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異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第一章 始まりの夏、TSロリなひいじいさんと

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第五話 幼な月、双つ 3/7

 やがて到着したトイレの前で、俺は優一と話し合っていた。

 ここまで来れば、俺も一旦落ち着いていた。優一は言うに及ばず。


「念のため確認するけど、トイレの使い方はもう大丈夫だよね?」

「おう、完全に覚えたぜ。ウォシュレットまで含めて、ばっちりさ」


 うん、まあ、覚える過程で例によって、便所……というか便器を相手に、世代間格差を叩きつけられたのはいい思い出だよ。


 水洗ってだけでも驚きだったのに、ボタン一つで水が流れるし、尻を洗う装置までついているとか、本当に至れり尽くせりで……俺ァずっと絶句するしかできなかったからな。

 もちろん、便所紙の紙質にも盛大に驚いた。異世界にもこれらがあれば……と、この数日で何回思ったことかわからない。


「オーケー、それなら僕はあっちのベンチで待ってるよ。さすがにね……セティくらいの見た目の女の子と一緒に女子トイレに入ったら、コレだろうから……」


 その経緯を知っているだろうにわざわざ確認してきた優一は、女子便所の入口からずずいと距離を取りながらおどけてそう言った。


 両手首を合わせて見せる仕草もしていたが、それをするってことは手錠は前世の頃からさほど変わってないのか。

 どうせならもっと穏当なもので当時との共通点を感じたかったが、優一のおどけた態度がおかしくて思わず笑っちまったから、ここは俺の負けだろう。片手を軽くひらりと上げて応じ、優一が離れていく気配を感じながら女子便所に踏み込んだ。


 とはいえ、便所で何かあるわけでもない。普通に用を足して、普通に水を流して、それで終いだ。紙を出すにも水を流すにも、いちいちオロオロしていた俺はもういないのである。

 まあ、洗面台の壁にデカい鏡がいくつも掲げられているというのには、ちょっと驚いたが。それくらいだ。


 きちんと手も洗って、優一からもらったハンケチで手を拭いて……それと、ちょっと髪留めの位置がズレていたから、着けなおして整えて。


 うん、よし。バッチリ。それじゃあ優一のところに戻ろう。


「ひゃっ!?」

「わっ、お姉ちゃん大丈夫っ?」

「おっと」


 とその直前、出入り口で誰かとぶつかってしまった。俺はのんびりしたものだったが、相手側が走っていたようで、そこそこの衝撃が来た。

 とはいえ、魔石励起せずとも体内を巡る魔力の恩恵もある俺は何もなかったが、相手は後ろに弾かれてしりもちをついてしまったようだ。


 見れば二人の少女がいた。どことなく欧州系の血を感じる顔立ちの、かわいらしい子たちだ。どちらも今の俺と同じか、一つ二つくらい上の歳だろう。


 しかし何より驚いたことは、髪型が左右対称なだけで二人とも同じ顔をしていることだ。双子か?


 しりもちをついたのは先頭にいた少女で、先の声が正しいならこちらが姉だろう。なぜか青い顔で俺を見ている。

 妹らしき少女はその後ろで、背中を支えるように手を伸ばしているが……こちらも顔色が悪い。


 ……と、観察している場合じゃないな。俺は彼女に声をかけつつもしゃがみ込んで、ケガはないか確認することにした。


「悪い、俺も前を見てなかった。ケガは……」


 が、俺はその言葉を最後まで言えなかった。


「っ、逃げて! アイツが来る!」

「ケガしないうちに早く!」


 なぜなら、話しかけているさなかに血相を変えた二人に言われたから。そしてそれと時を同じくして、魔力を感じたからである。


 昨日の今日で、また魔導士かよ!? 運がいいんだか悪いんだか……!


