コイン
現実逃避して机の引き出しに仕舞ったけど、あのコイン何かやっぱり気になるよね。
でも、どうして手に入ったかって説明しても大丈夫そうなのは……
家族は当然駄目だよね。
コイン商とかに直接持ち込んだら、下手したら盗んだと思われるよね。
えっちゃんはもちろん駄目だし、霧子ちゃんでもどうかな?
確率の問題で済まされないしね。
本当の事言って確実に信じてくれそうなのってサラスさんしかいない。
彼女だったら『シュリーなら当然』位の事言いそうだし。
でもそれを知ったらますますインドに行こうって言いそうだよ。
でも放っておけないし。
ラクシュミーに聞いたら『祥子の好きにすれば。』って言いそう。
うーん。やっぱりサラスさんかな。
ラクシュミーの事一番良く知ってるのは確実だしね。
お昼食べてからサラスさんのところへ行きましたよ。
「あら、シュリー。」
「サラスさんちょっとご相談したいことが。」
「じゃあ放課後にまたうちに来ますか?」
「お願いします。」
サラスさんニコニコしてたけど、まさかインドに行く気になったと思ってるんじゃないでしょうね。
放課後サラスさんと一緒に校門まで行ったけど、前より注目されてない気がする。
また車に乗ってサラスさん所に行ったよ。
2回目だから少しは慣れたかな?
「で、お話って何ですか?インドに帰る気になりましたか?」
やっぱり。
「今日はちょっと見て欲しいものがあるんです。」
と言うと、かばんからチャック付きの小さなビニール袋に入れたコインを取り出したよ。
「シュリーは自分の姿の入った金貨が好きですね。」
え、何で?
「これは昔のインドの金貨で、こちらの面がシュリーの像でしょ。
なんだったら一度鑑定させてみますか?
それで、これがどうしたんです?」
「それが、何も無かったのに気がついたらそれを握ってたの。」
「ああ、そう言う事ですか。
シュリーは自覚が薄かったのですがようやく目覚めてきたのでしょう。
それ位気にすることはありませんよ。
あなたの力はもっと偉大です。」
女神の化身を自認するサラスさんらしいと言えばらしいけど、私はラクシュミーにお願いしてるだけで、自分を女神の化身と認めたわけじゃないから。
「それじゃあ、その金貨の鑑定をお願いできないでしょうか?」
「それは良いですが、こちらもシュリーにお願いがあります。
日本にいるインド人企業家たちが是非シュリーに会いたいと言ってます。
一度会ってくれませんか?
インドのコインを扱ってるコイン商も心当たりがあるので、その時一緒に鑑定もやってもらうと言う事ではどうでしょう?」
うーん、どう考えてもサラスさん私を取り込もうと思ってるよね。
でもインド側の動静ってサラスさんから間接的に聞いてるだけだし、第一あの絵だけでラクシュミーの化身だなんて思うのは変だよ。
サラスさん以外のインド人から情報を得るのも良いかも知れないね。
なんと言っても、私が行く気が無ければ、誘拐して連れて行くって分けにも行かないでしょう。
大体そんな事ラクシュミーが許さないだろうし。
「一回だけなら。」
「何時がいいです?」
「そんなこちらの都合だけで決められるの?」
「シュリーの都合が第一ですよ。向こうが一人二人都合が合わなくてもどうと言うことないです。」
そんな。どこの女王様ですか?いや女神様か。
「土曜日が良いな。」
「じゃあ来週の土曜日で良いですか?」
「それで。」
「じゃあ来週の土曜日の放課後に。私が送り迎えしますよ。」
送り迎えするのはサラスさんの運転手よね。
当日までは大した事はなかったよ。
次の週期末試験があるから勉強してた位で。
もう直ぐ夏休みなのよね。
黒金さんちの件と私とを結びつけて考える人は私たち三人と黒金さん本人位。
黒金さんお礼に来たけど、実際にお礼を言ってたのは霧子ちゃんでした。
内気ったってほどがあるよ。
それで、期末試験が終わったらまた霧子ちゃんちに行く事になったよ。
なんだか、ラッキーアイテム入荷いつになるかって問い合わせが来てるらしいよ。
よく考えたら、サラスさんとの約束って試験直前の土曜じゃん。
友達と試験勉強してたって言えば家族には通りやすいだろうけど。
一年生は土曜は午前中授業あるよ。
終わってから、そのままサラスさんと移動。
ところが向かった先はK市内で一番高級なホテルのカンファレンスルーム。
背広着た如何にも経営者という感じの迫力のあるインド人が並んでる。
通訳がついたけど、会話は基本的に英語。
まずランチ食べてから本題に入ったんだけど、どうも、ラクシュミーの2頭身キャラを作って
インド系企業で使いたいって話らしい。
そんな話聞いてないんですけど、どう言うこと、サラスさん?
どうも、私がインド料理屋さんに描いた絵を元に専門のデザイナーが2頭身キャラにして、それの彩色だけ私にやって欲しいって事らしい。
企画考えたらしい比較的若いインド人ビジネスマンがプレゼンしてたんだけど、プレゼンの中で霧子ちゃんちで描いたポップの写真が出たり、ラッキーアイテムの現物が回覧されたり。
全部漏れてるよ、霧子ちゃん。
なんか年配の経営者が冒涜的だとかなんとか言ってたけど、サラスさんが「シュリーが認めればラクシュミーが認めたってことだから。」みたいな事を言ってるみたい。
通訳がいまいちなんだよね。
って言うかサラスさん、何も言ってなかったくせに私がやるって決めてかかってない?
サラスさんはあの時と同じ言語で話したよ。
『あなたの神威を示してくれませんか、シュリー。』
『仕方ないわね。』って誰かが言って、またピカって。
閃光の後、手を見たらこれまでで一番光ってるよ。どうしよう。
その場にいたインド人全員平伏しそうな感じだった。
もちろんサラスさんは別だけど。
サラスさんが日本語で
「どうしますか、シュリー?」
って聞いてきたんだけど、この場でNoと言う勇気は私には無かった。
サラスさんみたいに女神様キャラじゃなくて、所詮は高校一年生だし、ただのサラリーマンの娘だから。
ラクシュミーの権威を笠に着てこんな経営者の集まりで大きな事言えるわけないじゃない。
それで、サラスさんが
「コインを見せてください。」
って言うから渡したら、回覧されて、
「そのラクシュミーの金貨が彼女の手の中に現れたんです。
ラクシュミーの化身の証拠です。」
って。サラスさん酷い。罠だ。
いえ、サラスさんにしてみたら、ただ本当の事を言っただけなのかも知れないけど。
結局着色だけって事で受けることにした。
その後参加した人が一杯寄って来て、一人一人挨拶してくれたんだけど、誰が誰やら。
名刺を沢山貰っちゃった。
コインの鑑定もしてもらったよ。
よく分からなかったけど、1700年位前のインドの王朝のコインらしい。
鑑定が済むとそれで終わり。さっさと帰って試験勉強しなきゃ。