた。


「俺も――悪かったよ」


 え? 今、なんて?


 不思議な言葉が聞こえたので、目をパチパチと瞬かせた。


 彼はまだなにかを言いたそうだったので、ベッド脇にあった椅子を勧めた。イザークは遠慮がちに腰を掛けると、ぽつりとつぶやく。


「配慮が足りなかった」

「と、申しますと……?」

「いろいろと」


 彼は一人で思うところがあったみたいだが、圧倒的に言葉が足りない。


「あんたは南部から来て、ここに馴染もうと努力しているんだと思った」

「……」

「湯あたりして倒れた時、支えた体があまりにも華奢で驚いた」

「……」

「きっとあんたも望んで北部にきたわけではないのに。……今まで八つ当たりして悪かったよ」


 正直、意外に思った。


 あれだけツンツンした態度だったイザークは私に対する態度を軟化させてきたのだから。


 うなだれた子犬のように見え、思わず笑いそうになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