 そう思う間もなく、そいつは俺の後ろに現れた。いや……現れた、というよりは生えた、と言ったほうがいいか。地面から出現したような気配がある。


 だから遠慮なく、振り返りざまに裏拳を放った。だが魔力を込めたそれは、同じく魔力が込められた葉によって受け止められる。


 葉……そう、それは葉っぱだった。細長い枝の先に、放射状に宿る鮮やかな緑色の葉っぱ。その葉っぱの向こうには、木のような下半身と、人間のような上半身を持つ異形の姿があった。


 だが「ような」と言った上半身も、肌らしき部分の質感は木に見える。さらには顔はのっぺらぼうで、髪の毛もない。代わりにあるのは葉っぱだ。

 胸元は多少女性的な丸みがあるが、それっぽく整えたような……言ってみれば作り物という感じが強い。


 さらには、人間で言えば両腕に当たる部分も枝だ。これが前に突き出され、先端……人間で言えば手に当たる部分がいくつかの葉っぱで覆われている。こいつが俺の攻撃を受け止めていた。


「使い魔……か? おっと、そうはさせるかよ!」


 俺の拳を受け止めている葉がわさわさとうごめき、相手の腕が伸び始めた。そのまま俺の手を絡め取ろうとしてきたので振り払い、相手の懐に潜り込んでいく。


 相手の大きさ自体はそこまででもない。百四十センチ程度か。この大きさの相手の懐にするりと入れるのは、俺くらい小さくなければ無理だろうな。

 だからそのまま、腹(異形相手にこの表現が正しいかはわからんが)に向けて拳を一発ぶちかましてやった。鈍い音が鳴り、俺はその感触に思わず顔をしかめる。


 硬いな! 魔力なしで木を殴ったらこんな感じだろうが、見た目通りってことかよ!


 とはいえ、力が外部から加わったことに変わりはない。魔力で強化した拳によるそれは、押し出すという結果となって相手を退かせる。


 木のような下半身を持つ相手だが、地面に根を張っているわけではないようだ。であればと俺は、さらに前に踏み込んで蹴りを放つ。

 先ほど殴りつけたのと同じ場所に、首尾よく命中したが……やはり有効打になっているようには見えない。


 ただ先の攻撃で体勢を崩しかけていたところに、さらに思い切り蹴りつけたのだ。相手はその勢いによって後ろに吹き飛び、壁に身体を叩きつけられた。

 どん、と音が響くが……相手は無反応。堪えていないのか、それともそうした反応をする機能がないのか。さてどっちだ?


「えっ、え、す、すっごい……」

「ええ……あれと戦える人なんているんだ……」


 後ろから、感心と呆れがないまぜになったような声が二人分聞こえてくる。完全に信じたわけではないが、最初に逃げろと警告してくれたことも考えれば、この二人が下手人という可能性は低いかな。

 もちろん油断を誘うためのハッタリという可能性もあるだろうが……これくらいの子供が、そこまでするとは思えない。


 子供ならもっと純粋に考えるだろう、なんて言いたいわけじゃない。寄生するとまず欲求にまい進させる魔石の毒素は、大人に比べると自制心が弱い子供であればあるほど強く影響を及ぼすからだ。


 要するに、子供の魔導士はもっと直接的なんだよな。ここまで凝った状況を作ってまで、相手を騙そうと考えるようなやつとは経験上、出会ったことがない。

 だからだろう。十年前の戦争のように、国家規模で魔石に飲み込まれると最初に戦場に出てくるのは大体子供で……いや、やめておこう。こんな話、今は関係ない。今後もきっと、関係ない。俺が、俺たちがそうしてみせるんだ。


 ……と、いうことを考えながら、俺は一旦下がって身構える。ここは個室が並ぶ便所で、戦うには狭くて不便だが……これくらいの距離ならひとまず問題はなかろう。


 俺はゆらりと動き出した相手を見据え、魔力を練り上げる。そうして利き手を掲げたところで、蛇のようにうねって迫り来る相手の腕を出迎えた。


「お前は何だ? まずはそこを見極めさせてもらうぞ」


 掲げた利き手で、()()()()()()()()()


