手品じゃないよ
TV局のテープの件、ラクシュミーに聞いてみた。
「祥子、『えーい、消しちゃえ。』って言いませんでした?」
「それはうちのHDレコーダーの事だよ。」
「でもあれが残ってると祥子にとって都合が悪いんでしょ。」
「それは……そうだけど。」
「なにもせずに消えるって運が良かったですよね。」
「そうかも。」
「そう言う事です。」
「えー、私が原因なの。」
「例えば、操作を間違えたり、機械が故障して、消去したらそれは運が悪いですよね。」
「それはそうかも。」
「普通の人間が祥子を困らせようとしたら、運が悪くなるのは当然です。
祥子はこの私の化身なのだから。」
まあTV局の操作ミスや機械の故障が原因なら、私には責任無いよね。
うん、うん、関係ない、関係ない。
「……だって。」
昼食の時、えっちゃんと霧子ちゃんに夢の中でラクシュミーが話した事を伝えたよ。
「それって、結局、祥子ちゃんが消させたって事?」とえっちゃん。
「違う、違う。
ちゃんと聞いてよ、えっちゃん。
私が消したのはうちのHDレコーダーの録画だよ。
TV局のは、機械の故障か操作ミスで消えたのでしょうって事。
TV局の人は単に運が悪かっただけだよ。」
「それを罰が当たったって言うんだよ。」と霧子ちゃん。
「祥子ちゃん、罰当てるの?」とえっちゃん。
「違うよ、私何もしてないもん。自業自得だって。」
そんな事言ってるとクラスメイトの女の子が来たよ。
名前忘れた。
だって、エリサさまグループの更に隅っこの方にいる子なんだもの。
存在感ほぼ0。
まあ私もラクシュミーが表れるまでは、存在感0だったかもね。
「何かご用でしょうか?」と猫被る私。
立ち上がって対応する霧子ちゃん。
「黒金さんは、祥子ちゃんにお願いがあるんだって。」
霧子ちゃん、『黒金さん』知ってるの?
そりゃ同級生なんだから知ってるのが普通だよね。
「この前ラッキーアイテムの件話したら、どうしても祥子ちゃんを紹介して欲しいって。」と霧子ちゃん。
同級生に同級生の事紹介してくれっておかしくない?
そんなに近寄りがたい感じになってるのかな?
「黒金さんの家は市の南の工業地帯だった所で金属再生処理工場やってんだって。
最近金属の値段が下がって経営が難しくなって来たので何とかならないかって。」
不幸な人来たよ。
でもなんかちょっと、この子、私の事怖がってない?
なんで霧子ちゃんの後ろに隠れようとするの?
「黒金さん凄く内気なの。祥子ちゃん許してあげてね。」
「うん。でも金属再生処理工場って、私が何か出来るかな?」
「祥子ちゃんならきっと出来るよ。だって祥子ちゃんは……」
「ストップ。分かったから、ストップ。
何が出来るか少し考えてみるので、2、3日時間くれない?」
黒金さん、なんだか一言も言わずにこそこそ帰っていったよ。
それにしても市の南の、しかも金属再生処理工場か。
霧子ちゃんちみたいにずっとK市に住んできた家の人だと、何処に何代住んでたかでランクがあるって聞いた事ある。
それこそインドのカーストみたいに。
私は中学に入る時転勤でK市に越してきた『よそさん』から分からないけど。
うちの高校の前の通りが昔の市内と市外の境界線で、それより南は昔は『人の住むところじゃない』って言われてた話を聞いた。
南の工業地帯だった所って、今はKセルとかN転堂とかそれこそ世界レベルの企業の本社もあるけど。
高校の前の通りにある世界遺産
霧子ちゃんは『いけず』な感じは全然ないけど、霧子ちがあの場所で仏具屋さんやってるって時点で、相当由緒正しいんだろうなと思う。
それこそK市カーストで言うと霧子ちゃんちがクシャトリアで、黒金さんがシュードラ位。
でも現代日本の基準だと両方ともオーナー企業の社長さんだから一国一城の主クシャトリヤで、うちやえっちゃんちはサラリーマンだからシュードラだよね。
リアルでバラモンで女神の化身であるサラスさんはどう思うんだろ、こう言うの。
あの人私の事は対等に扱うけど、それ以外の日本人に対しては少し侮蔑的な感じが無くもないんだよね。
やっぱりインドなんか行きたくないよ。
ここは一つ黒金さんちの問題を解決して、『気さくに頼れる祥子ちゃん』の地位をゲットしなければ。
家に帰ってから考えてみたけど、何も思いつかない。
廃車圧縮した金属の塊を祝福してみても誰も喜ばないしね。
金属か。
そう言えば、ネットで見るラクシュミーの絵って、私が書いたのと違って、手から金貨が流れ落ちてるのがあるよね。と言うかそっちの方が多い。
え、何?
右手のこぶしの中に何か硬くて冷たいものがある。
開けてみると、わっ。何かある。
金色で10円玉位の大きさで、人か何かの像が刻印されてる。
これって『金貨』?
見なかった。見なかったよ。
とりあえず勉強机の一番上の右の引き出しを開けて、手をこうパッとして、見ずにそのまま閉める。
セーフ。
何も知らないから。金貨とか何も知らないから。
そうか、金だよ、金。
回収してきた金属ごみの中に『偶然』金の延べ棒が混ざってるとか。
黒金さんのお父さんが、それを『偶然』見つけるとか。
以前もなんかそんなニュースあったよね。
一回あった事ならまたあってもおかしくないよね。
ああ言う金塊とか札束が入ったかばん見つけるのとか、大抵落とし主が現れないって聞いた事ある。
脱税とかなんとか、表に出せないお金なんだって、ああ言うの。
そうだ、ラクシュミーにお祈りしよう。
『黒金さんのお父さんが会社再建に必要な額の金塊を、金属ごみの中から見つけますように。
それで落とし主が出てきませんように。』
翌日の夕方,TVで『黒金金属の社長が2億円分の金の延べ棒を金属ごみの中から見つけた』ってニュースが流れたよ。
更にその翌日の昼休み。
「黒金さんところ、金の延べ棒見つけたんだよね。」とえっちゃん。
「そうだね。」と私。
「あれ落し物扱いになるのかな?」と霧子ちゃん。
「確かそうだった気が。
これで6ヶ月落とし主が出てこなければ2億、出てきても大抵10%謝礼払うから2千万ゲットだね」と私。
「祥子ちゃん何かした?」と霧子ちゃん。
「何もしてないよ。でもこれで私が何かする必要なくなったよね。」と私。
「本当に?」と霧子ちゃん。
「全然何もしてないよ。第一私、黒金さんのお父さんとあった事もないんだよ。
唯の偶然。運が良かったんだよ。」と私。
「運が良かったって今言ったよね。
TV局のテープが消えてたのは運が悪くて、金塊見つけたのは運が良かったって事?」と霧子ちゃん。
「霧子ちゃんどうしてラクシュミーの事になるとそう鋭いの。」と私。
「だからそんな都合良く行くなんて確率的に有り得ないから。」と霧子ちゃん。
手の中に金貨が生まれる確率なんて存在しないよね。
多分。




