表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんな悪女はお嫌いですか?  作者: フオツグ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

一輪の薔薇

「イーリスのお茶会へ行ったそうだな」


 ディナータイム。俺はローゼに確認を取った。

 今日の昼、キーファからイーリス()がローゼをお茶会に招待したと聞いた。初耳だったから驚いた。


「はい。とても楽しませて頂きました」


 ローゼは微笑みながら答えた。


「何故、俺に言わない……」

「おや、伝え忘れてしまったようです。申し訳ありません。次は必ずお伝えします」


 この白々しい態度……やはり、わざと伝えなかったようだ。

 イーリスは俺の婚約者だった。ただそれだけだ。婚約破棄をした今は何もない。隠すつもりはなかったが、わざわざ教えるつもりもなかった。ローゼを不安にさせるだけだ。

 一部では、俺とイーリスが婚約破棄した後も密会をしていると噂されているらしい。全く、下らない。

 イーリスが何か余計なことを言っていないと良いが……。


「何もなかったか?」

「ふふ。旦那様は何を心配しておいでで?」


 ローゼはくすくすと悪戯っぽく笑った。


「質問に答えろ。何もなかったかと聞いている」

「旦那様が心配するようなことは何もありませんでしたわ」


「ああ、そうでした」と思い出したように言い、ローゼは包装された箱を取り出した。


「お土産に行列店『ボヌール』のステンドグラスクッキーを頂きました」

「これまた懐かしいものを……」

「お食べになりますか?」

「お前が食べるといい。俺は要らん」

「旦那様がお好きだとお聞きしましたが」

「……子供の頃の話だ。甘いものは好まない」

「そうでしたか。では、使用人の方々と頂きますね」

「そうしろ」


 ローゼは生家の使用人を一人も連れてこなかった。生家での扱いを俺に知られたくなかったのだろう。

 ヴァイス家は資金繰りに苦しんでおり、使用人の給料も薄給であった。それでも使用人がヴァイス家に残り続けたのは、ひとえにローゼの身を案じていたからだ。そんな使用人達はローゼが嫁に行くのを見届けたあとにヴァイス家を後にしていた。

 ローゼ断罪劇について調べたとき、俺は彼女達に接触した。

 最初は金を渡して証言を得ようとしたが、突っぱねられた。代わりに、ローゼの侍女として雇ってくれるならローゼの真実を話すと交渉してきた。

 ローゼの正体を暴いたあと、約束通り、彼女達をツィノバーロート家の使用人として雇った。使用人とローゼは涙の再会を果たした──と言っても、泣いていたのは使用人だけだったが。

 ローゼには予想外の再会だったのだろう。かなり驚いていた。ローゼは困ったような顔をしていたが、笑顔が隠しきれていなかった。

──ローゼは孤独ではなかった。

 血を分けた家族が敵の中、彼女の幸せを願う者達がいた。その事実に俺はどこかホッとした。


 ローゼの生家──ヴァイス家への援助金は既に払い終えている。婚姻の際に提示した額に少し色をつけて渡したのだが、ヴァイス伯爵はもっと寄越せと言ってきた。

 俺はローゼに一切関わらないという念書を書くなら金を渡すと言った。これが最後だ、と念を押しもした。所謂、手切れ金だ。

 ヴァイス伯爵は直ぐに承諾した。どれだけ金を手に入れようと、散財癖のある母娘を何とかしなければ生活は苦しいままなのだが、わかっているのだろうか。……わかってないからこそ、目先の金に飛びついたのだろう。

 ローゼの社交の才は飛び抜けている。彼女の力を最大限発揮させられたなら、伯爵家を立て直すことも出来ただろう。奴らには決して教えてやらないが。

 ローゼはあんな親でも親だと思っているようだ。だが、会いたいとは言わない。それが全てだ。俺もローゼを手放すつもりは毛頭ない。


 話を戻そう。目下の問題はイーリスについてだ。


「ローゼ、お前にはイーリスがどう映る?」

「大変、面倒見の良い方のようですね。弟君がいるからでしょうか。彼女にお世話になった方も多いようです」


 その通り、イーリスは昔からお節介だった。彼女を慕う者がいる一方、煙たく思う者もいる。


「噂話などどうでも良い。お前の感じたことを話せ」

「そうですね……。私に向ける感情は、警戒、動揺、戸惑い……【腹黒悪女】の噂を聞いていたからでしょうね。ですが、警戒心は大分薄れてきたように思えます」

「お茶会を経て、親密になったようだな」

「ええ。しかし、不思議なのは旦那様に向ける感情です。嫉妬、後悔、恐怖、嫌悪感……仲の良い幼馴染みのはずなのに」

「恐怖、嫌悪……」


──俺の醜さに、か。

 俺は顔の火傷跡に手を当てた。

 初対面の人間より顔見知りの方がこの顔を怖がる。俺はそれをよく知っている。


「彼女は何に恐怖し、何に嫌悪しているのでしょう」

「俺でもわかることをお前がわからないとはな」


 俺は鼻で笑った。


「人間の感情というのは複雑ですから」


 ローゼはそう言って、この話を終えた。


「旦那様、一つお願いがございます」

「なんだ、言ってみろ」

「薔薇園の薔薇を一輪、手折って頂けませんか?」

「はあ……? 今度は何を企んでるんだ」

「イーリス様にお聞きしたのです。薔薇を一輪手折って、彼女に差し上げたと」

「イーリス……やはり余計なことを言ったな……」


 俺は額に手を当て、ため息をついた。


「俺はもう子供ではない。その話は忘れろ」

「しかし……」

「忘れろと言ってる」


 俺は睨みつけた。ローゼは不服そうに口を尖らせていたが、それ以上食い下がってこなかった。


 □


 次の日。

 俺が仕事を終えて屋敷に戻ると、ローゼが出迎えた。


「お帰りなさいませ、旦那様──」

「ほら、やる」


 俺は出迎えたローゼに薔薇の花束を渡した。

 ローゼは反射的に花束を受け取り、目をぱちくりとさせた。


「旦那様、これは……」

「薔薇を欲しがっただろう。妻に渡す薔薇がたった一輪だけなど、ツィノーバーロートの名が廃る。俺はもう子供ではない。花束で薔薇を渡せるぞ」


 俺は自信たっぷりに言ってやった。すると、ローゼは目を見開き、


「ふ……ふふ……!」


 腹を──いや、薔薇を抱えて笑い出した。


「……何がそんなにおかしい」

「旦那様が子供の頃のご自分に張り合っているんですもの。お可愛らしくって……!」


──ああ、やはり、柄にもないことをするんじゃなかった……。

 こんな笑われるのなら一輪だけ渡せば良かった、と俺は後悔した。


「ふふ、ふふふ……。ありがとうございます、旦那様。薔薇、とても嬉しいです……」


 ローゼは滲んだ涙を指で拭い、微笑んだ。笑い涙か、嬉し涙かはわからなかったが、喜んでくれてはいるようで安心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