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異世界帰りのTS転生ロリババア、ひ孫のヒロインになる  作者: ひさなぽぴー/天野緋真
第一章 始まりの夏、TSロリなひいじいさんと

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第五話 幼な月、双つ 2/7

 優一に連れてこられたのは、三階建てのものすごく大きな市場のようなところだった。端から端がほとんど見えない。数値にしてどれくらいなんだろうか……。

 おまけに建物全体と同じか、下手したらさらに広い面積の駐車場が、手前にどんと広がっている。正直言って度肝を抜かれたぞ。


 大型ショッピングセンター、という形態の店舗らしい。アイオーン、というのはその元締めということのようだ。

 要は今風の市場か……と思っていたのだが、聞けば食料品や飯屋だけでなく、衣服や装飾品、電化製品等々色んな分野の店が多く軒を連ねているという。


 おまけに映画館まであるって? そんなのが全国各地にあるとか、にわかには信じがたい話だぞ。

 現代人は一体どこに向かっているんだ。またしても時代の変化でぶん殴られた気分だ。


 しかも中に入ってみれば、見渡す限り人、人、人、ってなもんである。立錐の余地もないし、騒がしい限りだ。

 祭りでもやってんのか? こんなにたくさんの人間、ほとんど見たことがない。


 十年くらい前に、悪魔に乗っ取られた国相手に組んだ同盟の連合軍がこんな感じだったか。

 だがあのときは基本裏方だったから、真っただ中に入ったことはなかった。それを思えば、こんな人ごみ……しかも軍と違ってほぼ無秩序の中に入るのは、初めてではないだろうか。


 こんな中を小さいガキの身体で歩くのは、悪魔どもとの戦闘とは別種の覚悟がいりそうだな……。


「覚悟を決めた顔してるところ悪いけど……現代だとこれくらいの人の入りがある場所はそこまで珍しくないから、早いうちに慣れたほうがいいよ」


 が、そこに水を差すような優一のセリフに俺は愕然とした。


「ウッソだろ!? これが珍しくない!?」

「通勤時間帯の名古屋駅とかに比べたら、これでもだいぶ空いてるほうだよ。飯時のフードコートでトントンってところかな。いわんや東京をや、ってね」

「ひえぇ……」


 本当になんでもないような言い方に、少しゾッとする。これが空いているほうだって? わけがわからない。


 だが、嘘をついているようには見えない。マジかよ。本当に人口が俺の知る時代とは全然違うんだな……。

 日本があの頃に比べて格段に豊かになっていることは、喜ばしいことだ。ただ一方で、人が増えすぎたんじゃないかと思ってしまう俺がいる。どこに行っても人でごった返してたら、嫌だなぁと……。


 というか、名古屋はもっとすごいのか。いつか名古屋にも行きたいと思っていたが……この分だと、当面はやめたほうがいいかもしれない。見たいところ、たくさんあるんだがなぁ。


 そんなことを考え始めた俺の前に、手が差し出された。もちろん優一のもので、思わず彼の顔を見上げる。


「案ずるより産むが易しだよ。大丈夫、何かあってもすぐ助けるからさ。行こうぜ」

「ん……おう」


 ……久々に男にエスコートされるな。貴族の家に生まれなおしたから、経験がないわけじゃないが……誰かとそういう付き合いをするつもりがなかったから、ずっと避けてたんだよな。

 男とそういう関係になりたくないというのもそうだが、何より俺の伴侶は今でも紫乃のつもりだから。


 だが確かに、俺一人だと人ごみに飲まれて分断されちまいかねない。だから仕方なしに、優一の手を取った。

 大きくて武骨な、男の手だった。


「…………」


 かつては俺も、こういう手をしていたはずなんだがな。そんな風に思えて、つい黙り込む。

 そのせいだろうか。なんだか優一に包まれているような気がした。妙な気分だ。やけにソワソワするというか……。


「? どうかしたかい?」

「い、いや。別に、なんでもねぇよ。行こうぜ」


 静かになった俺をいぶかしんで、優一が問うてきたから首を振って応じる。本当になんでもないんだから、そう気を遣ってくれなくていいんだと思いながら。


 ならいいんだけど、と安心したように微笑む優一から目を逸らし、進む先をふさぐように続く人波をにらむような気持ちで見つめる。

 それと同時に、優一の手を握る自分の右手に、先ほどよりも一層力がこもった気がした。人込みの中に入るという緊張が、そうさせているんだろうと自分に言い聞かせる。


 言い聞かせ……。


 …………、…………。


「セティ? チベットスナギツネみたいな顔してどうした?」

「チベ……? いや、俺も傍から見たら、ああいう子供と同じなんだなと改めて思っちまっただけだ……」


 仲睦まじく手を繋いだ親子が、今まさに隣をすれ違うのを横目に見ながら、俺はため息をついた。思っていた以上に深いため息だった。


 いやまあ、おかげでさっきまでの妙な気分は全部吹っ飛んだがよ……。それを歓迎していいのかどうかは、自分でも決めかねるぞ?