 亜空間を操るときに鳴る、振動のような音は鳴らない。それでも確かに魔法は効果を発揮しており、俺は固めた空間をつかんで真下に振り下ろした。

 固めた空間は──俺にしか認識できないだろうが──刀の形をしていた。それが相手の腕を的確にとらえ、切断する。

 肉を切るのとはは違う感触、音と共に、葉っぱで彩られた相手の手先が、ゆるりと床に落ちた。


「わっ、何今の!?」

「何もないのに切れたよ!?」


 一瞬の出来事に驚いた双子が声を上げているが、これぞ俺の奥の手の一つ。名付けて次元刀だ。


 俺の魔法、ディメンションは空間を操る。亜空間を作り、それを操作することが一番わかりやすい使い方だが、実空間にだって干渉はできる。

 これがまあ汎用性が高く、空間を固めて盾にしたり、空中に足場を作ったりと便利なのだが……攻撃に転用するために作ったのがこの次元刀である。なので、その時の気分によって次元槍だったり次元棒だったりするんだが、それはご愛敬。


 空間を望む形に固めて武器として振るうから、得物を持ち歩く必要はないし、壊れることもない。大きさも自由自在だから取り回しに悩む必要がない、といいこと尽くしなのだが……その分消耗が激しいのが難点なんだよな。

 正確には、維持し続けるとガンガン消耗する。逆に言えば一瞬だけ使う分にはそこまでではないので、普段は使い捨てだ。今回も、相手の腕を切り落とした瞬間に消している。


 だが、相手は堪えた様子がない。人間なら普通、腕を切り落とされたら悲鳴を上げるなり患部を押さえるなり、あるいは痛みに耐えかね転げまわるくらいするもんなんだがな。

 それどころか、すぐさま次の行動に出てきやがった。躊躇なくこちらに踏み込み、残ったほうの腕を俺の頭めがけて振り下ろしてきたのだ。


 しかし俺はこちらではなく……いや、こちらも気にはしていたが、それよりも注意を払っていたのは俺が切り落としたほうの腕だ。


 具体的にはその断面。切り離された腕の断面は、俺の腕前がよくないせいでまっ平ではないのだが……それでも見えるものはある。


 まあ単純に見た目の話なんだが。相手の身体は木のような見た目だったのに、断面は全然違ったのだ。

 ただ味気ない、黄色があるだけ。当然、血なんて一滴も出ていない。


 予想通りだ。魔力の塊ってことで間違いない。

 その判断を裏付けるように、身体から離れて床に落ちていた相手の手が、黄色の粒子となって溶けるように消えた。


「やはり使い魔か。反応の仕方からして、恐らく自律型。なら遠慮はいらねぇな!」


 魔導士本人が直接変身した姿だったとしたら、これからやることはただの棚上げにしかならず、根本的な解決にはならない。

 しかし使い魔が相手となれば、俺のディメンションは非常に有効だ。何せ召喚系魔法で呼び出される使い魔は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。相性が良すぎるのである。向こうにしてみれば、相性最悪ってところか!


 だから俺は、振り落ろされた腕を絡め取り、床めがけて背負い投げる。

 ただ床に投げ落とすのではない。投げる先の床面に、亜空間の入口を作りながらだ。これで終いだ!


「……! チィッ!」


 ところがそうは問屋が卸さなかった。投げているさなか、まさに床に入口を開こうとした直前に、体内の魔力が乱れたのだ。たとえるなら、高速で走らせている自動車のハンドルを、横から勝手に切られたような。


 くそっ、こんなときに来やがるとは、随分と間が悪い! 昨日の戦闘じゃ一度も調子悪くならなかったんだから、今日もすんなり終わってくれてよかったろうに!


