交換留学生が来た
「もうホームルームの時間ですよ。
着席して。」
と担任の峰山先生が大きな声を出したよ。
いつのも事だけど、峰山先生ちょっと舐められてるのよね。
「このクラスにインドから交換留学生が来ました。入ってきて。」
なんかインドっぽい女の子が来ましたよ。
美人だし、ブレザーの制服が妙に似合ってるね。
インドって言うと色黒って思ってたけど、彼女は色白だね。
「サラスヴァティー・モトワニです。サラスって呼んで下さい。」
と流暢な日本語で話したよ。
サラスヴァティーって名前でなんかドキッとしたけど、気のせい、気のせい。
「彼女はこれから3月までこのT高校で勉強します。皆さん仲良くしてね。」
と峰山先生。
1時間目の英語でサラスさん当てられたけど、流石に英語うまいね。
1時間目が終わると、サラスさんの周りはクラスの女子で一杯になったね。
私は関係ない、関係ない。
いつも通り前の席のえっちゃんとおしゃべり。
「なんかまたエリサさん出張ってるね。」とえっちゃん。
「触らぬ神にたたりなしって言うしね。」
「あんた、それ言う?」
「何の事でしょう?」
なんか人の群れがこっち来るよ。どうしたの?
サラスさんとエリサさまが私の机の横に来て、周りをクラスの女子が囲んでる。
私何かしたっけ?
「この子が、吉 祥子さん。」と私を手で示しながらエリサさま。
「シュリー」とサラスさん。
え、何?シュリーって。
私は立ち上がると
「はじめまして、モトワニさん。」
と言ってお辞儀をした。
そしたら、サラスさんはちょっと悲しそうな顔をして去って行った。
「吉さん、彼女自分の事サラスって呼んでくれって言ってたのに。」とエリサさまに言われちゃったよ。
「そうでしたね。すいません。」と私。
4時間目は芸術の時間で私とえっちゃんは美術、霧子ちゃんとエリサさま、サラスさんも音楽みたいね。
美術の授業は石膏像を鉛筆でデッサンしたよ。
鉛筆画は結構得意なんだ。
4時間目が終わるといつもの3人でお弁当。
「サラスさんの演奏と歌凄かったよ。」と霧子ちゃん。
「え、演奏?」と私。
「音楽の授業で、先生が彼女にインド音楽何かやってくれって言ったんだよ。
それでギターを弾いて歌ったんだけど、もうプロ級。」
「そうなんだ。」と私。
「あんたちょっとぼんやりしてない?」とえっちゃん。
「なんかちょっと混乱してるかも。」と私。
「どうしたの?」と霧子ちゃん。
「一時間目と二時間目の間の休み時間にサラスさんが来たじゃない。
あれからなんかぼんやりしてるのよね。」とえっちゃん。
「うーん、なんかちょっと変な感じ。」と私。
「サラスさんが祥子ちゃんに、一言何か言ったのよね。」とえっちゃん。
「何言われたの?」
「良くわからなかった。」
「それじゃあ何とも言いようが無いし。」
「それはそうとサラスさん美人だよね。」とえっちゃん。
「思うんだけど、祥子ちゃん段々綺麗になってきてない?」と霧子ちゃん。
「えー、そんなこと無いよ。」と私。
「うーん、ちょっと綺麗になってきた気もするね。」とえっちゃん。
口で何を言っても、綺麗になったって言われて悪い気はしない。
そっか。綺麗になりましたか。えへへ。
帰宅部なので、放課後そうそうに帰ろうとすると、校門の辺になんか怪しい人がいる。
なんかマイク持ってない?
後ろに大きなビデオカメラ持ってる人もいるみたいだし、TVの取材かな。
え、サラスさんなんか取材されてるっぽい。
何か知らないけど、凄いね。
横すり抜けて帰ろっと。
って、誰腕掴んでるの。
と振り返ると、サラスさんが私の左肘を掴んでる。
TVカメラがこっち向いてるじゃない。
きゃー、止めてよ。
「彼女に会うために日本に来ました。」
えー、サラスさん何言ってるの。
なんか強引に引っ張られたよ。
サラスさんの前に立たされて、マイクが私の方に向けられたよ。
サラスさん、私より随分背が高いのよね。
「サラスヴァティーさんとのご関係は?」
「エーっと。」
あーもう思考停止だわ。
何にも思いつかない。
「私たち親友です。ねー。シュリー。」
って、ちょっと、サラスさん。
逃げ出そうにも前はTVスタッフ、うしろはサラスさん、まわりにうちの学校の生徒が囲んでて逃げられない。
サラスが耳元で日本語でない言葉で何かささやいた。
『知らない振りした罰です。シュリー。』
全然知らない言葉なのに何故か意味が分かった。
『また後で。』
自分ではない何かが私の口使って話したよ。
と思うと、何かが凄く光って、みんなの気がそれたすきに私は逃げ出したよ。
家に帰りつくと、さっきのビデオカメラについてたマークの放送局に合わせて、HDレコーダーで録画開始。
お父さんは仕事、お母さんはパートで7時までは帰ってこないし、暫くは私一人なんだよね。
5時からの地元情報番組を見てたら、出てきたよ。
何々、「当局取材中に落雷か?」って。
「インドの歌姫サラスヴァティー・モトワニさんが交換留学で来日。
当局取材中に閃光が走るアクシデントがありました。
落雷と思われます。
幸い死傷者はありませんでした。」
レポーターが校門を出たところでサラスさんに突撃取材だね、これは。
「サラスヴァティー・モトワニさん。音楽活動を休止して、全世界のファンは落胆していると思いますが。」
失礼な質問ね。このレポーター。
と言うかサラスさん、世界中にファンがいるような有名な歌手なの?
全然しらなかった。
「私にはどうしても会わないといけない人がいたんです。」
この隅っこから手前に来てるの私じゃない。
サラスさんさっと移動して、私の左手の肘掴んで止めたよ。
「彼女に会うために日本に来ました。」
と言いながら私を強引にカメラの前に引っ張りこむサラスさん。
ちょっと強引過ぎるんじゃない?
「サラスヴァティーさんとのご関係は?」
「エーっと。」
あーあ。パニックになってあわあわしてるよ、私。
まあただの一般人だからね。
サラスさんみたいな世界的な歌手とは違うわ。
「私たち親友です。ねー。シュリー。」
何が「ねー。」ですか。
今日初めて会ったのに、「親友です。」はないでしょう。
サラスさん何か喋ったんだけど、全然知らない言語だよ、これ。
それからピカッと……私が光ってるじゃん、これ。
どう見ても私が光ってるよ。
どうしよう。
ビデオはそこで切れたけど、呆然としてしまった。
どう考えてもサラスさん、ラクシュミーの関係者でしょ。
さっきの私が光ったのもラクシュミーの仕業でしょ。
どーするのよ、これ。
明日から生活に支障が出るよ、これ。
そう言えば霧子ちゃん、ラクシュミーの事スマホでググッたって。
サラスヴァティーをググってみようっと。
何々、wikipediaによると
「サラスヴァティーは、芸術・学問などの知を司るヒンドゥー教の女神である。
日本では七福神の一柱、弁才天(弁財天)として親しまれており、仏教伝来時に『金光明経』を通じて中国から伝えられた。 」
だって。
え、サラスさんって弁天様なの?
何それ。