「いいじゃないか、かわいくて」

「他人事だと思って好き勝手言いやがって。小さい身体がいかに不便なのか、体験させてやろうか?」

「え、マジ? ぜひ頼むわ。やっぱり一度経験するとしないとじゃ、絵の説得力が変わってくるからさぁ」

「なんでもかんでも絵に活かそうとするな!」


 このお絵描きバカがよぉ!


 というか、身体がガキの時分まで縮む経験を絵に活かしたとして、それを漫画にどう反映するんだ!? わからん、俺にはさっぱりわからん!


「あまり珍しいネタでもないよ? 三十年続く国民的推理漫画でも使われてるし」

「どうなってるんだよ現代の日本はよぉ……!」


 助けてくれ紫乃。こんな現代日本に適応するための勇気を、俺に分けてくれ……!


***


「んんん~~っ! うんめぇーっ!!」


 ……とまあ色々あったが、そういうのは昼飯のカツ丼で大体全部吹っ飛んだ。確かに飯時のフードコートは地獄のような人込みだったが、そこに並んだかいはあったというものだ。


 いや、俺の知ってるカツ丼と違いすぎたというかだな……。美味すぎるだろ、この卵とじのカツレツ……。

 米ともめちゃくちゃ相性いいし、なんだこれは。こんな美味いものが存在していいのか? 比喩抜きで、頬が落ちそうなんだが。


「気に入ってくれて何よりだよ。いやあめっちゃいい笑顔だ……ちょっとスケッチ……はご飯が冷めるな。写真、うん、写真撮らせて」


 優一がなんか言っていたが、そんなこと気にもならない。


 誰だよ、こんなとんでもない料理を考案したやつ。俺が国の偉い役人なら、ノーベル賞に推薦するぞ。平和賞だ平和賞。それくらい美味い。本当にたまげた。


「な、なあ優一……なんていうかそのぉ、そっちの、味噌のやつもさ、美味そうだなっていうかさァ……」

「いいよ、ちょっと交換しようか」

「わぁい! ありがとな優一! んへへ……こんなの絶対美味いに決まってんだよな……んむ、はむ……、ッ、あああ~~、最高だぁーーっ!!」


 こっちもこっちで、めちゃくちゃ好み! 味噌の濃い味付けがサクッとした衣とアツアツの肉と絡み合って、甲乙つけがたいなぁ!


「あ、やっべ、魔力が漏れて……ちょっと待って、抑える、すぐ抑えるから待って……」


 魔力ってのは不思議なもので、それそのものを弾丸にして攻撃することもできる。俺も得意とまでは言わないが、そこそこ使うことがあるんだが……言ってみれば何もないところから射撃できるようなもの。

 当然ながら、扱いを間違えると大変なことになる。身体強化や魔法に回さなくとも、魔力は周囲に影響を及ぼす好例であり、つまるところ不用意に拡散するのはあまりよろしくない代物だ。


 幸い被害が出るほどの量は漏れなかったが……それでも、近くの席に座っている人たちが身体を押されたと勘違いして、周りを不思議そうに見まわしていた。


 マジで申し訳ないが、わざわざ謝ったとしても、魔力が見えない人たちに言っても信じてもらえないだろう。逆に邪険にされる可能性すらある。

 だから謝るわけにもいかず、俺だけが肩身の狭い思いをする羽目になった。


 ただ言わせてほしいのだが、別にあまりの美味さでついうっかり、というわけではないんだ。本当なんだ。

 それもこれも、連続過剰励起のせいだ。魔石が調子がよろしくないなのだ。


 魔石を励起していなくても、最低限の魔力は常に体内を巡っている。この魔力が俺たちの身体を保護しているのだが、こいつが食事の前後くらいから勝手に増えているんだよな。

 で、カツ丼の美味さで感情が大きく振れたことで体外に漏出してしまった、というわけだ。


 俺の意思に反して魔力が不自然に増減するのは、連続過剰励起をかましたときからあった。それでも昨日までの間に少しずつ落ち着いていたのだが……昨日の昼くらいからまた再発している。


 要するに、昨日の戦後から再発している。短時間とはいえ、不調のところでまた過剰励起をしたのが悪かったのは明らかだ。

 再び時間を置けば落ち着くとは思うが、魔導士や悪魔どもと遭遇してしまうとそうはいかないのがな……。俺の魔石は、一体いつになったら万全に戻るんだろう。

 しかし時間を確保できるということは、それだけ悪魔どもの暗躍を見逃すことにもなりかねないし……。


 ……などと真面目なことを言ったが、実はこの間にも箸は全然とまっていない。我ながらびっくりする。

 なんだこれ麻薬か? 合法の麻薬……!


「昨日のオムライスも相当だったけど、今回はひとしおだね。いやーまさかね、食レポのリアクションで周りを吹き飛ばすみたいなシーンを現実で目の当たりにできるとは」


 その光景を見て、なぜか大喜びで録画しようとした優一はもうこの際放っておいた。一瞬だけ、やりたくてやってるんじゃねぇやいと思いはしたが、そんなものは口の中に広がる豊潤な味ですぐに吹っ飛んだしな。

 目の前の美食より優先すべきことなんて、今この瞬間に限っては世界中のどこにもない……!