 っつっても、別に魔力が消えたわけじゃねぇ。身にまとうくらいは動かせるから、身体を強化する分には問題ない。

 だから戦うことはできる。しかし、魔法を使うには致命的だ。


 当然、ディメンションは不発に終わった。だから俺の背負い投げも、そのまま普通に相手を床に投げ落とすだけになってしまう。どしんと音が鳴って、室内がかすかに揺れた気がした。


 にもかかわらず、相手は一切受け身をしない。するそぶりもみせないという、まさに自律型らしい挙動をしていた。

 人間相手なら結構な痛手になるだろうが、自律型の使い魔相手にそれは期待できない。実際、すぐに身を起こして攻撃を続けようとしていた。


 だから俺は舌打ちそのままに、魔力を多く集めた足で相手の身体をガンガンと思いっきり踏みまくる。恐らくどこをやっても効果は同じだろうから、なるべく攻撃行動に移れないように、動く気配が見えた部分周りを中心にだ。


「わ、わあ……」

「エグぅい……」


 後ろからおののく声が聞こえるが、彼女たちは事情を知らない。だからこればっかりは仕方がない。

 だがあれくらいの子供に心底ビビられるってのは、案外堪える。その分の怒りも込めて、使い魔野郎を踏み続けてやろうじゃねぇかよ!


 大丈夫。自律型の使い魔ってのは、事前に決められた行動しかできないのが基本だ。融通が利かず、細かいことは命令できないから、色んな手段を考えて攻撃をかいくぐろうとすることもない。

 もちろんそれを補って余りある利点もあるわけだが……今この時点においては、考えなくていいだろ──


「──う!?」


 とか思ってたら、頭の葉っぱが弾丸のように飛んできた! それ発射できんのかよ!?

 慌てて上半身をのけぞらせて回避したが、視線の先では葉っぱが壁に深々と突き刺さっていた。なかなかの威力をお持ちのようで……!


 しかし今何より問題なのは、回避したことで相手が動くだけのスキが生じてしまったことだ。おかげで細長い腕みたいな枝が俺の足に絡みつき、そのまま勢いよく空中に弧を描かされる羽目になった。


「ッぐうぅ!」

「「わーっ!?」」


 要するに、今度は俺が床に叩きつけられたわけだ。魔力をかなり多めに出して身を守ったから痛みはほぼないが、それでも衝撃は響いたから一瞬息が詰まったし、戦いを見ていた二人からは悲鳴が上がった。だいぶ事件性のある声だった。

 彼女たちに大丈夫だ、と言えればよかったんだが、どうやらさせてくれないらしい。すぐにもう一度俺の身体が持ち上げられる。


 また叩きつけてやろうってんだろ。させるかよ!

 魔力を枝の腕に絡め取られている箇所に少し、残りの大半を両手に集中! 床に叩きつけられる前に、その手を前に! 気分は床を受け止める感じだ!

 もちろん振り回された遠心力が加わって、凄まじい衝撃が身体を駆け巡るが……それは気合で耐える!


「く……っ! ふ……ふふっ、俺の魔力運用技術をナメんなよ!」


 耐えたあとは、さらに両手の魔力を指先に移動させる。そうして特に強化された指に力を込めて、床を思いっきり握る! 振り回されないように、がっちりとな!

 ビシィと派手な音が響いて床が割れたが、そこはあとで直すから勘弁してほしい!


「さあ、ここからどうするっ?」


 逆さになった視界の中で、相手の腕がぴんと伸びた状態でとまっているのが見えた。俺が床にしがみついて離れないせいで、向こうも動くに動けないのだ。


 俺はにやりと笑って見せる……が、ぐいぐいと引っ張られているから普通に痛い。下半身がギリギリと、あるいはミシミシと、嫌な音を立てているような気配がする。

 さらに言えば、相手には頭の葉っぱを飛ばすという攻撃手段がまだ残されている。あっちは動けずとも問題はないんだよな。


 実際、頭頂部の葉っぱがゆさりと動いて俺のほうに向けられた。さて偉そうに言ってはみたが、俺こそここからどうしたもんか……と、逆転の手段を考え始めた俺だったが。


「ダメーっ!」

「もうやめろぉ!」

「んなっ!?」


 さすがにこの展開は予想していなかった。まさか少女二人が戦いに割って入ってくるなんて、思ってなかったぞ!

 二人は俺と間の相手の間に立ち、その小さな身体で──いや、そうは言っても俺よりは大きいんだが、世間一般的に言って──俺を葉っぱの射線から守るようにたちはだかったのである。


 さらには俺の足を絡め取っている相手の腕をがっしとつかみ、相手をこちらに引きずろうと力を込め始めた。まるで綱引きみたいだが、相手が魔力の塊である使い魔ということを考えれば、力を持たない子供がやっていいことではない。


「おいやめろ、死ぬぞ!?」

「ヤだよ! 大体さぁ、それはそっちも同じでしょー!?」

「そうだよ! 小さい女の子に守ってもらうだけなんてカッコ悪いじゃん!」


 だから引き留めようと声を張り上げたのだが、なぜか拒否される始末。

 男気溢れる言葉をありがとうと言いたいところだが、そういうのは匹夫の勇って言うんだよなぁ! これだから子供は、危機感がなさすぎる!


 このままだと二人もろともぶっ殺される……! くそっ、早く調子戻りやがれよ魔石め!


 思わず心の中で毒づく俺。それだけ焦っているということだが、しかし妙なことが起きた。


「……? 何もしてこない、だと?」


 使い魔のやつが、固まってしまったのだ。俺の足を絡め取ったまま引っ張ろうとはしているようだが、それ以上のことをする気配がまったく感じられない。

 やつの頭の葉っぱは確かに俺に照準が合っているが、こちらも発射される様子はなし。二人が俺を助けるべく相手を引っ張っている様子を、ただ見ているだけにしか思えない。


 ……相手は自律型の使い魔。これは間違いないはず。だとすると、今のこの奇妙な拮抗状態は……。


 俺がそう思った直後のことだ。便所の入口から、大柄な人影が躍り出てきた。そいつは右手を手刀の形に立てており、実際そのまま右手を俺の足を絡め取っている腕めがけて振り下ろす。

 黒い魔力を帯びた手刀だ。それはスパンとあっさり、と言うほどではないにせよ、肉を引きちぎるような音を立てながらも間違いなく相手使い魔の腕を切り離した。


 実質引っ張り合いをしていたも同然な状況でそれだ。突然そこから解き放たれ、やつは盛大に後ろに吹っ飛んだ。間にいた双子は揃ってしりもちを突き、俺は反動を利用して空中に飛び上がる。


 それらをなしたのは、


「助かったぜ優一!」

「ごめん待たせた! とりあえず、こいつが敵ってことでいいかな!?」


 そう、優一だった。さっきのはたぶん、家から持ってきていた小さなナイフ辺りの切れ味を転写したんだろうな。

 おかげで助かった。泥沼の状況になりつつあったこともあって、声が弾んだのも仕方ないだろう。


 なんでここに、というのは聞くまい。先ほど二人が上げた悲鳴を聞いて駆けつけてくれたんだろうからな。俺と二人の会話が聞こえたなら、それも後押しになったか。


 いずれにせよ、これは好機だ。俺は空中で一回転しながら、優一の問いに応じる。


「おう! すまんが少しの間、そいつを抑えててくれ!」

「了解、任せてくれよ!」


 再度逆さまになった視界の真ん中で、優一が大きく頷く。そうして俺が床に着地するのと、優一が返事をして相手に躍りかかったのは同時だった。


 この頃には、やつも復帰を終えていた。新たに乱入してきた優一を最大の脅威の判断したのか、優一を迎撃している。

 だが両手を失った状態では、できることに限りがある。ある程度長さは伸ばせるようだから、槍のように使うことはできるようだが……それだけでどうにかなるほど優一は弱くない。そもそもあいつの魔法が強いしな。


 実際、何回か刺突を喰らった優一の身体からは鈍い音が響いたが、堪えていない。場所が場所だけに戦いづらそうだが、なんとか相手の連撃をしのいでいる。


「ぐっ、この……! 痛いじゃないかこいつめ!」


 なんて痛がっているし、血がにじんだりもしているが、致命傷には遠いって感じだな。使い魔が頭から発射する葉っぱを喰らっても、ひるんだりはしていない。

 もちろん、要所要所で反撃もしている。相手が使い魔ということで効いてはいないが、攻撃をさせないだけでも十分だ。さすが俺のひ孫、頼もしいやつだな。


 一方俺は、体内の魔力を必死にかきあつめて制御に専念していたのだが……その隣に少女二人が並んだ。優一の様子を見やりながらの後退だが、さすがにあそこに割って入るのは無理だと思ったんだろうな。