 だからというわけじゃないが、丼はいつの間にか空になっていた。体感だが、一瞬だったと思う。

 ついついおかわり、と言いたくなったが……気持ちに身体がついてこない。満腹である。小さい身体の恨めしさよ。


 魔法で胃腸の時間経過を進めればすぐに食えるようになるだろうが、こんなことで魔法を使うのはさすがに魔力がもったいない。魔石が安定しない現状、魔法を使う機会は厳選したいしな。


 ということで、俺は一向に落ち着かない気分を振り払うように、パンと音を立てて手を合わせた。


「ごちそうさまでした!」

「はいどーも。喜んでくれたようで何よりだよ」

「……お、おう。いや、だって、マジで美味かったから……」


 そんな俺を見て、優一は楽しそうに目を細めている。やけに慈愛を感じる顔だ。

 おかげで俺はしどろもどろになり、視線をさまよわせる羽目になった。


 くっ、確かにさっきまでの俺はただのはしゃいでるガキだったかもしれんが……!


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ。いっぱい食べる君が好き」

「好……ッ、バカ! いきなり何言い出すんだこのバカ!」


 本当に突然言われて、顔に血が上る。おかげで語彙がひどいことになった。


「あ、ごめん、今のはネットミーム……定型文というか……ある種の枕詞みたいなものというか……」


 が、続く返しがこれで俺は机に顔を突っ伏した。


 なんだよそれ。思いっきり反応した俺が自意識過剰みたいじゃないか。

 くそう、俺のこと好みど真ん中とか言うし、風呂場であんな、せ、接吻しようとまでしてきたから、遂に口説かれたかと思ったのに……。肩透かし喰らった気分だ……恥ずかしい……。


「いやうん、セティのことが好きということ自体は違わないんだけど……」

「どっちなんだよお前はよぉ!!」


 マジでどっちなんだよお前はさぁ!!


「僕にも一応、線引きってものはあるんだよ。だから当面は口説くつもりはなくてだね」

「当面はってなんだよぉ……。俺、男と付き合うつもりなんてねぇぞ……」


 俺は身を引きながらもそう言ったが、優一はにっこりと笑うだけだった。


 ほ、本気の顔だ……あれは諦めるつもりがないやつの顔……! こいつと同じ屋根の下で暮らしていて、本当に大丈夫かな俺……。


 いやでも、こいつ普段は全然下心を感じさせないんだよな……。たまにスケッチはされるけど、それにしたって絵の資料目的だし……。

 確かに俺と紫乃のひ孫だけあって顔もいいし、腕っぷしだってある。稼ぎも十分と来れば、男として優良物件だろう。だがそもそもこいつはひ孫で……。


 ……じゃ、ねぇんだわ! 何を考えてるんだ俺は! 前提からしてあり得ないっての!!


「どうした急に。そんなに首振りまくったら首に負担がかかるぞ」

「誰のせいだと思ってんだよこのバカひ孫がよぉ……!」


 能天気に顔のぞき込んできやがって……! なんでそう本気で心配できるんだこの状況で……!

 お前がまいた種だぞ……! わざとか? わざとなのかっ?


 というか、顔が近い!! 俺は慌てて優一を押しのけた。


「ぅわっぷ」

「もういいだろ! 飯も終わったし! そろそろ行くぞ! 俺ァ早く工具とか材料が見てぇんだ!」


 同時に俺は立ち上がる。ガタンと音を立てた椅子からして結構な勢いがあったから、優一の頬にもそこそこの力がかかったかもしれない。


 けれど彼は気にした様子もなく、普通に笑っている。


「わかったよ、じゃあ行こうか。でもその前に、食器返さないとね」


 そしてこの、波のような引きの潔さである。切り替えが早い、というかなんというか。


 自分なりに線引きがある、というのは間違いないんだろうが、俺にはよくわからん。

 急に近づいてきては、からかうようなことを言うだけ言ってさっさと離れていく。そんな未知の男相手に、どう振る舞えばいいんだよ……。


 俺がそんなことを考えているうちに、優一は俺の分も含めた二人分の食器をさっと片付けていく。こういうところは本当に、気遣いができる男なんだけどな……。


「よし。それじゃ行こうか、セティ」

「んん……わかった。けどその前に、便所に行かせてくれ」

「はいはい、了解。じゃ駐車場戻る前にトイレに寄ろうか」


 ということで、俺たちはフードコートを後にした。来るときと同じく、優一と手を繋ぎながらだ。

 あの話からの流れでこうするのは色々と葛藤があって、切実に断りたかったよ。けど、結局人ごみに流されそうになっちまったから、改めて繋ぐしかなかった。


 相変わらず、大きくて武骨な手だった。


 その手を、嫌だとは思わなかった。


実際のところ、ひ孫に迫られるってどういう感覚なんでしょうね・・・。

ボクにはひ孫どころか子供すら、なんならパートナーもいないのでよくわかりませんが・・・(吐血


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