「あのお兄さん、すごいねー……」

「すごいってか、おかしくない? なんであれ受けて痛いで済むのさ?」


 その二人が口々に言う。ただ戦いぶりに見入っている姉に反して、妹のほうは随分と現実的なことを言う。


 気持ちはわかるが、魔法なんてのは元々おかしいものなんだよな。何せ悪魔の手法なんだから。

 まあ、それをここで言ったところでどうにもならないし、余裕もない。調子がすこぶる悪い魔石に意識を集中させ、これまで培ってきた魔力の制御技術を総動員しているんだからな。


 しかし、そこはさすが俺と言うべきか。案外どうにかなるもので、なんとか魔力の制御に成功。一回くらいなら魔法を使えるくらいには、整えることができた。

 ま、伊達に異世界で八十年生きちゃいないってことだな! などと内心で自画自賛しつつも、改めて意識を優一と戦う使い魔に向けなおす。


 改めて見た使い魔の頭は、ハゲていた。どうやら葉っぱは撃ち尽くして残弾ゼロらしい。

 だからか使い魔はひたすら刺突か殴打で攻撃していたが……俺がそちらに意識を向けなおしたちょうどその瞬間、優一が刺突をスレスレで受け流していた。これはちょうどいい。


「そのままこっちによこせ!」

「オーケー、行くよ!」


 俺の指示に合わせて、優一は使い魔の身体を肘で押した。俺のほうに流れていくようにだ。


「ハッ!」


 だがそれだけでは終わらせず、彼は身体をひねる。そうして放たれた回し蹴りが、使い魔の背中に炸裂し。


「ここだッ、『ディメンション』!」


 直後、俺は魔法を展開する。ギリギリの状況から絞り出したようなものだから、いつもよりやや不安定な出来栄えだったが……それでも、いつもの振動音は変わりなく響いた。


 空中に現れる、亜空間の入口。それは使い魔の前方に開かれた。


「「あっ、消えた!」」


 優一の蹴りは、この中に使い魔を蹴り入れる形となったのである。狙い通り、絶対に回避できない瞬間を突くことができて何よりだ。


 再度の振動音。亜空間の入口を閉じたのだ。これでやつは、俺がディメンションを使って出入り口を開けてやらない限り、外に出てこられない。無力化成功である。少女二人から見たら、一瞬で消えたように見えただろうな。


「ふう……やっと終わったか」


 本当はもっとあっさり片付くはずだったんだけどな。あんな最悪の瞬間に魔石の不調が来るとは思わなかった。


「いやすまねぇな。マジで助かったよ。ありがとう優一」

「どういたしまして。僕にしてみれば、何が何やらだけど。あとできちんと説明してくれよな」


 戦闘を終えた解放感でにっかり笑って声をかけたところ、優一は赤く腫れあがった頬をそのままに苦笑して見せた。


 痛々しいそのケガはあとでちゃんと治してやるとして……そりゃそうだと思う。

 今回はマジで脈絡なかったし、使い魔という比較的珍しい魔法も出てきた。話すべきことはたくさんある。だから俺はうんと頷いたのだが……。


「もちろんだ。けど今回はお前より……」


 ここで俺は、すぐ近くで状況を見守っていた、無謀な少女二人それぞれに対して、右左と視線を向ける。

 彼女たちはこれを受けて、まったく同じ瞬間に、真逆の方向に首を傾げた。


「……この子たちのほうが優先だ」


 さて、この子たちにどこからどこまで話すべきかな。あと話したところで、どこまで信じてもらえるか……。


 内心で少し悩みつつ、俺は小さくため息をついた。優一も「だよなぁ」と言いながら、もう一度だけ苦笑したのだった。


ちなみに使い魔の見た目のモデルは、オフィスとかに置いてあるような観葉植物です。

もしかしたら、これだけでなんとなく察する人もいらっしゃるかもしれない。


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